「どうしたの?」


あたしの席の近くを通ったときにそう聞くと「家に泥棒が入ったの」と、真里菜は言った。


「泥棒!?」


あたしは驚き、思わず大きな声で聞き返してしまった。


真里菜はうなづくと、自分の部屋に隠しておいた一千万円が盗まれたと説明した。


それはきっと当たった宝くじのことだろう。


「どうして自分の部屋に置いてあったの?」


「だって、必要なときにすぐに取り出せるように……」


真里菜の声は小さくしぼんでいく。


ずっとお金に困っていた真里菜は銀行ではなく、手元にお金を置いておきたいと考えたみたいだ。


そんなことをしたら、酒におぼれている父親に奪われてしまうかもしれないのに。


実際にそのお金を奪ったのは泥棒らしいから、余計に悪い結果になってしまったようだ。


「今まで通りおごってあげるから、大丈夫だって」


咲が真里菜にそう声をかけている。


普段遊びに出かけるときはいつも咲のおごりだったみたいだ。


しかし、真里菜の表情は冴えないままだ。


一千万円という大金を失ったのだから、当然だった。