ノキルは馬に乗り、並木道を駆ける。

その後ろを小隊が馬に乗り、続く。

太い幹の木々は、若葉を広げて、並木道に影を作る。

太陽の光が当たる若葉は、薄緑色に透き通っている。

その枝葉は柔らかな風に揺れ、ひらひらと木漏れ日を魅せる。

風は、花の甘い香りを運んでいる。

その香りは、身に付ける鎧の隙間に入り込む。

長きに渡る、鎧に染み付いた戦いの匂いが、仄かに芳しい香りになる。

小鳥は、まるで背伸びをするかのように、気持ち良く、さえずる。

兎は、道で頭を掻いている。

虫の音が、自然の豊かさを教えてくれる。

穏やかな時を動物達は過ごしていた。

その平穏を雷鳴の如く、駆け抜けていく。

兎は木陰に隠れ、ノキル達を見送る。

小鳥は、翼を素早く羽ばたかせて、一つ奥の木へ飛んでいく。

飛行する体を左右に傾けて、若葉と若葉の隙間を器用にすり抜ける。

一本の枝を両足で掴むと、翼をたたみ、とまった。

 目的の村までの距離か半分になる頃、ノキルの鼻がいち早く異変を感知した。

花の甘い香りに焦げた臭いが混ざり始めた。

ノキルは、馬の綱を引き、止まった。

小隊もノキルの後ろで止まる。

地面に伝わる振動。

不規則に微振動している。

その振動は段々と近づいてくる。

ノキル達に迫ってきていた。

ノキルは前方を見る。

小隊は武器を持ち、戦闘態勢になった。

前方から一匹の兎が現れた。

ノキルを見て、立ち止まる。

止まる事のない地鳴り。

くんくんと二回嗅ぎ、鼻を動かす。

再び、兎はノキル達へ向かって走り始めた。

その時、私達は驚愕した。

兎を先頭に、鹿や鼠などのあらゆる動物達が、ノキル達へ走ってきていた。

動物達は、ノキル達を気にせずに走り去っていく。

馬の足と足の間もすり抜ける。

その異様な光景から、馬は不安で背を向けようとする。

ノキル達は、それを何とか静止させる。

鳩、雀などの鳥も枝葉をすり抜けて、飛び去っていく。

ひとしきり、動物達は通り過ぎると、地鳴りも静まった。

動物達の声が全く聞こえない。

今となっては、木漏れ日も、鬱蒼とした林を妖しげに映すだけだった。

砂埃の臭いが立ち込む。

その時だった。

ひりゅりゅと音を鳴らして、並木道に一本の火矢が放たれた。

着弾した周囲を延焼させる。

複数の火矢が放たれ、並木道は瞬く間に燃え広がった。

「皆、走り抜けるぞ」

ノキルは小隊に言う。

「はい!」

小隊は忠誠を示す。

並木道は、もはや炎のトンネルだった。

時折、燃え朽ちる木々の枝が折れて、傷口から炎を吹く。

その炎を浴びながら、先へ向かう。

ノキルは考えていた。

一方から一定の間隔で、火矢を放っている。

間違いなく一人が火を放っている。

しかし、火矢を放つ間隔が短い。

熟練でも、火矢を扱うのは難しい。

やはり、ミーアを攻撃した射手か。

対峙を覚悟した。

どうしてだろうか。

胸騒ぎがする。

そもそも、どうして、並木道に火を放つ?

退路を断つ為か。

それとも、救援を断つ為か。

こちらが囮で、王宮への攻撃が目的か。

そうだとしても、王宮へ攻撃するには、相当な軍勢が必要だ。

密偵から、そのような情報は無い。

炎に飲まれつつある木の根元に、一人の男性が、もたれかかっていた。

その男性の服装から、あの村の人だとわかる。