「そういえばさ」
電車に揺られながら霞が話しかけてきた。というか基本的に僕から彼女に話しかけることはない。
「何?」
「うちのお母さんが最近家に帰ってこないんだよね」
おそらく事件か何かで忙しいのだろう。分かってはいたが聞いて欲しいと目で訴えていた気がした。
「なんで?」
「いや、なんかさどうしても解決したい事件があるんだって。ほらこれ」
そう言ってスっとスマホを見せてきた。そこには聞き覚えのある名前が被害者の欄に書いてあった。
「この事件……」
僕は再び吐きそうになった。
悪いのは僕じゃない。
悪いのは僕じゃない。
悪いのは僕じゃない。
悪いのは…………。
そう何度も何度もいつも以上に自分に言い聞かせた。
「大丈夫!?」
霞がすぐに背中をさすってくれた。その手はとても暖かったがそんなことを気にしている暇もなくあの現場、そしてあの不気味な笑みを浮かべた小泉明菜の顔がフラッシュバックした。
僕らは目的地の駅では降りず、次の駅で電車を降りた。
駅のベンチに腰掛けると霞が持参した水筒の中の水を飲ませてくれた。
「ごめん……」
霞が何故か僕に謝った。謝れるようなことはされてない。謝りたいのはこちらの方だ。
「なんで謝るのさ。こっちこそごめん。少し電車に酔っちゃった」
言い訳が苦しかったが仕方がない。
「だって……。もしかしてさこの男の人…知り合い?」
霞が恐る恐る僕にそう聞いた。僕の返答は決まっている。
「いや、知らない人だよ。本当に電車に酔っただけだから心配しないで」
水を飲むと少し落ち着いた。
「もう大丈夫だから。行こ?」