というか、しれっとそんな前の話をされたがシンは何歳なんだと首をかしげる。竜と魔法使い、加えて精霊も長命らしいとは聞いているがシンの見た目は自分とさほど変わらない。十代後半から二十代前半といったところだろうか。
「ここ上ったら俺の棲家だよー、手ぇ貸そうか?」
「助かる」
洞窟の突き当り、と思っていた広い空間の壁はほぼ崖のような急傾斜だった。その氷のような羽でシンは体を浮かせるとジオルグの腕を引いて軽々と上昇した。
女のような見た目のくせにけっこう力があるんだなとシンの羽を観察してみる。見た目は氷細工の蝙蝠の羽だが、動きはなめらかだった。どんな細胞だとあんな色になるのか教えてほしいくらいだ。
「よっと、こっちこっち」
枝分かれした道の一つを慣れた足取りで進む。行き着いた先にあったのは大陸の闘技場のような円形の広場で、その天井は聖堂のような丸みを帯びた高さのあるドーム状。この極寒で青々と茂る芝生と、色とりどりの花であふれた花壇。果物が鈴生りになっている木々。そして、貴族の邸のような豪奢な洋館がそこにあった。
「……あれ、か?」
「そ、俺の棲家。最近屋根の色変えたんだーいいだろ、深緑色」
「棲家というのでてっきり、野営のようなものを想像していたが」
「そんな時期もあったねー」
あったのか、と声を上げそうになったのをぐっとこらえる。そうだ、シンはおそらく「語り部」だ。魔法も使えるしいちいち驚いていたらきりがないだろう。心を静めて後を追う。玄関の扉を開けるとシンはただいまーと声を張った。
「シンさまー! おかえりだべー!」
「んんんぁあ? なーに、なーに? だあれぇ?」
「わー! もしかして人間じゃない? すっげー! 本物の人間だ!」
「彼らはなんだ⁉」
落ち着けた矢先にこれだった。
小型犬ほどの四足歩行の、白いイルカ? と、目が隠れるほどのおかっぱに猫の頭とトナカイの角を持つ少女、星のようなとがった頭部が宙に浮いている、少年っぽい服装の人間の体。
彼らも魔法時代に生きていたものだろうか。まじまじと見つめると「人間にも顔あるんだな!」と逆に興味深そうに見つめられた。(もっとも二人は目が確認できないが)