俺はあっけにとられて動けなくなった。今まで異世界で魔法などの不思議なことが起こるのはなんとなく受け入れていたのだが、日本で当たり前のように瞬間移動が使われていたのだ。彼らにとっては日本も自在に操れるフィールドの一つに過ぎない、という事だろうか?
 俺はしばらく放心状態で立ちすくんでいた。

       ◇

 帰り道、エステルは上機嫌だった。
「えへへ、女神様に会っちゃったですぅ」
 そう言ってスキップをして、クルッと回って可愛くニッコリと笑った。

 俺はと言うと、人間離れした彼らの存在をどう考えたらいいのか途方に暮れていた。
 異世界を作った先輩に、ワープして消えたAIベンチャーの人たち、神はAIと不可分だというリーダー……。
 全く想像が及ばない世界に、俺はため息をついた。
 
「ソータ様、二次会やるです! 二次会!」
 そう言いながら、うつむく俺を下からのぞきこむエステル。
「うーん、じゃあコンビニで買ってくか……。飲み過ぎはダメだぞ」
「やったぁ!」
 はしゃぐエステル。

       ◇

 部屋に戻り、鏡を抜けて宿屋に行く。こっちの方が広いので飲むならこっちだろう。
 ポテチの袋を開けて小さな丸テーブルに置き、缶ビールをプシュッと開けた。
 エステルは梅酒のソーダ割を選んだが、缶の開け方が分からないようだった。
「こうやるんだよ」
 そう言って開けてあげる。
「さすが! ソータ様!」
 缶を開けてほめられたのは、生まれて初めてかもしれない。

「カンパーイ!」「かんぱーい」
 まずは乾杯。ゴツっと缶をぶつける。
 それにしても今日はいろいろあり過ぎた。もう頭が追いついていかない。
 俺はビールをゴクリと飲み、ホップの香りに浸りながら、ふぅっと息をついた。

「明日はどうするですか?」
 梅酒を片手に、エステルがニコニコしながら聞いてくる。
「ギルドに殺虫剤代を貰いに行って、換金して、買い付けに行って、線香使って遅延発火のテストだな……」
「大変ですぅ……」
 エステルが眉をひそめる。
「魔王と話がつけば戦わずに済みそうなんだけどね、一応準備は進めないと」
「魔王さん止めてくれるですかねぇ?」
「女神様の口ぶりじゃ止めてくれそうだったけどねぇ」
 戦闘は何とか避けたい。殺虫剤がうまく機能したとしても十万匹相手では犠牲は出てしまうからだ。