次の日。自宅からちょっと離れたところにある森の中の開けた場所に、
僕と桜夜さんの二人きりになった。
「では、竜也さん。始めますね。」
桜夜さんが僕のネックレスを外した後、少し離れてから呪文を唱え始める。
「汝、古来の姿を取り戻せ。竜の血よ、目覚めよ!」
言葉を受けて、身体がザワザワしてくる。
僕は立っていられなくなり、その場に座り込む。
「これから1週間、竜として……ドラゴンの生活を学んでもらいます。」
みるみると身体が変わっていく。手の指が5本から4本へ、爪も鋭くなる。
目線も変わっていき、背中から何かが飛び出て延びたような感じがする。
「ちょっとまって、ドラゴンの説明をまだ聞いてないよ!」
「実際に経験し、慣れて頂くのが最も早いと思いますので。」
目の前にいる青いベルベッドのスーツを着た桜夜さんが、
資料に目を通しながら言う。
「まずは、歩き方、爪の使い方からレクチャーしますね。
空の飛び方やブレスの吐き方は、慣れてからにしましょう。」
「……うぅ、はい。」
一通り身体がドラゴンになってから、桜夜さんを見下ろす。
背丈はどうやら3mくらい、手の爪は指と同じく4本づつ。
足の指は前に3本、爪も同じ数。踵に1本の爪?がある。
見る高さも変わったが、視界は広くなったような気がする。
体色は、ほとんどが緑。ネックレスの色と同じ。
手の平側は白っぽいクリーム色。
見える範囲の腹や内ももとかもクリーム色のようだ。
「不思議な感じですね、これ。どうなってるんだろう……。」
「竜也さん、尾の長さや身体の大きさの感覚が全く違うと思うので、
まだ動かないでくださいね。……そうですね、まずは座ってください。
人間のときとは違って、四つ足で伏せる感じに。」
「ええと、こう?」
僕は、四つ足で伏せるように体勢を変えてみる。桜夜さんの顔が目の前に来た。
「そうです。尾の感覚分かりますか?後ろから前に回してみてください。」
「何か、尻から伸びてる感じがするから、こうかな……。」
尻尾の先が顔の目の前に来た。僕は今、ネコみたいに丸まってるのか。
「肩のあたり、背中に意識を集中して動かしてみてください。
開いたり閉じたりしてるのが分かりますか?」
両肩の斜め後ろあたりを意識すると、広げたり閉じたりするのが分かる。
これが翼か。鳥のように羽ばたくのは大変そうだ。
「あ、飛ばないでくださいね。コントロール出来ないと思うので。
四つ足で伏せて翼を閉じ、尾を丸めた状態、それが寝る姿になります。
ドラゴンが仰向けで寝ようとすると、翼を痛めてしまいます。
なので、仰向けで寝ることができません。覚えておいてください。
ちなみに、寝る時間も人間と異なります。種族によって異なりますが、
竜也さんの竜巣の場合は、12~20時間の方が多いです。」
「いつもと寝る体勢が違うから、寝れるのかな……。」
「すぐに慣れると思いますよ。」
「桜夜さん、質問があるのだけど。」
「なんでしょう?」
「僕、この姿だと何処で寝たら良いの?」
「洞窟の中になります。後ほどご案内しますね。」
僕がため息をつくと、桜夜さんは気にせずに説明を続ける。
「犬や猫のように、四つ足で歩くイメージをしてください。
立ち上がると目線も上がるのでゆっくりと。」
問題なく歩けているのを確認すると、桜夜さんが先導する。
「洞窟はこちらです、ついてきてください。」
桜夜さんについていくと、僕が通っても少し余裕があるくらいの洞窟への入り口が見つかった。
幾つか分かれ道があり、桜夜さんについていかないと道が分からなくなりそうだ。
