「青い、春…。青い春ですよ…。感動です。でも、丸井さまの手を握りしめてあえいのは、私だけなんですからね!!!!」

パシン!と白瀬が天上の手をはたいた。

しかし、固く握られたお互いの手は離れないままだ。

それを見た白瀬が頬っぺたを膨らませて両手で離そうとする。

重なった手を見て、井上が呟く。

「まるで、円陣を組んでるみたいだな。」

そう言って右手を白瀬の上に重ねた。

「え、?!」

白瀬がビックリして井上を見上げる。
かなりの身長差から、首がおおきく曲がっている。
…見上げるの、疲れそうだな。

そんな風に思っていたら、空気が漏れた。

「…っぷ、」 
「…笑えるだろう?」
「え、?何がですか!!?」
「可愛かろう(ドヤ)」

そんな言葉を交わしていたら、ぎぃ…と重いドアの開く音がした。


「おお?やってるね~~!練習はどうだい?少し休憩をしないかな?いなり寿司を作ったんだ…!」

ひょこひょこと、両手にタッパーを抱えた顧問が登場だ。その後ろには彼の飼い猫がチリチリと鈴を鳴らしながらついてくる。しっぽはピンと伸びており、ご機嫌そうだ。

彼の名前は森考史(もりたかし)。古文の非常勤であり、御歳(おんとし)67歳の大ベテランだ。

この暑いのに、長袖、セーターと余計に暑くなりそうな格好だ。
好好爺然とした雰囲気でにこにこと目尻にしわを作りシワの刻まれた顔を綻ばせている。よほど、機嫌が良いようだ。

「君は新しい同好会メンバーかな?ついに、4人揃ったのだねぇ~!これで部に昇格できるね!」


「「「あ!!!」」」

3人同時に声が揃った。すっかり、その条件を忘れていたのだ。

「天上!もちろん、我が愛するドッジボール部に入るのだよな!!?」
「天上さん、これは今絶対入るチャンスですよ!貴方が欲しかった、チャンスですよ!!!私たちのヒーローになれますよ!!!!!」
「おお!ヒーロー、お前憧れてたものな!良かったじゃないか!!」


私たちの猛プッシュに押されて、彼の左足が一歩うしろに下がった。

そして、


「…いなり寿司食べてから決める。」


「うお!ツンデレ!?これ、リアルなツンデレですか!!!?」
「うるさい!!!!!」

よしよし、すっかり仲良しだな!これでドッジボール部の未来も安泰だ!!
そして、もっと仲間を集めて、全国に行くんだ!!!!!





わたしたちの「夏」は、まだ始まったばかりだ…!




「うちの奥さんが作った、沢庵もあるよ!しっかり食べてね!!」








「夢はでっかく、全国大会にしよう!」
白瀬「丸井さま、!?さすが過ぎます!!!!!」
天上「いや、大き過ぎないか?まずは部員集めだろ?」
井上「いなり寿司、美味いな…」
森「少年よ、太志を抱け!て言うからね~いいんじゃないかな?あ、こっちも良かったら食べてね!うちの奥さんが漬けてくれた沢庵なんだけど、これがまた美味いんだ!さすが、私の愛する奥さんでしょう???」


そして、私たちの日常も始まった。