「先生!」
僕らへの説教の途中でスっと手を挙げながらそう言ったのは周りの空気が全く読めず、いつも訳の分からないことばかりやっていてみんなから嫌われている女の子。小泉明菜だった。
「小泉…どうかしたか?」
急に手を挙げられたことで動揺している先生。
「ひとつ質問いいですか?」
説教の途中だというのにお構い無しにいつも通り空気の読めない言動。それがみんなから嫌われる原因なのだ。
「え?ああ。いいぞ」
矛先が彼女に向いたみたいで良かった。
「人の血と絵の具の赤色どちらが赤いですか?」
唐突にそんなことを言い出した。クラスの大半がその発言に耳を疑った。いつになっても慣れない言動だ。
そして一瞬、時が止まったみたいに全員が制止した。
その状態を断ち切ったのは先生だった。
「と、突然どうしたんだ?」
「いえ、ただの純粋な疑問です」
ちらっと彼女の方を見ると暗殺の仕事をしている僕でも恐怖を感じるレベルのやばい目をしていた。
「えっと……。それは見比べてみないと先生にも分からないな。多分だけど絵の具の方が赤いんじゃないか?」
そんな彼女の純粋な疑問に答える先生。
「わかりました!ありがとうございます!あとやっぱりもうひとつ質問いいですか?」
「あ?ああ。僕が答えられる範囲なら構わないよ」
「人間の骨ってどれだけ硬いんですか?」
また訳の分からない質問を彼女は平気でした。
「さっきから物騒な質問してくるな。まぁいいや。そーだな…。のこぎりなら切れる位って前テレビで見たぞ」
そう答えた時に授業終了を知らせるチャイムが鳴った。
「じゃ、じゃあ今日の授業はここまで。号令。」
号令係の合図で全員が礼をして授業が終わった。
「ね、やばくない?あの子」
もっとやばいのが隣にいるのにも関わらず霞はそう言ってきた。
「確かに、ちょっとやばいな」
僕はそれしか言えなかった。
生物の授業中とはいえあの質問をするのはなかなかイカれてる。
そのあとは何事も無かったように全ての授業が終わった。
帰りのホームルーム中先生が、
「最近この辺り物騒だから気をつけて帰れよ〜」
そう言ったがこういう時、僕はどういう顔をすればいいのだろうか。
ホームルームが終わり帰宅しようと教室から出ると霞がいつものノリとは違った様子で話しかけてきた。
「ねぇ、今日あんたの家に遊びに行ってもいい?」
急にどうしたのだろうか。何故か顔を赤くしている。
「急にどうしたの?あと、僕の家は無理だよ」
「なんで?一人暮らししてるんでしょ?まさか彼女と同棲してるとか?」
彼女はまず居ない。ダメな理由なんて簡単だ。人を殺すための刃物や血の着いたタオル、などなど置いてあるから家に入らせたくないのだ。
「確かに一人暮らししてるけど、彼女なんていないよ。でも悪いがダメだ」
なんで一人暮らししていることを知っているのかわからなかったが別に隠してるわけではなかった。わざわざ伝える程のことではないだけだ。
「そっか……。じゃあまた明日、学校で!」
そう言って少し悲しそうな顔をしてから走って帰ってしまった。なんだったんだろうか。
とりあえず僕も帰ろうとした時、僕のことを見ている視線を感じた。振り返るとそこには小泉明菜がいて、不気味な笑みを浮かべてこっちを見ていた。
仕事を初めてから大抵のことでは怖がらなくなったが鳥肌が立った。そして、彼女はそのまま後ろを振り返り去っていった。
「何だったんだ?」
すぐに家に帰って風呂に入ってからパソコンを開いた。
僕の仕事の依頼はこのいかにもヤバそうなサイトを使っている。
ここのダイレクトメッセージで依頼の話をするのだ。たまに今朝のように電話で言われることもあるが大半はダイレクトメッセージだ。
「今日は……来てないか」
僕的には来ない方がいい。さすがに赤の他人とはいえ人を殺すのはいつまでたっても慣れない。いや、慣れてしまったらって考えると少し怖い。
「コンビニでも行くか」
そう独り言を呟いてからコンビニに向かった。
買うものはいつも決まっている。
僕はいちごオレと焼肉弁当を持ってレジに並んだ。外でヤンキーがうるさかったが気にせず、会計を済ませ家に帰宅した。
家に帰るととりあえず買ったものをテーブルに置いて少しベッドに横になった。
「あれは…なんだったんだろうか」
今僕が悩んでいるのは2つだ。
1つ目は帰り際に霞が何を言っているのかわからなかったこと。そして、2つ目はあの小泉明菜の不気味な笑みについてだ。彼女のことはよく知らないし、今年初めて同じクラスになるし、同じ中学だったやつもいないと思う。
1つ目に関しては霞に直接聞かないと分からないことで、2つ目もいくら考えても解決する問題ではなかった。
とりあえず今は、霞が僕の家に来たがってたからとりあえず部屋を片付けることにした。銃やナイフなどをケースの中にしまいベッドの下に隠した。とりあえずこれで一安心だ。おそらく一人暮らししてるのが羨ましいのだろうけど一人暮らしもなかなか辛いけどな。と心の中で呟いておく。それからは家事をした。洗濯物や
『7月15日』