気をつけながら奥までついていくと、開けた場所に辿り着く。
見る限り、土も岩もそのまま。掘ったままかのような空間。
「ここが、竜也さんの今日から1週間の寝床になります。」
「……何もないし、土も岩も剥き出しだけど、ここで寝るの?」
「はい。ドラゴンは身体も鱗も頑丈ですので、問題なく寝れるはずです。」
「暑かったり、寒かったりは?」
「暑いのは有り得ないですね、竜也さんは炎に縁のある竜巣なので。
寒い方も、この中なら特に問題ないでしょう。
入り口には、盗賊除けに幻影を付けて、見えなくしておきますね。
今日はこの中で、動くのに慣れてください。あ、そうそう。
まだ翼の筋力が不足しているので、羽ばたく練習を忘れずにしてくださいね。
では、明日また来ます。」
入り口へ向かいそうだった桜夜を呼び止める。
「そういえば、トイレや風呂、食事はどうしたらいいの?」
「洞窟の中ですが、この部屋から出た左側に湖があります。
そちらで水浴びする事ができるのと、魚も居るので食事も出来ます。
トイレは先ほどと逆に右側にある部屋でお願いします。」
「……後で確認してみるよ。それと、あと2つ質問。
爪の使い方と、羽ばたき方を教えて欲しいのだけど。」
「ごめんなさい、忘れてました。爪は、人間より鋭利で頑丈になってます。
自分自身に対しては、人間のときと同じ使い方で大丈夫です。
振ったり、掘ったりと自分以外に対して、爪を扱う時に注意してください。
人間で指を10cm動かすのは、ドラゴンでは指が20cm動く……つまり、倍になります。」
「気をつけないとだね。……羽ばたき方は?」
「先程と同じように、両肩に意識を集中してください。
集中したまま、腕を広げたり閉じたりするのを素早く行うイメージをして、
それを維持してください。」
言われたままにすると、背中の方で風が強くなっていく。
「そうです、そんな感じです。……やはりまだ筋力が不足してますね。
気がついたときでいいので、その練習をしてください。
野鳥も雛のときは飛ぶ練習をして中々飛べないですよね?それと同じです。
飛べるようになると、翼を開いたままで滑空したり、更に高く飛べたりします。
ただこちらの……人間の世界で飛ぶと問題になるので、
実際に飛んだりするのはドラゴンの世界でお願いしますね。」
「どんな問題になるの?」
「ドラゴンは無人航空機扱いになので、飛行禁止空域が飛べなかったり、
航空法を遵守する必要があります。」
「ラジコンやドローンと一緒なんだ……。」
「なので、羽ばたいたり、軽く飛ぶのは問題ないんですが。
42階くらいのタワーマンションビルくらい飛ぶと問題になります。」
「飛ばないほうが良さそうだね。」
「はい。……説明は以上です。羽ばたくと普段使わない筋肉使うので、
筋肉痛になると思いますが、そのうち慣れると思います。
他に質問はありますか?」
とりあえず必要なことは聞けた気がする。
「桜夜さんを呼びたいときはどうしたら良い?」
「そうですね、念じてください。同じ竜巣であれば、
必要な相手に対して念じるだけで話すことが出来ます。」
「分かりました。」
「では、明日また呼びに来ますね。」
そういって桜夜さんは洞窟から出ていった。
しばらく歩く練習と羽ばたく練習をして、腹も減ってきた。
まず左側の湖を見にいくと、魚も泳いでいて、水も澄んでいた。
魚は生で食べるんだろうな……腹を壊したりするんだろうか。
水の温度は、少し冷たいくらい。そういえば、ドラゴンって汗をかくのか?
