「すみません。倒れた時のことよく覚えてなくて。覚えてるのはその日は1人でその近くを散歩してたくらいですかね…」
あくまで疑われないようにそう答えた。
「わざわざ隣町に行って?」
やっぱりそう来るか。
「はい。理由とかは特にないんですけど…。強いていえば気分転換ですかね。この辺は散歩仕切ってしまって。その日はたまたまって感じですかね」
大丈夫だ。ボロはでてない。僕は悪くない。僕は悪くない。僕は悪くない。再び自分に言い聞かせた。
「その運ばれた病院の医者はなんて?」
「ああ。倒れた原因ですか?それは軽い貧血だそうですよ。嘘だと思ってるならその病院へ行ってみてくださいね」
僕は笑顔でそう答えた。
「わかった。一応これを渡しておくからなにか分かったら連絡がしてくれ」
そう言って彼女は胸ポケットから名刺を取り出した。
「安藤…なつみ……」
もしかして霞のお母さんなのか。それなら僕が倒れた場所があの森だったことを知っていたことにも納得出来る。
「どうかしたか?」
そう聞かれハッと我に返った。
「あ、いえ。なんか分かったらこっちもお知らせします」
そう伝えると彼女は「お茶、ごちそうさまでした」と一礼してから僕の部屋を出ていった。