しかし、こんなこと考えるの大抵夜だよな。しかもお風呂場であることが多い。


実際私だけではないはず。お兄ちゃんはバイト先の店長の悪口とか声に出して言っちゃってるし。


それだけ本音が漏れやすい場所なのかも。


お風呂ってさ、服を脱いで入る所じゃん。


アダムとイブが毒蛇に唆されなきゃ着なくてもよかった服をさ。


人の肉体はそのままでも美しいのに。
なのに服をきて着飾ることを人間は覚えた。


服って人間を象徴するものの一つだと思う。たまに犬とか猫とかも着てるけど。あれは着せられているのか。


でもその服を脱ぐのは、服で着飾って個性を出すという行為を封印することになる。つまり真に解放されてるの。


そんな表面上の個性とっぱらった身、一つの状態で、知り合いすら入らない完全プライベートな空間にポカンと我1人なわけよ。


そりゃ色々考えて見たりしちゃいますわ。今日あった嫌なこととか、人生とか。


普段頭の片隅に追いやって、何とか考えないようにしてるのに、心地よい魔法の湯溜りで全身の力だけじゃなくて心までほぐされちゃ、仕方ないね。


大きく伸びをして窓の方に目を向ける。


「あー……月が綺麗ね。」



なんて言ってみたりする。くもりガラスだから見えないけど。


あはは、恥ずかし、恥ずかし。


でも人生とか普段考えないこと思ったりしてカッコつけてみたら、月見て風流人ぶりたい気持ちがあるのが高校生なんです。



満足いくまで風流人になりきったあと湯舟から上がり、髪ゴムを外してシャワーをあびた。


それからふろ場を出て、脱衣所に置いておいたタオルに顔をうずめた。


太陽の匂い。


今日は1日中ずっと春のポカポカ陽気。