「いや、たまたま私も借りたい本があっただけよ」
彼は右手に新聞を持っていた。
「じゃあ僕の勘違いですね。てっきり僕が事件に関与してるとまだ疑っていて、つけてきたのかと思いました。何かずっと誰かを探してるみたいだったので」
強調するためにわざわざ倒置法で言ってきた。警戒されるとこっちも困る。
「本当に今日はたまたま同僚とブラブラしてただけよ」
スっと左手を見るとマメの数が凄かった。
「ところで、前から気になってたんだけど…すごいマメの数ね…剣道とかやってるの？」
あくまで自然に、怪しまれないように。
「いえ、剣道はやってないですね、でもピストル射撃っていう競技をやってたことがありますね」
ピストル射撃…。確かにそういう競技はあるにはある。これだけで犯人に加担してるとは断定はできない。
「そっか…ピストル射撃ね…｣
「ところで刑事さんは何を借りに来たんですか？」
借りるものは特にないが、仕方ないので、
「小説を読むのが趣味だから何か面白い本ないかなーって探してただけよ。だから別に借りるものとかは決めてないのよねー」
そう言ってからチラッと上を見ると、こう言ったことを後悔した。
「でも、ここ新聞とか雑誌コーナーですけどね」
私としたことが…まずい怪しまれるか…。
「まぁいいですよ。じゃあ僕帰りますんで」
そう言って私の横を横切った。