臭くはなりそうだから、毎日でなくても入った方が良い気はする。
あとで母さんに聞いてみよう。水分補給だけしておく。次は右を見てみよう。
右側の部屋に行くと、ちょっと広い部屋に大きめのスライムが居て、
他より窪んでいる場所があるだけだった。どういうことだろう。
さっそく聞いてみようか。
「桜夜さん、聞こえますか?」
「竜也さんですか。ちゃんと聞こえてますよ、どうしましたか?」
「トイレって言われた場所にスライムが居るんだけど。」
「そうですね。その子は飼育した調教済の個体で、危なくないですよ。
排泄物を分解することに特化してるので、そこがトイレになります。」
「えぇーっ!?」
「そんなに驚かなくても。ドラゴンは鳥と同じで尿と便が一緒に出ます。
あぁ、そうそう。ちなみに竜也さんの竜巣では、生殖器は、
人間と同じで別に存在してますよ。」
「えぇーっ!?」
「サイズに関しては、私は存じ上げないので。ご自分で確認してください。
では、また。」
……ちゃんと色々確認しておこう。
僕は、ドラゴンとしての初めての夜を迎えた。
僕と桜夜さんの二人きりになった。
「では、竜也さん。始めますね。」
桜夜さんが僕のネックレスを外した後、少し離れてから呪文を唱え始める。
「汝、古来の姿を取り戻せ。竜の血よ、目覚めよ!」
言葉を受けて、身体がザワザワしてくる。
僕は立っていられなくなり、その場に座り込む。
「これから1週間、竜として……ドラゴンの生活を学んでもらいます。」
みるみると身体が変わっていく。手の指が5本から4本へ、爪も鋭くなる。
目線も変わっていき、背中から何かが飛び出て延びたような感じがする。
「ちょっとまって、ドラゴンの説明をまだ聞いてないよ!」
「実際に経験し、慣れて頂くのが最も早いと思いますので。」
目の前にいる青いベルベッドのスーツを着た桜夜さんが、
資料に目を通しながら言う。
「まずは、歩き方、爪の使い方からレクチャーしますね。
空の飛び方やブレスの吐き方は、慣れてからにしましょう。」
「……うぅ、はい。」
一通り身体がドラゴンになってから、桜夜さんを見下ろす。
背丈はどうやら3mくらい、手の爪は指と同じく4本づつ。
足の指は前に3本、爪も同じ数。踵に1本の爪?がある。
見る高さも変わったが、視界は広くなったような気がする。
体色は、ほとんどが緑。ネックレスの色と同じ。
手の平側は白っぽいクリーム色。
見える範囲の腹や内ももとかもクリーム色のようだ。
「不思議な感じですね、これ。どうなってるんだろう……。」
「竜也さん、尾の長さや身体の大きさの感覚が全く違うと思うので、
まだ動かないでくださいね。……そうですね、まずは座ってください。
人間のときとは違って、四つ足で伏せる感じに。」
「ええと、こう?」
僕は、四つ足で伏せるように体勢を変えてみる。桜夜さんの顔が目の前に来た。
「そうです。尾の感覚分かりますか?後ろから前に回してみてください。」
「何か、尻から伸びてる感じがするから、こうかな……。」
尻尾の先が顔の目の前に来た。僕は今、ネコみたいに丸まってるのか。
「肩のあたり、背中に意識を集中して動かしてみてください。
開いたり閉じたりしてるのが分かりますか?」
両肩の斜め後ろあたりを意識すると、広げたり閉じたりするのが分かる。
これが翼か。鳥のように羽ばたくのは大変そうだ。
「あ、飛ばないでくださいね。コントロール出来ないと思うので。
四つ足で伏せて翼を閉じ、尾を丸めた状態、それが寝る姿になります。
ドラゴンが仰向けで寝ようとすると、翼を痛めてしまいます。
なので、仰向けで寝ることができません。覚えておいてください。
ちなみに、寝る時間も人間と異なります。種族によって異なりますが、
竜也さんの竜巣の場合は、12~20時間の方が多いです。」
「いつもと寝る体勢が違うから、寝れるのかな……。」
「すぐに慣れると思いますよ。」
「桜夜さん、質問があるのだけど。」
「なんでしょう?」
「僕、この姿だと何処で寝たら良いの?」
「洞窟の中になります。後ほどご案内しますね。」
僕がため息をつくと、桜夜さんは気にせずに説明を続ける。
「犬や猫のように、四つ足で歩くイメージをしてください。
立ち上がると目線も上がるのでゆっくりと。」
問題なく歩けているのを確認すると、桜夜さんが先導する。
「洞窟はこちらです、ついてきてください。」
桜夜さんについていくと、僕が通っても少し余裕があるくらいの洞窟への入り口が見つかった。
幾つか分かれ道があり、桜夜さんについていかないと道が分からなくなりそうだ。
