棚からクッキーを出し、ポリポリとかじりながら地図を眺める。十八階の次は十九階、そして二十階はボス部屋……ガーゴイルが出るらしい。確か、石でできた猛禽(もうきん)類の魔物……。そんなのに殺虫剤は効くのだろうか?
 まぁ、効かなかったら鏡に逃げればいいか……。
 俺も座布団を枕に床にゴロンと転がった。そう言えばしばらくベッドで寝てないじゃないか。寝袋でも買おうかな……。俺はそんな事を考えながら寝入っていった。

       ◇

「ソータ様! 申し訳ございません!」
 耳元で大きな声がする……。
 さすがに慣れてきた。
「いいから、寝かせて。眠いの……」
 俺は毛布をかぶる。
「ソータ様ぁ……」
 エステルが毛布を引っ張る。
「分かったよ」
 俺はそう言って身体を起こし、ベッドに転がろうとしたが……、前回、エステルの匂いに包まれて眠れなかったことを思い出した。
 お金も稼げるようになったんだし、広い家に移るかなぁ……。
 俺はそんなことを思いながら大きくあくびをする。
「あれ? 寝ないですか?」
 エステルは俺の顔をのぞきこむ。
「きみはもう少し『自分は可愛い女の子なんだ』という自覚を持つべきだと思うよ」
「か、可愛いだなんて……、そ、そんな……」
 赤くなってうつむくエステル。
 どうも趣旨が伝わっていないようだが面倒くさくなり、飲みかけの冷たくなったコーヒーをグッとのんだ。

 パンとサラダで簡単に昼食を摂ると、エステルは、
「少し寝たからもう元気いっぱいですぅ!」
 と、両手のこぶしを握った。
「じゃあ、行くか!」
 俺たちは十八階に隠しておいた鏡からそっと辺りをうかがうと、ダンジョンに再エントリーした。

 まずは階段で十九階へと降り、地図を見ながらルートを確認する。
 二十階への階段を目指して慎重に進んでいくと、向こうの方から戦闘音が聞こえてきた。誰かが戦っているようだ。
 邪魔になっても困るし、避けた方が良いかと思っていたら、
「キャ――――!」
 という、悲鳴が上がった。
 俺はエステルと顔を見合わせ、うなずくと、悲鳴の方へと急いだ。

 タッタッタッタ!

 駆ける足音が響き、誰かが走ってくる。
 誰だと思ったら、朝にエステルを罵倒していた剣士だった。

「あれ? お前、仲間は?」
 俺が聞くと、
「うるせぇ!」
 と、叫んで駆け抜けて行った。