「あたし、ナナに出会うまで友達もいなかったし。施設育ちで天涯孤独だし、だから大丈夫なんだよ」


美緒の言葉にあたしは左右に首を振った。


友達が少なくても、施設育ちでも、そんなのは関係ない。


こんなことをされて大丈夫な人間なんているわけがないんだから。


それなのに、美緒はずっと笑顔だった。


切れて血が流れている口元を懸命に押し上げている。


その笑顔が胸に刻み付けられていくようだった。


「ほら、本人はこう言ってるだろ」


咲は乱暴な口調になり、あたしを無理矢理立たせると再び木切れを握らせた。


美緒はあたしへ向けて穏やかな表情を浮かべている。


ここでやらないと、また殴られることになる。


今度はあたしが絶対様になれと言われるかもしれない。


あたしは緊張で汗を滲ませながら木切れを両手で握り締めた。


人を殴ったことなんてない。


ましてや親友を殴ることなんて、絶対にありえないと思っていた。


そんなあたしが今、美緒の前に仁王立ちをしている。


「殴る前に絶対様におなりくださいって言うんだぞ」


咲に言われて、あたしはうなづいた。


だってこれは絶対様を作る儀式だから。