時計の針が午後十時を示した頃。
僕は自分の部屋でヒーターをつけ、十一月の部屋を暖めながら、小出さんに借りたアニメのDVDを流していた。
が、しかし。内容は全く入ってこない。
理由は簡潔かつ明白。
スマートフォンの様子が気になって仕方がないからだ。
僕は今日、小出さんとメッセージアプリ『ネットライン』のIDを交換した。とても嬉しかった。天にも昇る気持ちだった。
まさか小出さんが、僕とのメッセージのやり取りを望んでくれるだなんて。
しかし今、僕は悩んでいた。小出さんにメッセージを送っていいものか、悩みに悩んでいた。
いくら連絡先を交換したとはいえ、気軽に好きな女の子にメッセージを送れるほど、僕の肝は座ってはいない。僕は基本的にヘタレである。
それに今日はもうこんな時間だ。このタイミングでメッセージを送ったりしたら迷惑なのではないは、と。思考が僕を躊躇させるのだ。
「うーん、やっぱり今日はやめておこうかなあ……。忙しかったら小出さんに悪いし、もしかしたらもう寝てしまってるかもしれないし。……いや、寝てはいないかな。だって小出さん、いつも夜更ししてるみたいだし」
僕はリモコンを手に取り、テレビを消した。そしてベッドで仰向けになり、「はあ」とひとつ溜息をつき、天井を見つめて考える。
小出さんは、今何をしているのだろうか。
──知りたい。
もっと、もっと。僕は小出さんのことを知りたい。知り尽くしたい。そして彼女にも、僕のことをたくさん知ってもらいたい。
小出さんとの関係を、もっと深めたいんだ。
『ピロン』
僕は咄嗟に、飛び跳ねるようにして起き上がった。
今、確かに僕のスマホが鳴った。
もしかしたら──と。僕は期待に胸膨らませながら、画面を開いた。
すると──。
【小出千佳からのメッセージ】
スマホの画面には、小出さんからのメッセージ着信を知らせる通知が。
僕は一度唾を飲み込み、高鳴る胸の鼓動を抑えながら、小出さんからのメッセージを開封した。
【こんばんは!
園川くん、アニメ観てる?
(*^◯^*)】
小出さんが送ってくれた、僕へのメッセージ。しかも可愛らしい顔文字付きである。まさか小出さんの方からメッセージを送ってくれるだなんて。
しかし、どうやら小出さんは顔文字を多用するタイプみたいだ。昼間のメッセージもそうだったし。真剣な顔をして、可愛い顔文字を打ち込む小出さんを想像すると、なんだかちょっと面白い。
【うん、さっきまで観てたよ。今日はもうテレビ消しちゃったけどね】
【そうなんだ! 面白いからこれかもぜひ観るべし!
うししっ(●´ω`●)】
うししっ──と、小出さんが笑っている。
小出さん、ネットだと性格変わるタイプなのかな。普段の小出さんと比べると、ちょっとテンションが高いように感じる。
もしかすると、これが本当の小出さんのだろうか。
【小出さんは今何してるの?】
【さて問題です、今私は何を
しているのでしょうか? ( ̄∇ ̄)】
突然のクイズである。
小出さんが、僕にクイズを出してきた。
【うーん……小説読んでるんじゃないかな?】
【ぶっぶー!
( ̄3 ̄) 残念でした、不正解です!】
【えー、正解を教えてほしいな】
【正解はー、ドコドコドコドコ──】
あ、ドラムロールだ。
【正解は、CMの後で!】
【ちょっと小出さん! CM挟まないで! 早く正解教えてよ!】
【正解は、お風呂の中でした \(//∇//)\】
ええ!?
小出さん、お風呂入りながらスマホやってるの!?
小出さんが、お風呂。
僕はいけないことだと思いつつも、ついつい小出さんの入浴姿を想像してしまった。一糸纏わぬ姿で湯船に浸かりながら、スマホをいじる小出さん。とっても色っぽ……くはない。色っぽくはない。だけど見てみたいな、小出さんの入浴姿。
──はっ!?
僕は一体、何を想像しているのだ。
クラスメイトの、しかも好きな女の子の入浴姿を想像するだなんて。それでは僕が、まるでヘンタイみたいじゃないか。
いけないいけない。
冷静になれ、僕。
ヘンタイ的な想像はやめて、紳士的な返信を心がけなければ。
【小出さん、今裸?】
やってしまった。
僕は何を訊いているんだ。血迷ったか、僕!
お風呂なんだから裸に決まっているだろう。ああ……キモい。我ながらキモいメッセージを送ってしまった……。
もう駄目だ……僕は小出さんに嫌われるかもしれない。
【うっふーん♪ もちろん!
すっぽんぽんだよー!
