エシアとノキルは、王宮殿の前にある庭園を散歩している。
エシアの一歩後ろをノキルが歩く。
「今日は早々にお帰りになられて良かったですね」
ノキルは言う。
「ええ。でもお帰りになる時に、嫌な笑みを見せていましたわ」
エシアは答える。
「はい。既に密偵に探らせています」
「ノキルは本当に仕事が早い。助かるわ」
「勿体ないお言葉です」
ノキルは小さく頭を下げる。
「ジョフィルが駐在している村の復興が終われば、この国も元の生活に戻りますね」
エシアは言いながら、庭園に咲く花に鼻を近づける。
花の芳しい香りは鼻を楽しませ、うっとりと体の緊張がほどける。
「はい。国の再建も間近となり、私も心が躍るのを感じます」
「ふふ」
エシアは微笑みを溢す。
「いかがなさいましたか」
ノキルは突然の笑みに驚いているのだろう。
しかし、表情をほとんど変えない。
「ふふ。ノキルは、もう少し、自分の気持ちを表に出した方が素敵ですわ」
「いえ、そんな」
「そうだ。ノキル、目を閉じて」
「目を、ですか?」
「そう、目よ」
ノキルはエシアに言われるがまま、目を閉じた。
エシアはノキルの前に手をかざして、見えていない事を確認する。
忍び足でノキルの背後に向かう。
砂利と靴底の擦れる音も出ないように慎重に慎重に。
そうだ、影も気を付けないと。
ノキルは目を閉じていても瞼の裏側の光量によって周囲を認知できるから。
我ながら、最高の隠密能力だわ。
ノキルに認知されないように動けるなんて、他に居るかしら。
エシアはそう思いながらノキルの背後に立つ。
思わず頬が緩み、口角が上がる。
内心、わくわくとした高揚感にはしゃいでいる。
驚かせたら、どんな顔をするのだろう。
せーの!
エシアは心の中で意気込んで、ノキルの背中を力一杯、両手で押そうとした。
しかし、その意気込みによって、踏み込んだ靴底と砂利が僅かに擦れた。
「あ、靴紐を整えなければ」
ノキルはそう言うと、しゅっとしゃがんだ。
ノキルは片膝を立てて、靴紐を整えている。
力一杯に押そうとした両手は、いく当ても無くなり、重心が前方に傾く。
その勢いと重心に、踏み込んだ足が耐えられず、もつれ、上体が崩れていく。
エシアは焦った表情を浮かばせながら、両腕をばたつかせる。
そのまま、上体が傾いていく。
エシアは無意識のうちに両手を顔の前に広げて、転ぶ体勢を作る。
ノキルは倒れゆくエシアを見て、素早く立ち上がる。
そして、片腕をエシアの腰を回し、抱き寄せた。
ノキルの胸に私は顔を埋めている。
ノキルの心拍が聞こえる。
なんだか少し早いように感じた。
その心拍を聞いていると、懐かしさを感じる。
エシアは抱き寄せられたまま、ノキルの顔を見上げる。
「エシア様、危ない事はお控えください」
ノキルは、密着するエシアから一歩離れる。
「あともう少しで、驚かす事が出来たのに」
エシアは、着衣のしわを手で直しながら言う。
「私はエシア様の側近です。私情は敵に付け入る隙を与えてしまいます」
「ノキルは本当に真面目ね」
「でも、あの戦いから十年が経ち、穏やかな日々がこうして続くと、自然と安らぎを求めてしまいます」
ノキルは見上げて、空を仰いだ。
ぴぴぴと、小鳥が囀る。
「そうね」
エシアとノキルは、一羽の小鳥を追う。
甲高い声で鳴きながら、小さな翼を素早く羽ばたかせて空へ上昇する。
あっという間に上空へ昇り、目を凝らしても米粒程の姿の小鳥を追うのは難しい。
エシアの一歩後ろをノキルが歩く。
「今日は早々にお帰りになられて良かったですね」
ノキルは言う。
「ええ。でもお帰りになる時に、嫌な笑みを見せていましたわ」
エシアは答える。
「はい。既に密偵に探らせています」
「ノキルは本当に仕事が早い。助かるわ」
「勿体ないお言葉です」
ノキルは小さく頭を下げる。
「ジョフィルが駐在している村の復興が終われば、この国も元の生活に戻りますね」
エシアは言いながら、庭園に咲く花に鼻を近づける。
花の芳しい香りは鼻を楽しませ、うっとりと体の緊張がほどける。
「はい。国の再建も間近となり、私も心が躍るのを感じます」
「ふふ」
エシアは微笑みを溢す。
「いかがなさいましたか」
ノキルは突然の笑みに驚いているのだろう。
しかし、表情をほとんど変えない。
「ふふ。ノキルは、もう少し、自分の気持ちを表に出した方が素敵ですわ」
「いえ、そんな」
「そうだ。ノキル、目を閉じて」
「目を、ですか?」
「そう、目よ」
ノキルはエシアに言われるがまま、目を閉じた。
エシアはノキルの前に手をかざして、見えていない事を確認する。
忍び足でノキルの背後に向かう。
砂利と靴底の擦れる音も出ないように慎重に慎重に。
そうだ、影も気を付けないと。
ノキルは目を閉じていても瞼の裏側の光量によって周囲を認知できるから。
我ながら、最高の隠密能力だわ。
ノキルに認知されないように動けるなんて、他に居るかしら。
エシアはそう思いながらノキルの背後に立つ。
思わず頬が緩み、口角が上がる。
内心、わくわくとした高揚感にはしゃいでいる。
驚かせたら、どんな顔をするのだろう。
せーの!
エシアは心の中で意気込んで、ノキルの背中を力一杯、両手で押そうとした。
しかし、その意気込みによって、踏み込んだ靴底と砂利が僅かに擦れた。
「あ、靴紐を整えなければ」
ノキルはそう言うと、しゅっとしゃがんだ。
ノキルは片膝を立てて、靴紐を整えている。
力一杯に押そうとした両手は、いく当ても無くなり、重心が前方に傾く。
その勢いと重心に、踏み込んだ足が耐えられず、もつれ、上体が崩れていく。
エシアは焦った表情を浮かばせながら、両腕をばたつかせる。
そのまま、上体が傾いていく。
エシアは無意識のうちに両手を顔の前に広げて、転ぶ体勢を作る。
ノキルは倒れゆくエシアを見て、素早く立ち上がる。
そして、片腕をエシアの腰を回し、抱き寄せた。
ノキルの胸に私は顔を埋めている。
ノキルの心拍が聞こえる。
なんだか少し早いように感じた。
その心拍を聞いていると、懐かしさを感じる。
エシアは抱き寄せられたまま、ノキルの顔を見上げる。
「エシア様、危ない事はお控えください」
ノキルは、密着するエシアから一歩離れる。
「あともう少しで、驚かす事が出来たのに」
エシアは、着衣のしわを手で直しながら言う。
「私はエシア様の側近です。私情は敵に付け入る隙を与えてしまいます」
「ノキルは本当に真面目ね」
「でも、あの戦いから十年が経ち、穏やかな日々がこうして続くと、自然と安らぎを求めてしまいます」
ノキルは見上げて、空を仰いだ。
ぴぴぴと、小鳥が囀る。
「そうね」
エシアとノキルは、一羽の小鳥を追う。
甲高い声で鳴きながら、小さな翼を素早く羽ばたかせて空へ上昇する。
あっという間に上空へ昇り、目を凝らしても米粒程の姿の小鳥を追うのは難しい。