年に一度、僕の家の目の前にあるこの通りは人々の幸福に満ちたいくつもの灯りで埋め尽くされ、夜の静かな街を華やかにする。
 人々は思い思いに自分を飾り付け、待ち遠しかったその日を大切な人と楽しむ。
 そしてこの通りが人で賑わい始めた頃、暗い夜空の中、大きな爆発音のともに満開の花が空に咲いて夜空を彩る。
 赤、そのあとは青、オレンジと緑が一緒に上がり、また赤が上がる。
 人々はそれを見て歓喜の声を上げる。そして、幸せに満ち溢れた顔で夜空を見上げる。
 それを僕は毎年この薄暗い部屋から一人で眺めていた。
 一番近くにいるのに、僕の心はいつも一番遠い場所に居た。
 この暗がりが僕を飲み込んで世界から消してしまうんじゃないかと不安だった。
 寂しくはなかった。でも、孤独だった。
 僕にもいつかああいう風に人と笑い合える日が来るのだろうか。この暗い部屋から抜け出して、今眺めているこの世界の住人として過ごせる日が来るのだろうか。
 そんな甘い考えを持ってしまった自分に対して苦笑いを浮かべ、ふと顔を上げた。
 そこには綺麗な満月が僕のこの薄汚れた心とは裏腹にとても美しく、神々しく光を放っていた。
「今夜は綺麗な満月だ」
 不意に、口に出して言ってみた。そうだね、と言ってくれる人はいない。
 __来るわけがないのだ、僕が幸せになれる日なんて。分かっていても希望を持ちたくなる。この辛い日々を乗り越えるための本能的なものなのかもしれない。
 色々な考えを巡らせることに疲れ…いや、正確に言えば楽しそうにしている人々に嫌悪感を抱き始め、窓を閉めようとしたその時、こちらを見つめる視線に気が付いた。
 誰だろうと不思議に思いながら下を覗き込んだ。今考えればただの冷やかしに来たあいつらかもしれなかったが、そこに立っていたのは一人の美しい少女だった。
 彼女はこちらをじっと見つめ、僕はその視線に固まってしまった。
 彼女の目は琥珀色の綺麗な色で、長い黒髪がそよ風に揺れて、とても美しかった。
「……」
 彼女が言葉を放つのと同時に花火が上がったせいで何を言ったのか聞き取れなかった。
 彼女はあれで満足したのかふらっとその場を離れていった。
 そんな彼女のあとを僕は目で追い続けた。
 僕は彼女に一目惚れをした__。