『マスターお疲れです。』

朝7時からopen札をかける
僕達夫婦のブックカフェ。

夜11時に
バイトくんが上がりの
挨拶をして、
closeの札をかけた。

結局、店の情報誌で見たとか
ほざいて

黄昏時
散る前は
綴じきらない蓮華を

見聞やと
意味深に嗤う
神使等は連れだって
出て行った。

本当は

昼に妻を
見に行く客と
同じで、
こんな僕を
見聞に来たのだと
充分理解しているよ。

妻は彼等にモテモテだからね。


『明日また、よろしくお願い
します。お先ですっ。』

バイトくんが帰り、
僕は
坪庭を越えて設えた
螺旋階段を

地下へと降りる。

両親の書店時代の
蔵書に
僕の収集本書庫。

幾つか店に出す本と、
ネットで希望された本を
腕に、
そのまま
住居になる2階に上がると、
独りシャワーの下で
暖かい水音を
浴びる。

僕は3年前に
交通事故で眠ったままになって、

『睡』

には、深淵彷徨う
夢で会った。

僕はすでに
第1チャクラが
破損して、
生体エネルギーを
地と体に循環出来なくなり、

本当は衰弱死だったと
其の時
彼に告げられた。

そんな僕の、為

妻が

『睡』

と、夢から醒める
交渉をした
のは

神の御技で、
妻の生体エネルギーを僕
とシェアするという
契約。



『PPP、PPP』

アラームの音。

シャワーを終えた
僕は、
寝室のドアを開け

ダブルベッドで
死し眠る妻の姿を

見つめる。不意に、



『何故、お前の腹黒なるを、
奴等は知らぬか、愚かな人か。』

僕目当ての
女性常連客を揶揄する、

『睡』

の台詞が
僕の頭内に
ぽかりと浮かび木霊する。

子どもの頃から変わらず
素直に清い心が
眩しい妻。

とりかえれるを知れば
清い彼女は、僕の為に全て
身を投げ出してしまうだろう
けど、

それは、とても

嫌なんだ。

ことば交わせず、
まぐわ獲ず、
子も成されない。

それでも

微ぎもしない胸の
生きる温のない君でさえ、
腕に囲い離れ難くて
奴彼に
取られまいと足掻くんだな。

今日も今日で、
唯一の
交換ノートに沢山沢山
記して

妻の冷たい薫りに
縋り絡み付くと、
僕らの
夜をつないで

愛おし過ぎる
君にはきっと
呪い同然の
合言葉を

唇ごと耳へ流し込めば
とりかえ、、に、な、る

『おやすみ。』

僕の最愛の君