葉月が僕の部屋で休んでる間、僕はリビングルームのソファーに座り、テレビを見ていた。チャンネルを変えながら面白そうな番組を探した。すると、病院のニュースをみてしまった。

都市伝説みたいに紹介された。病院は崩れ、関係者たちはみなその夜のことを覚えていない。これは、何か新たな陰謀だの、宇宙人の仕業だのと、評論家たちは自分の意見を述べている。宇宙人の仕業と主張している評論家が一番真実に近づいているのかもしれない。

時間はいつの間にか夕方になった。空はオレンジ色に染めてある。僕の部屋からはなんの気配も感じられない。

三匹の黒魂との戦いでひどいけがをしたからいっぱい休まないと。

晩ご飯を作ろうと僕は厨房に入った。冷凍室には冷凍チャーハン、冷凍ギョーザなど冷凍食品がいっぱいある。チャーハンとギョーザをレンジに入れ、スイッチを押した。温めるまでやることもなかったので、携帯を取り出してメッセージがないか確認した。

桃色以外の人からは何の連絡も来ていない。深いかかわりがあるわけではないから同然のことだけど、ちょっぴり悲しくなった。

桃色のメッセージを確認すると全部、どこにいるの?何してるの?、こんな類の質問ばかりだ。一度でも答えたら永延と会話させられる恐れがあるのを知りながらも、つい返事を送ってしまった。人が寂しい時、どんなかすかな光でも浴びてみたい気持ちだ。

案の定、桃色はいろいろと質問攻撃を仕掛けてきた。面倒くさいと思いながらも感謝の気持ちが湧き上がったきた。

こんな些細な感動に浸っている最中、ドアの音がした。

僕の部屋から葉月が出てきた。顔は真っ白。病的な顔色だ。けががまだ治っていないみたい。

桃色とのやりとりは後回し。

「体は大丈夫?顔色がずいぶんとわるいけど」

「けがは全部治った。ただ、体力がまだ」

「ならもっと休んでよ。完全に回復するまで」

「そんな余裕も時間もない。来週の月曜日は大合戦。11名を相手にしなければならない。早く実力をあげないと」

それもそうだ。葉月が地球に来たのは運命の人と幸せに暮らすだめ。

「じゃ、ご飯たべよう。もう出来上がるところだし、いっぱい食べて体力をつけよう」

「そうだね」

葉月はソファーに座りテレビを見始めた。

チィ~ン!

レンジの音がした。

僕はチャーハンとギョーザを皿に移しリビングルームにもっていった。葉月はおいしそうに食べてくれた。

テレビはつけっぱなしになってた。チャンネルをいろいろと回してみたけど、一番多く放送されたニュースは猟奇殺人事件についてだった。

ここ最近、女性惨殺された事件が起こった。死体は裸のまま公園の芝生に倒れた。四肢は切断されたが、まだ見つかっていない。頭のついた胴体だけが芝生の上に、花に囲まれていた。画像は見せてくれなかったけど、想像するだけで、異様な感じがしてたまらなかった。第一容疑者は女たちの彼氏だ。行方をくらましたらしいので、今は指名手配中だそうだ。

このままこのニュースを聞くと、食欲も消えそうになったので、テレビを消した。

でもなぜか、殺人事件のことがずっと気になった。

「あの時、あいつを吸収するべきだった」

葉月がご飯を食べながらポツリと言った。

「どういう意味なの?」

僕はすぐ尋ねた。

葉月は僕をじっと見つめた。どう説明すればいいか、考えているのだろう。彼女は結局何も言わず、テレビを再びつけた。

殺人事件のニュースはまだ続いている。事件捜査が続くにつれ、わかってきた手掛かりが多いらしく、詳しく報道された。

女性被害者の死亡推定時間はほぼ同じ。それに、犯行場所はいつも人気のすくない公園。そして、付き合った彼氏がいて、事件後行方をくらましたこと、などなどいろいろと報道した。

葉月の言葉が気になったので、僕はもう一度きいてみた。

「『あの時吸収するべきだ』ってどういう事なの?もしかして、何かを知っているの?」

「犯人をわかっている」

「え!……誰なの?」

「知りたい?」

僕は頷いた。

「あの花屋の店員が犯人」

「嘘でしょう。しとやかな女性に見えるけど。もしかして、黒魂のせいなの?」

「そのとおり」

正直、僕は後悔した。あの時葉月を止めた事に。もし、あの時、葉月が、店員の黒魂を吸収したら、殺人事件が起こらなくてすんだのかもしれない。殺人事件が起こったのは、僕にも間接的に責任があるように思ってしかたない。

「くよくよと考えないで。あの三つの黒魂に手間取っただけ。そうじゃないと、すぐにでも店員の黒魂は吸収できた。それに、あなたに言ったように、黒魂は宿主が養った悪。責任が自分自身にある。あなたにではなく」

僕はどんな事を言えばいいか分らなくなった。

「こうなった以上、もっと悪い状態になる前に、片付けにいかないと」

「なら今すぐ行きましょう?」

「そうね」

そっけなく葉月は答えた。

「どうしたの?」

「店員の場合は黒魂が宿主を支配したのではなく、宿主の融合した。だから、僕が吸っても現れない可能性が大きい」

「じゃ、どうやったら解決できるの?」

「犯行をおかす直前に黒魂を片付ける」

葉月がこういったには、きっと何か考えがあるだろう。

「でも、どうやって、次の犯行時間の場所が分るの?」

「あの日、花屋から離れる前に、店員の頭に私の髪をうえつけた」

「今日も人を殺すかな?」

「やる」

「でも、黒魂もあなたの髪の存在を知っているでしょう」

「そう」

「ならどうして、黒魂はあなたの髪を抜かなかったの?」

「私の傷が回復してから、食べようとしているでしょう。でも、食べる方は私で、食べられる方はあいつになるけど」

しばらくの沈黙が続いてから、葉月が口を開いた。

「ギョーザもっとほしい」

僕はすぐ厨房へ行った。

「チャーハンももう一つ作ろうか?」

葉月は腹がすごく減ったらしく、チャーハンも食べると言い出した。

チャーハンとギョーザはあっという間に、葉月によって平らげてしまった。