〜2〜

「花愛くん。さっきは急にごめんね。自分でもよくわからないんだけど思わず?みたいな感じで、、」
向こう側から歩いてきた花愛くんを呼び止めて言う。
結局あの後、水を置いて花愛くんは戻って来なかった。
……自分でもよくわかんないなんて嘘だ、本当はわかってる。どうして、泣いてしまったのか、なんて。でも、世界は嘘でいっぱいだから。私は今日も安っぽい笑みを顔に貼り付けて嘘を吐く。彼のその綺麗な瞳を見れば私の吐いた嘘なんて見抜かれてしまっていることくらいわかっている。あの頃、私が嫌いだったつまらない人間になってしまっているんだ。わかっているからこそ私は出会うすべての人に対して嘘を吐くのだろう。それは花愛くんに対しても例外じゃない。

「全然大丈夫ですよ!美里先輩。それより、俺の教育係?っていうのかな??は、美里先輩にお願いすると佐々井部長が仰っていました。なので、本日からご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。」
しわひとつないまっさらなスーツを着た彼はそう、丁寧に私に頭を下げた。優しい物腰、すーっと伸びた背筋にスラッとした体型。この世の美を丁寧に丁寧にかき集めて作られたのでは。と思ってしまうほどの甘いルックス。きっとこの子はスクールカーストのてっぺんで生きてきた人だろうと信じて疑えないほどのコミュニケーション能力。正直私にないものをすべて持っている彼を羨ましく思う。
 ……そして、私はそう思ってしまう私をより一層嫌いになる。

「そう、今日からよろしくね。じゃあ、デスクとかはもう分かってるみたいだから早速、仕事内容について教えていくね。」
こんなふうにしか人と話せないのかと思うと自分のことなのに少し悲しくなる。
完璧に作られた笑顔でしか人と会話できない、接することができない、私を救ってくれた人はもう…
あの時から、私はずっと気味の悪い微笑みを顔に貼り付け続けている。
社交性と本心は皆誰しもが必ずしも同じであるとは限らない。
❝違うことの何が悪いの?別に良いじゃん。同じである必要なんてないんだ❞
ずっと昔、私に言ってくれた人がいた。あの頃私が信じていた大人は誰も私に本当のことを教えてはくれなかった。彼らは常に私の考え方を否定した。…否定、し続けた。自分の考え方を否定し続けられる私、は、彼らの言うことこそが正しいんだと信じるようになった。当たり前だろう。ずっと否定し続けられればきっと皆理解するだろう。それがどれだけ人の精神を操ることが出来るようになるのだということを。彼らはそれを理解していた。だからこそ、私を否定したのだろう。否定、し続けたのだろう。