(//∇//)】
……なんだろ、この返し。
小出さんのキャラが崩壊している。
現実ではいつもあわあわしている、あの小出さんとは思えない。たぶん小出さん、ネットで性格変わるタイプの人だ。
うん、まあそれは置いておいて。
僕は今度こそ、落ち着いてちゃんと返信するよう、一文字ずつ気をつけながらメッセージを打ち込んだ。
【小出さん! お風呂でスマホいじらないの!】
【怒られた。しゅーん
(´;Д;`)】
【怒ってるんじゃないの!
風邪引いちゃったら大変でしょ!】
【しゅーん(´;Д;`)】
なんだろうか、この可愛い生き物は。
なんか軽い罪悪感を覚える。ちょっと強く言い過ぎたかもしれない。
なので僕は、フォローのメッセージを送ることにした。
【お風呂でスマホもほどほどにしてね。風邪引いて学校休んじゃったら僕寂しいよ】
フォローではあるけど、これは僕の本心だ。
もし明日、小出さんが風邪でも引いて学校を休んでしまったら、僕は寂しくて仕方がない。それに何よりも、小出さんのことが心配で堪らなくなってしまう。
しかし、来ない。
返信が、来ない。
いくら待っても、小出さんからメッセージが返って来ないのだ。
小出さん、どうしたのだろうか。さっきまでは、僕が送ったメッセージが既読になった瞬間、すぐに返事が送られてきていたのに。
僕は若干の不安に襲われた。もしかして僕、小出さんに嫌われた?
例えば、こんな感じで──
『寂しいよ、とか言ってるよ園川のやつ。あーキモい。もう返事するのやーめたー』
そんな……だとしたら、僕はこれから何を希望に生きていけばいいのだ。小出さんに嫌われたら、僕はもう生きていけない。
好きな女の子に──片想いの女の子に、嫌われる。これ以上の絶望が、この世にあるだろうか。いや、ない。少なくとも、今の僕には想像が出来ない。
──そう、僕が思い詰めていると。
『ピロン』
メッセージが返ってきた。
僕は恐る恐る、小出さんからのメッセージを開封する。
【ありがとう♡】
その返事は短いけれど、だけど小出さんの気持ちがいっぱいに詰まった、温かなメッセージだった。
僕はスマートフォンを机に置いて、ベッドに寝転び天井を見つめる。
小出さんの返事が、嬉しくて仕方ない。
僕の中で、小出さんの存在がどんどん大きくなっていく。
それを僕は実感した。
小出さんと僕は、友達になることが出来たのかもしれない。
だったら僕は、小出さんともっと仲良くなるためには、これからどうすればいいのだろうか。
僕はもう一度、小出さんのメッセージを読み返した。
そうすれば小出さんから、勇気がもらえるような気がしたから──。
僕は自分の部屋でヒーターをつけ、十一月の部屋を暖めながら、小出さんに借りたアニメのDVDを流していた。
が、しかし。内容は全く入ってこない。
理由は簡潔かつ明白。
スマートフォンの様子が気になって仕方がないからだ。
僕は今日、小出さんとメッセージアプリ『ネットライン』のIDを交換した。とても嬉しかった。天にも昇る気持ちだった。
まさか小出さんが、僕とのメッセージのやり取りを望んでくれるだなんて。
しかし今、僕は悩んでいた。小出さんにメッセージを送っていいものか、悩みに悩んでいた。
いくら連絡先を交換したとはいえ、気軽に好きな女の子にメッセージを送れるほど、僕の肝は座ってはいない。僕は基本的にヘタレである。
それに今日はもうこんな時間だ。このタイミングでメッセージを送ったりしたら迷惑なのではないは、と。思考が僕を躊躇させるのだ。
「うーん、やっぱり今日はやめておこうかなあ……。忙しかったら小出さんに悪いし、もしかしたらもう寝てしまってるかもしれないし。……いや、寝てはいないかな。だって小出さん、いつも夜更ししてるみたいだし」
僕はリモコンを手に取り、テレビを消した。そしてベッドで仰向けになり、「はあ」とひとつ溜息をつき、天井を見つめて考える。
小出さんは、今何をしているのだろうか。
──知りたい。
もっと、もっと。僕は小出さんのことを知りたい。知り尽くしたい。そして彼女にも、僕のことをたくさん知ってもらいたい。
小出さんとの関係を、もっと深めたいんだ。
『ピロン』
僕は咄嗟に、飛び跳ねるようにして起き上がった。
今、確かに僕のスマホが鳴った。
もしかしたら──と。僕は期待に胸膨らませながら、画面を開いた。
すると──。
【小出千佳からのメッセージ】
スマホの画面には、小出さんからのメッセージ着信を知らせる通知が。
僕は一度唾を飲み込み、高鳴る胸の鼓動を抑えながら、小出さんからのメッセージを開封した。
【こんばんは!
園川くん、アニメ観てる?
(*^◯^*)】
小出さんが送ってくれた、僕へのメッセージ。しかも可愛らしい顔文字付きである。まさか小出さんの方からメッセージを送ってくれるだなんて。
しかし、どうやら小出さんは顔文字を多用するタイプみたいだ。昼間のメッセージもそうだったし。真剣な顔をして、可愛い顔文字を打ち込む小出さんを想像すると、なんだかちょっと面白い。
【うん、さっきまで観てたよ。今日はもうテレビ消しちゃったけどね】
【そうなんだ! 面白いからこれかもぜひ観るべし!