気をつけながら奥までついていくと、開けた場所に辿り着く。
見る限り、土も岩もそのまま。掘ったままかのような空間。
「ここが、竜也さんの今日から1週間の寝床になります。」
「……何もないし、土も岩も剥き出しだけど、ここで寝るの?」
「はい。ドラゴンは身体も鱗も頑丈ですので、問題なく寝れるはずです。」
「暑かったり、寒かったりは?」
「暑いのは有り得ないですね、竜也さんは炎に縁のある竜巣なので。
寒い方も、この中なら特に問題ないでしょう。
入り口には、盗賊除けに幻影を付けて、見えなくしておきますね。
今日はこの中で、動くのに慣れてください。あ、そうそう。
まだ翼の筋力が不足しているので、羽ばたく練習を忘れずにしてくださいね。
では、明日また来ます。」
入り口へ向かいそうだった桜夜を呼び止める。
「そういえば、トイレや風呂、食事はどうしたらいいの?」
「洞窟の中ですが、この部屋から出た左側に湖があります。
そちらで水浴びする事ができるのと、魚も居るので食事も出来ます。
トイレは先ほどと逆に右側にある部屋でお願いします。」
「……後で確認してみるよ。それと、あと2つ質問。
爪の使い方と、羽ばたき方を教えて欲しいのだけど。」
「ごめんなさい、忘れてました。爪は、人間より鋭利で頑丈になってます。
自分自身に対しては、人間のときと同じ使い方で大丈夫です。
振ったり、掘ったりと自分以外に対して、爪を扱う時に注意してください。
人間で指を10cm動かすのは、ドラゴンでは指が20cm動く……つまり、倍になります。」
「気をつけないとだね。……羽ばたき方は?」
「先程と同じように、両肩に意識を集中してください。
集中したまま、腕を広げたり閉じたりするのを素早く行うイメージをして、
それを維持してください。」
言われたままにすると、背中の方で風が強くなっていく。
「そうです、そんな感じです。……やはりまだ筋力が不足してますね。
気がついたときでいいので、その練習をしてください。
野鳥も雛のときは飛ぶ練習をして中々飛べないですよね?それと同じです。
飛べるようになると、翼を開いたままで滑空したり、更に高く飛べたりします。
ただこちらの……人間の世界で飛ぶと問題になるので、
実際に飛んだりするのはドラゴンの世界でお願いしますね。」
「どんな問題になるの?」
「ドラゴンは無人航空機扱いになので、飛行禁止空域が飛べなかったり、
航空法を遵守する必要があります。」
「ラジコンやドローンと一緒なんだ……。」
「なので、羽ばたいたり、軽く飛ぶのは問題ないんですが。
42階くらいのタワーマンションビルくらい飛ぶと問題になります。」
「飛ばないほうが良さそうだね。」
「はい。……説明は以上です。羽ばたくと普段使わない筋肉使うので、
筋肉痛になると思いますが、そのうち慣れると思います。
他に質問はありますか?」
とりあえず必要なことは聞けた気がする。
「桜夜さんを呼びたいときはどうしたら良い?」
「そうですね、念じてください。同じ竜巣であれば、
必要な相手に対して念じるだけで話すことが出来ます。」
「分かりました。」
「では、明日また呼びに来ますね。」
そういって桜夜さんは洞窟から出ていった。
しばらく歩く練習と羽ばたく練習をして、腹も減ってきた。
まず左側の湖を見にいくと、魚も泳いでいて、水も澄んでいた。
魚は生で食べるんだろうな……腹を壊したりするんだろうか。
水の温度は、少し冷たいくらい。そういえば、ドラゴンって汗をかくのか?
臭くはなりそうだから、毎日でなくても入った方が良い気はする。
あとで母さんに聞いてみよう。水分補給だけしておく。次は右を見てみよう。
右側の部屋に行くと、ちょっと広い部屋に大きめのスライムが居て、
他より窪んでいる場所があるだけだった。どういうことだろう。
さっそく聞いてみようか。
「桜夜さん、聞こえますか?」
「竜也さんですか。ちゃんと聞こえてますよ、どうしましたか?」
「トイレって言われた場所にスライムが居るんだけど。」
「そうですね。その子は飼育した調教済の個体で、危なくないですよ。
排泄物を分解することに特化してるので、そこがトイレになります。」
「えぇーっ!?」
「そんなに驚かなくても。ドラゴンは鳥と同じで尿と便が一緒に出ます。
あぁ、そうそう。ちなみに竜也さんの竜巣では、生殖器は、
人間と同じで別に存在してますよ。」
「えぇーっ!?」
「サイズに関しては、私は存じ上げないので。ご自分で確認してください。
では、また。」
……ちゃんと色々確認しておこう。
僕は、ドラゴンとしての初めての夜を迎えた。