「ちょっといい?」


咲があたしに声をかけてきたのは1時間目の授業が終わった頃だった。


今日はあと2時間授業を受ければ帰れるので、クラスメートたちはいつもよりも騒がしい。


さっきあたしに声をかけてきた生徒は、ほかに遊ぶ相手を見つけたようだ。


みんな、その程度なのだ。


真里菜と光が死んだって日常が劇的に変化するわけじゃない。


憎まれていた2人だったから余計にそれが浮き彫りになっていく。


「なに?」


あたしは咲を見上げた。


友人を2人失った咲の顔色はとても悪い。


それに、哀れに感じられるくらい、咲は誰からも声をかけられなくなっていた。


「外で話がしたいの」


「でも、もう次の授業が始まるよ?」


休憩時間は残り5分ほどだ。


今から教室を出て離す時間はない。


しかし、咲はゆずらなかった。


「いいから、来て」


そう言うと、あたしの腕を引っ張って強引に歩き出した。


足を骨折しているとは思えない力に根負けして、咲の後を歩く。