うししっ(●´ω`●)】
うししっ──と、小出さんが笑っている。
小出さん、ネットだと性格変わるタイプなのかな。普段の小出さんと比べると、ちょっとテンションが高いように感じる。
もしかすると、これが本当の小出さんのだろうか。
【小出さんは今何してるの?】
【さて問題です、今私は何を
しているのでしょうか? ( ̄∇ ̄)】
突然のクイズである。
小出さんが、僕にクイズを出してきた。
【うーん……小説読んでるんじゃないかな?】
【ぶっぶー!
( ̄3 ̄) 残念でした、不正解です!】
【えー、正解を教えてほしいな】
【正解はー、ドコドコドコドコ──】
あ、ドラムロールだ。
【正解は、CMの後で!】
【ちょっと小出さん! CM挟まないで! 早く正解教えてよ!】
【正解は、お風呂の中でした \(//∇//)\】
ええ!?
小出さん、お風呂入りながらスマホやってるの!?
小出さんが、お風呂。
僕はいけないことだと思いつつも、ついつい小出さんの入浴姿を想像してしまった。一糸纏わぬ姿で湯船に浸かりながら、スマホをいじる小出さん。とっても色っぽ……くはない。色っぽくはない。だけど見てみたいな、小出さんの入浴姿。
──はっ!?
僕は一体、何を想像しているのだ。
クラスメイトの、しかも好きな女の子の入浴姿を想像するだなんて。それでは僕が、まるでヘンタイみたいじゃないか。
いけないいけない。
冷静になれ、僕。
ヘンタイ的な想像はやめて、紳士的な返信を心がけなければ。
【小出さん、今裸?】
やってしまった。
僕は何を訊いているんだ。血迷ったか、僕!
お風呂なんだから裸に決まっているだろう。ああ……キモい。我ながらキモいメッセージを送ってしまった……。
もう駄目だ……僕は小出さんに嫌われるかもしれない。
【うっふーん♪ もちろん!
すっぽんぽんだよー!
(//∇//)】
……なんだろ、この返し。
小出さんのキャラが崩壊している。
現実ではいつもあわあわしている、あの小出さんとは思えない。たぶん小出さん、ネットで性格変わるタイプの人だ。
うん、まあそれは置いておいて。
僕は今度こそ、落ち着いてちゃんと返信するよう、一文字ずつ気をつけながらメッセージを打ち込んだ。
【小出さん! お風呂でスマホいじらないの!】
【怒られた。しゅーん
(´;Д;`)】
【怒ってるんじゃないの!
風邪引いちゃったら大変でしょ!】
【しゅーん(´;Д;`)】
なんだろうか、この可愛い生き物は。
なんか軽い罪悪感を覚える。ちょっと強く言い過ぎたかもしれない。
なので僕は、フォローのメッセージを送ることにした。
【お風呂でスマホもほどほどにしてね。風邪引いて学校休んじゃったら僕寂しいよ】
フォローではあるけど、これは僕の本心だ。
もし明日、小出さんが風邪でも引いて学校を休んでしまったら、僕は寂しくて仕方がない。それに何よりも、小出さんのことが心配で堪らなくなってしまう。
しかし、来ない。
返信が、来ない。
いくら待っても、小出さんからメッセージが返って来ないのだ。
小出さん、どうしたのだろうか。さっきまでは、僕が送ったメッセージが既読になった瞬間、すぐに返事が送られてきていたのに。
僕は若干の不安に襲われた。もしかして僕、小出さんに嫌われた?
例えば、こんな感じで──
『寂しいよ、とか言ってるよ園川のやつ。あーキモい。もう返事するのやーめたー』
そんな……だとしたら、僕はこれから何を希望に生きていけばいいのだ。小出さんに嫌われたら、僕はもう生きていけない。
好きな女の子に──片想いの女の子に、嫌われる。これ以上の絶望が、この世にあるだろうか。いや、ない。少なくとも、今の僕には想像が出来ない。
──そう、僕が思い詰めていると。
『ピロン』
メッセージが返ってきた。
僕は恐る恐る、小出さんからのメッセージを開封する。
【ありがとう♡】
その返事は短いけれど、だけど小出さんの気持ちがいっぱいに詰まった、温かなメッセージだった。
僕はスマートフォンを机に置いて、ベッドに寝転び天井を見つめる。
小出さんの返事が、嬉しくて仕方ない。
僕の中で、小出さんの存在がどんどん大きくなっていく。
それを僕は実感した。
小出さんと僕は、友達になることが出来たのかもしれない。
だったら僕は、小出さんともっと仲良くなるためには、これからどうすればいいのだろうか。
僕はもう一度、小出さんのメッセージを読み返した。
そうすれば小出さんから、勇気がもらえるような気がしたから──。