アレスの鎧に、きらっと夕陽の光が反射した。

これだ!

しかし、ノキルの思考が、アレスになんて効かないと否定する。

ただ、もう、体力がもたない。

勇気を出して、その策を実行するしか、無かった。

一瞬、脳裏に、エリス王女様の姿が浮かぶ。

そのエリス王女様は、ひらひらと舞う蝶を見て、天真爛漫で柔らかな笑みを溢している。

いくぞ!

ノキルは、心の中で、全身に声を掛けた。

一気に体勢低くして、右足で左に踏み込んだ。

アレスの攻撃を避ける事に成功した。

まだだ、この策はこれからが本番だ。

ノキルは、アレスを中心に、円を描くように走る。

息もまともにできないまま、とにかく走った。

「夕陽、夕陽はどこ」

疲弊した息に、声が混ざる。

ノキルは、目線を左右に向けて、探す。

あった!

ノキルは、夕陽を背にして、アレスに突進した。

僅かな時間も隙も与える訳にはいかない。

どうなっても構わない。

「あー!」

ノキルの口から、無意識のうちに大声が出る。

無我夢中で、アレスに突進した。

ノキルの木刀の先端が、アレスに向いている。

そのノキルの決死の覚悟が周囲に伝わる。

人だかりは、息を呑み、静まり返る。

アレスは、ノキルを見る。

しかし、夕陽の強い陽光に、目が眩む。

夕陽の逆光で、ノキルの姿が見えない。

ノキルの烈々とした気迫が、アレスの気概へ押し詰まる。