葉月とおばさんの戦いはまだ続いている。傍らで観戦している僕の体が熱くなってきた。エアコンもきいているはずなのに。額からも汗がしたたり落ちた。理由を探してみるとクーラーがきいていない。それにしても、だんだん上がっていく温度に苦しくなってきた。

二人の戦いが激しくなっていくので、飛び散りに巻き込まれないよう、もっと離れたところに行こうとした。しかし、足が動けなくなってきた。足には感覚がある。麻痺されたとか、しばりつけたとかそんなんじゃなかった。靴が床から離れなくなった。両手で太ももを掴み、力いっぱい引っ張った。靴の底が伸びた。ゴムでできた靴底は溶けて、伸びた。

これはいったい何?

うろたえる僕に葉月はおばさんのグリルを避けながら叫んだ。

「床がどんどん熱くなるからどこか高いところへ登って!」

わけもわからず、僕は葉月の叫び声に従い、近くにあるレジカウンターに登った。床には溶けた靴底の跡がしっかりと残ってある。

「あんた、気づいたみたいね」おばさんが話しだした。「この空間の床、天井はもうすぐグリルになるからね。もうすぐで足の置く場所もなくなるよ」

棚とか冷凍庫とかも溶けるだろうかと一人思っていると、確かに床に吸い込まれるように沈んていくのが見えた。すべてが溶け始めた。食材が焼かれた匂いも漂った。僕の乗ってあるカウンターも沈み始めた。

室内の温度は我慢しきれないほど上がった。

「もうすぐ、あんたたちの肉の焼けた音が聞こえるんだね。どんなにおいがするのかも楽しみだよ」

棚は一つ一つ崩れていき、まともな足場はもう少ない。

そんな中で葉月は懸命におばさんの攻撃を避けている。髪をいくら射ても、おばさんには当たらない。髪は全部グリルに焼かれて消えた。

僕は周りを見回した。何か葉月のためになることがないかと。すると、天井のスプリンクラーが目に入った。

おばさんにダメージは与えないかもしれないが、少しは邪魔になると思った。それに、床が冷えたら葉月ももっと自由に動いて攻撃できると思った。

僕はさっそく近く棚にあるライターを手に取り、火をつけた。跳びあがってスプリンクラーに近づかせようとしたらライターの火が消えた。跳びあがる時の空気の流れに火が消された。今度は跳びあがってからスプリンクラー目掛けに火をつけた。スプリンクラーは火をちゃんと感知してなくて、何度がやったのち、ついにサイレンの音とともに天井から水が噴き出してきた。

おばさんはこのアクシデントに一瞬気を取られた。この隙を葉月が見逃すはずがない。素早く駆け出し、髪を投げた。長く伸びた髪は性格におばさんの四肢を貫き、壁に釘付けられた。

おばさんは反抗をやめなかった。手首を動かし、黒い線でつながれたグリルを操った。体が動ける時のような鋭い攻撃はできないが、一時的に葉月を防ぐのは充分だった。

「諦めたら楽になる」

葉月は難なくグリルの攻撃をかわしながら話した。

「ここで諦めたら私の人生も終わるのがわかるよ、だから、戦えるどころまで戦う」

「人生は終わらない」

「そうかもね。でも、生きていても死んだのと同じよ。殺人犯人になったんだから!」

おばさんは最後の攻撃と言わんばかりに強く吠えてから、グリルを葉月目当てに投げた。腕が思うままに動けないから葉月に当てなかった。

時間が過ぎていくにつれ、おばさんの攻撃も力をだんだんなくした。

「まさかこんなふうに倒されるなんて、思ってもいなかったよ」

「ここまでしぶといと私も思ってなかった」

「でも、人生は後悔しないよ。最後の最後に抑えてた感情をちゃんと発散したから。あの嫌な親子の
お蔭かもしれないけどね。もう普通の人生は過ごせないから、ここで死ぬのもいいかもね」

「あなたは死なない、これから後悔をし続けるだけ」

言い終わるなり、葉月は息を吸った。おばさんの体からは黒魂は抜かれて、渦巻きながら葉月の口の中に吸い込まれた。

水に打たれながら僕は葉月の傍まで駆け寄った。

「早くここから出ましょう。もうすぐ消防車が来ると思うから」

葉月はうなずいてからまた髪の毛を抜けてはなった。髪の毛は事務室に向かって飛んでいき、どこかに刺さったようなドンという鈍い音を立てた。

遠くから消防車の音が聞こえてきた。

僕は葉月の手を掴みスーパーの後門から出た。

「なんで事務室を壊したの?」

家についてから僕は尋ねた。

「防犯カメラのデータを壊すため」

葉月は短く答えた。

ここまで考えてくれたことに感心した。

おばさんとの戦いのせいで、食料は何も買えなかった。冷蔵庫にあるもので適当に作るしかない。

「ごはんを食べたらすぐ出かける」と葉月が言った。

なので、早く食べれるものを料理することにした。早く食べれるものはただ一つ、カップラーメンだけだ。ラーメンを飲み込んでから、僕と葉月は家を出た。

葉月は何も言わず前を進んでいく。僕は後ろでついて行く。葉月の速度がだんだん早くなったので、僕は小走りになってしまった。心の中でははぐれないのを願うだけだ。