今、私はとある森の中にいる。署から車で1時間ほどの場所だ。理由は今回の事件がそこで起こっていたからだ。最近、森での事件が多い気がする。おそらく殺害したのは前回と同じ人だろう。ニュースでは自殺と言っていたが、私は違うと思っている。もちろん刑事のカンだ。
そしてこの森は普通ならそこは静かな場所だが鑑識が出すカメラのフラッシュの音や刑事たちの喋り声などがしていた。
「安藤さん!遺体を見るのはちょっと待ってください!」
今回の事件を担当することになった私は遺体の確認をしなければならない。だからブルーシートに包まれている遺体を確認しようとしたが後輩の齋藤に止められた。
「どうした?前回とは違うのか?」
前回の事件は森で頭を銃で撃ち抜かれた死体だった。
後輩の齋藤は顔色が酷く悪く、なにか少し言いずらそうな顔をしていた。
「……酷いってレベルじゃないですよ……今回のは」
止められようが見なきゃ何も始まらない。
「平気だ。私が今までどれほどの遺体を見てきたと思ってる。きちんと被害者達のためにも確認せねばならんよ」
少しだけカッコつけてからブルーシートをめくるとそこには随分昔に見たあの遺体と同じような姿だった。
生きていた人だとは思えないような状態になっていた。四肢はノコギリのようなもので切られて、上半身と下半身がばらばらにされ、両耳や鼻が切り離されて無理やり口の中に入れられて、目玉が片方飛び出ていて所々が焼け焦げていた。そして、とにかく悪臭がひどい。そのせいでハエが飛び回っていた。私はその姿を見て思わず吐き気がしてきて外に飛び出て少し遠くに離れ吐いた。
「だから……言ったじゃないですか…」
私の背中を齋藤が摩ってくれていた。
あの事件と同じだ。私たちが捕まえることが出来なかった。あの事件の犯人と……。
「……ありがとう。もう落ち着いた。さぁ現場に戻ろう」
少し水を飲んでから休んだら良くなったので仕事に戻る。
「え、大丈夫なんですか?」
「さっきも言ったが被害者遺族の為だ。まずは身元を調べなければならない」
現場に戻ったところで鑑識から、
「あの、死亡推定時刻はおそらく1週間程前だと思われます。そして遺体の手と足がこのようになってまして…」
そう言ってある写真を見せてきた。
「これは……」
遺体の近くにあった4本の木にそれぞれ足と手が太い釘のようなもので刺さっている写真だった。
「今回の事件特殊すぎますね」
鑑識の人は続けてそう言った。
「…特殊?」
私が聞く前に齋藤が聞いてくれた。
「はい。指紋がほんの少しも検出されなかったんですよ」
指紋が少しも検出されない事件はこれまでも多々あった。
「それってたまにあるんじゃないですか?」
再び私が聞く前に齋藤が聞いてくれた。
「ええ。ごく稀にありますけど、今回のはそれだけじゃないんですよ。ここは森の中ですよ。皆さん後ろを振り返ってみて下さい」
そう言われたので言われるがまま後ろを振り返ると、
「これって…」
「はい。足跡が着くはずなんです。でも、現場には被害者の靴の足跡しか残ってなかったんです。」
「ってことは自殺?」
その齋藤の言葉に思わず、
「そんなわけあるか!これを自分でやったというのか?」
たとえ自殺願望があったとしても自分でやるのは無理だ。それにこの事件は見たことがある。随分前だが。
「そして、凶器とみられるノコギリもまだ見つかってないんですよ」
またあいつが現れたというのか?
私の夫を殺したあいつが。
『7月2日』
「おっはよー!」
いつも通り徒歩で学校に向かっていると霞がいつものように声をかけてきた。
「ああ、おはよう」
挨拶を返すと霞は少し照れながら、
「今日は家に行ってもいい?」
そう言ってきたが、なんでそんなに僕の家に来たいのか理解できなかったが、別に構わなかった。ちょうどこの前普通の男子高校生の部屋にしたとこだし。
「別にいいけど…。特に見せるものはないよ?」
そう伝えると彼女は「やったー!」と叫びながら学校の方へ走ってしまった。
彼女のことは入学当初から知っているが、よく分からない。なんで僕に絡んでくるのかとか、言動とか、僕からしたらみんなが嫌っている小泉とあんまり変わらない。
その日の放課後、僕は霞を家に招き入れた。
「え!?なんで靴こんなにあるの?」
僕の家には数え切れないほどの靴がある。これはもちろん仕事道具だ。でもそんなことは言えず、
「ちょっと集めるのが趣味でね……」
「へ〜!ちゃんと綺麗にしてんじゃーん!」
リビングに入るなり上から目線でそう言った。
「あまり散らかすなよ」
武器とか物騒なものがあるから。とプラスで心でそう思った。
「まさかエッチな本でも隠し持ってるの?」
ニヤニヤしながらそう言ったが、今どきの高校生はエッチなものはネットで見ると思う。僕はそういうのはあまり興味がないけど。
「んで、なんで俺の家来たかったわけ?」
そう尋ねると霞は「えっとねー」と言って僕の家に来た理由を話し始めた。
「たまり場?にしたいからかなー。」
「たまり場?家に帰りたくないとか?」