引っ越して荷物をある程度整えてから。

俺は近くのスーパーに買い物に行った。
少しづつ必要なものから買い足しているところ。

コップと皿はもう十分だし、調理器具も大丈夫。
調味料はまだ足りないのはソースかな?
スマホの買い物メモを見ながらスーパー内を散歩。
納豆や豆腐がある棚に近づいたときに、急にスマホが暗くなった。

(あれ、触ってなかったから消灯した?)

電源ボタンを押しても、画面は暗いまま。代わりに頭に声が響いた。

『キャベツ!キャベツ!』
『いやココはリンゴだろ!』
『サツマイモがいいな~。』

(何の声?いや、気のせいだよな?)

もう一度スマホの電源ボタンを押すと、スマホの画面が表示された。
あの声は何だったんだろう……。気になりはしたが、気にしないことにした。

「今日は何食べようかな……。野菜炒めとか作ろうかな。」

買い物かごにキャベツを入れて、会計レジに並んだ。
自宅に帰り、冷蔵庫に買ったものをしまう。

夕食も食べ、ベッドに横になり、目を瞑ると急に声が聞こえる。

『やったぁキャベツじゃん!俺の勝ち!』
『今回は勝っただけだろう。』
『いやいや、サツマイモだって昨日買ってたじゃん。』

また声が聞こえる。何なんだ?薄っすら目を開けると、天井に何かが見えた。
そこには3匹のイヌのようなもの。

「イヌ……?」

『あ、やばい。俺らが()えたみたい。』
『もうバラしても良いんじゃないか?』
『え~、もうちょっと黙っておきたかった。』

そのイヌたちは、俺の目の前まで空中を駆けてくる。

『俺は、銭助(せんすけ)
『ワシは、鼓一郎(こいちろう)
『私は、(おうぎ)
『俺らは、この建物に住んでる、カミサマ。』
『信じるかどうかは任せるが、事実は事実。』
『私は別にどっちでもいいけど。あ、お供え物は大歓迎。
 どうせならサツマイモがいいな。』

わいわい喋りかけてくる3匹のイヌたち。

「待って、嘘だろ。イヌが?」

『どうやらキミには僕らの姿がイヌに()えてるみたいだね。』
『こないだの奴は、ワシらを見てキツネとか言ってたな。』
『お化けとか、タヌキと言われた事もあったわね。失礼しちゃうわ。』

「えーと、カミサマ?幽霊(ゆうれい)とかじゃなく?」

『事実だよ。俺らはカミサマ。』
『厳密には、ちょっと違うところはあるがな。』
『面倒だからカミサマでいいじゃない。私はそう呼ばれる方が好きよ。』

「何でこの部屋に居る?」

『俺らが一番、居心地のいい部屋だから。』
『ちょっと考えたら当然だと思うが。』
『日当たり良好、土地のエネルギーの集合地。サイコーじゃない?』

「……じゃ、もういいや。俺に何か関係ある事は?」

『俺らにあんまり驚かないんだね。キミに対しては、"今は特に無い"よ。』
『強いて言えば、住んでいる者しかワシらが()えない事くらいか?』
『前に住んでても、この部屋から縁が切れると視えなくなるのよね~。』

何かもう、超常現象過ぎて諦めた。空中を飛ぶ3匹のイヌたちが居て。
ある意味同居みたいな状態になってる部屋らしい。そりゃ皆、契約解除したりするわ。
特に影響無いとか言ってたし、とりあえずは良いか。

「俺に対して何も影響無いなら、もういいや。よろしく。」

『うん、よろしくね。俺らは何も食べなくても大丈夫だから。』
『土地のエネルギーで十分に満腹だしな。』
『私は、サツマイモのお供えがあると嬉しいかな。切りたてのやつ。』

……この部屋には、イヌのカミサマ?が住んでたようだ。