大陸の中心には天に届くほどの大きな山があり、そこから流れる川によって、五つの人族の国が分かたれていた。


 大陸の果ては切り立った崖のようになり、川は滝のように流れ落ちて渤海(ぼっかい)という広大な海につながっている。

 そしてその海に浮かぶようにそびえたつのが五(ご)神仙山(しんせんざん)。ちょうど五つに分かたれた人族の国と対になるように浮かぶその神の山は、岱輿(たいよ)、員嶠(いんきょう)、方(ほう)丈(じょう)、瀛(えい)洲(しゅう)、蓬莱(ほうらい)と名付けられ、神が住まう神聖な場所として人々に畏(おそ)れられていた。


 そして、北西にある神山・蓬莱山(ほうらいさん)には天候を操る龍神がいた。

 気分次第で濁流のような雨を降らせ、時には地上のすべてを干からびさせるほどの長い晴天を招く龍神を、人々は畏れ敬ってきた。

 特に蓬莱山と対になる場所に置かれた人族の国・蘭(らん)帝国では龍神との縁が深く、強い神通力を持つ娘を龍神に嫁がせる盟約があった。

 それは百数十年に一度、西の空に赤星の流星群が見られた年に行われる。
 人族の娘を龍神に捧げ、その見返りとして龍神は人族の国に穏やかな雨を与える決まりだ。

 つまり花嫁は、人族が穏やかな天候を手に入れるための生贄(いけにえ)。
 龍神を敬いながらも、神通力を持つ年頃の娘は花嫁になることを恐れていた。
 赤い流星群は不吉の報せに他ならない。
 そして、今――。
 百年ぶりにその不吉の赤星が、群れをなして西の空を流れていった。