俺は今、家を探している。理由は簡単。家を追い出されるから。
親にそろそろ一人暮らしをしてみたら?と言われ続けて十年。
実家に住んでる方が気楽だからそのままにしていたら、
とうとう親にも呆れられ、家を出されることになってしまった。

仕方がないので、最近はずっとパソコンで賃貸物件の一覧とにらめっこ。
ようやく見つけても先を越されてたり、高くなってたり。
最近は段々諦めかけてきた。家を出されたら友達のとこでも回ろうかな。
仕事も探さないと暮らすことも出来ないが。

今日もまた朝からパソコンで探していると、良さそうな物件を見つけた。
『楽器相談、ペット可。単身者限定。委細、要相談。』
家賃も相場より安いし、駅からも近い。ここなら仕事も探しやすそう。
おまけに最初の3ヶ月は家賃が要らないらしい。
……何で物件が残ってるんだ?
とりあえず、不動産屋に連絡して、部屋を見てみることにした。

「こちらの部屋になります。
 あ、曰く付き物件ではないので安心してくださいね。」
「あ、はい。」

”そういう”物件だった場合には事前に通知しないと駄目らしい。
見る限りは普通の部屋。フローリングだし、壁も白い普通のもの。
エアコンも付いてて、天井とかも特に気になるところはない。
風呂とトイレも別。押入れも見たけど何もない。

「何でこの物件って空いてるんですか?」
「えーと、理由がよくわからないんですよ。
 皆さん喜んで契約はされるんですが、すぐに契約取消ししてしまうので。
 何故か怖がったり、ノイローゼになったりとか。かと思ったら、
 喜んで住まれてる方も居たりして。人によって全然違うんです。
 ケモノを見たとか、悪夢を見たと言われたこともあります。」
「そうなんですか……。」
「なので、もうこの際なので、皆さんが契約取消しすることの多い3ヶ月は、お試し期間ってことにしました。その間に気に入ればそれで良し、そうでないなら契約取消ししますよ、という形です。」
「随分お得なんですね。」
「ここまでやっても、大体の方は住まないので、仕方なくです……。」

ため息を付きながら説明をしてくれている担当の方は、とても残念そうだ。

「じゃあ、とりあえず住んでみたいです。」
「はい、わかりました。何かあれば言ってくださいね。期間は3ヶ月。
 3ヶ月以内であれば、契約取消で引っ越す際、費用も補助しますよ。」

そう言われてトントン拍子に部屋を契約した。
まだ何も知らないままで。

『フフフ、今度はこの子なんだね』
『どんな奴なんだろうな』
『まぁいつもみたいに逃げちゃうんじゃないの?』

そんな声がしていたのも気づかなかった。