ワールドソードワーズと同じように、か。同じところに打ち続ける、つまり敵が壁に立っていると想定すればよいのだ。目をつぶり、先ほどの特別クエスト『襲いかかる魂』を思い出す。

 目を開けて、深く息を吸う。
「よし」
一球目、壁に向かってボールを放つ。魂をまっすぐ飛ばすイメージで。そう思うと、いつもより上手く壁に当たった。上手く当たった分だけ、ボールは取りやすい場所に返ってくる。素早く足を動かす。二球目、ボールに対してまっすぐラケットを当ててこすり上げる。ゲームよりも感触はかなり重い。だが、それ以外は慣れたあの動きと全く同じだった。

 ボールは、思った通りの場所に当たった。三球目、四球目、と同じように同じ場所に返すことができた。バックは少し難しいが、左側で剣を振るのと大差ない。気づくと、十球も続いていた。
 
 思った通りにボールが飛んでいく、それがこんなに楽しいことだなんて思いもしなかった。練習していたフットワークも、今になってようやく一連の動作に組み込まれる。

「すげぇじゃないか!」
町田は俺よりも嬉しそうだった。
「やっぱり、ゲームの動きがテニスに上手くハマってる」
本堂は満足げだった。
「ありがとう! 俺、俺……」
俺はあまりの嬉しさに感極まってしまった。
「お前、いつも頑張ってたもん。中学の時だって、俺よりずっと練習してた。それがようやく実を結んだんだな……」
町田まで目をうるうるさせていた。

「明日の練習、他の部員をぎゃふんと言わせてやれよ。お前のワールドソードワーズの実力がテニスに生きているとなると、俺もうかうかしてられない」
「ははっ、そんなわけ……」
俺が本堂の言葉を流そうとしたとき、本堂が大きな声で怒鳴った。
「そんなんじゃ勝てねえよ! そんなお前にアドバイスした覚えはねえ!」
思わぬ本堂の叱責に、腰を抜かしそうになった。だが、本堂の言葉はなぜか心に響いた。今まで、テニスを諦めたことはなかったつもりだった。練習すれば上手くなる、そう信じ続けていたはずだった。

 初めてテニスが上手くできて、嬉しかった。それなのに、ずっと引きずっていた劣等感みたいなもので自分に限界を作ろうとしたのかもしれない。
「どこかで俺は、自分のことを下に見てたのかもしれない」
「お前はすごいやつなんだ、ちゃんと自信もて」
会ったばかりの本堂が、どうしてこんなに褒めてくれるのだろう。嬉しい反面、それが不思議で仕方なかった。