「では、いきますよ」

アレスは、そう言う。

ノキルの真剣な眼差しが、兜をすり抜けて、アレスの目を捉える。

アレスは木刀の刃先をノキルに向けた。

アレスは、木刀を一振りして、攻撃をした。

ノキルは、間一髪で、その木刀を受け止める。

アレスとノキルの木刀の刃が交わる。

木刀を持つ、ノキルの両手に、アレスの攻撃の重さが、じーんと伝わる。

アレスは、ノキルが受け止めきれるより早くに、次の攻撃を繰り出す。

その攻撃も、ノキルは全力で受け止めた。

ノキルは、受け止めた勢いを逃すように、一歩、後ずさりする。

アレスは、一歩前進し、その離れた一歩の距離を縮めた。

また一つ、アレスはノキルに攻撃を繰り出す。

ノキルに呼吸を整える間を与えない。

そのアレスの攻撃も、ノキルは歯を食いしばり受け止める。

刃を交える度に、ノキルは後ずさりする。

アレスの猛攻は速度を変えずに繰り返される。

気が付けば、練習場の端まで、ノキルは追い込まれていた。

ノキルの背後には、練習場の敷地内に在る小さな林が在った。

ノキルは、太い幹の木に背を預けた。

次のアレスの攻撃がくる。

ノキルは、アレスの攻撃から逃れるように太い幹を盾にして、木の裏側に身を潜めた。

高鳴る鼓動が、荒い吐息と共鳴して、ノキルの耳の奥で脈打つ。

口呼吸の吐息が兜の内側に充満する。

口の中が乾燥して、喉が貼り付く。

心臓が口から出てしまいそうで、ごくりと唾液を飲み込む。

飲み込んだ唾液で、貼り付いた喉が潤いを取り戻す。

再び、口呼吸で循環して、息を整えていく。