「離してよ!」


咄嗟に叫び、暴れる。


「ナナちゃんどうしたの? なにがあったの?」


周りに人がいるせいか咲は驚いた表情であたしを見て、そう言った。


咲があたしを『ナナちゃん』と呼ぶことなんてありえない。


呼び捨てか、お前、おい、と名前すら呼ばれないことのほうが多いのだ。


「もしかして痴漢? それならこっちだよ」


咲はひとりで適当なことをしゃべりながら、あたしの腕を掴んで強引に歩き出し

た。


駅の前にある交番へ向かうふりをしているのだ。


でももちろん、交番へは行かないことはわかっていた。


「落ち着いてナナちゃん。大丈夫だからね」


あたしが反論するのをさえぎるように真里菜が言った。


歩きながら3人はあたしの体を取り囲んだのだ。


周囲からあたしの姿は隠れてしまう。


そんな恐怖心を抱いたとき、咲が一瞬振り向いた。


その表情はすごく冷たくて、骨まで凍てついてしまいそうだ。


「あたしたちから逃げられると思うなよ」


あたしの後ろにいる真里菜がそうささやき、そして笑ったのだった。