巻物はそのまま、光の円になってふたつに分裂し、片方はみずほの手首へ、もう片方は水明の手首へと飛んでいった。
光が消える頃には、みずほの左手首には銀の細いチェーンが嵌まっていた。
「これ、ブレスレット……?」
チェーンは軽く華奢なつくりながらも、純銀製だろうか、輝きが上品だ。中心に水色の水晶玉が埋められており、それは水明の瞳をそのまま宝石にしたようだった。
水明の右手首にも、まったく同じものが嵌まっている。
「それは俺と貴様の間で、番関係が成立したことを示す証だ。つまりは夫婦の証明であるということだな」
「夫婦の証明……」
そうはいってもまだしっくりはこず、ぼんやりブレスレットを見ていたら、その腕を水明がやんわりと取った。
そのまま、みずほの手首に唇を寄せてくる。
「これで俺たちは夫婦だ……貴様は俺から離れられないし、俺も離すつもりはない。一生を添い遂げる覚悟はしておけよ?」
これも育児書を参考にした行動だというのか。気障だが様になる、水明の甘い台詞と仕草に、みずほは「ひえっ」とおののく。
「まま、びっくりー!」
「びっくりー」
ぎょっとするみずほの顔がおもしろかったのか、囃し立ててくる子供たち。
腕が解放されてから、みずほは羞恥に駆られるままブレスレットを外そうとしたが、どう足掻いても外れない。
「契約がある限り外せないぞ。壊そうとしても無駄だ」
「な、なにそれ!? 呪いのブレスレットじゃない!」
「呪いどころか、魔除けの効果もある一級品の御守りだぞ。寝るときも風呂のときも、貴様を守ってくれる優れものだ」
ついでに、どうでもいいが防水仕様だそうだ。
ブレスレットをつけたみずほを改めて眺め、なにやら水明は満足そうにしているが、みずほは手首を押さえて縮こまってしまう。
(うう……さっき水明に唇を寄せられたところが、まだ熱い……)
手首の一部だけが燃えるようだ。
そこで「愛してやる」と言われたときの、水明の熱っぽい瞳まで思い出してしまえば、みずほはもう心臓が破裂しそうだった。
(かりそめとはいえ夫婦になったってことは、子供たちはもちろんだけど、水明ともこれから同じ家に住むのよね……? ひとつ屋根の下で、こんな天然心臓ブレーカーな神様と……?)
チラッと、みずほは水明の顔を窺う。目が合ってしまい、水明からはきれいな微笑みを返された。
その微笑みにさえ、自分への思慕が宿っているように感じるのだから、やはりどう考えてもみずほの心臓は持ちそうにない。
「……話がまとまったところで、母親として最初の仕事だ」
「あ、は、はい!」
改まった口調で告げられ、みずほはピシッと姿勢を正す。みずほに体をくっつけている子供たちも、まねをしてピシッとする。
(う、浮わつくな、私! 水明とのことは置いといて、この子たちのママになったんだから! もっとしっかりしないと!)
そう自分に活を入れながら、緊張感を持って水明の言葉を待ったが、告げられた仕事は意外なものだった。
「子供たちに名前をつけてやれ」
「え……名前、まだないの?」
「慣例どおりならすでに俺がつけているところだが、現役の風神・雷神に、こんなこと滅多にない機会だから、人間に名付けさせたらどうかと提案されてな。それに俺も、母である貴様がつけた方がいいと判断した。名は大切なものだからな」
「プ、プレッシャーが……名前かあ」
みずほはふたりの子供たちを、行ったり来たりしながら見比べる。四つの色付きのビー玉のような瞳が、期待にキラキラしているのは幻覚か。
(ネーミングセンスとかないんだけど……こ、こういうのは、フィーリングで決めた方がいいよね?)
変にこねくり回すと一生つけられそうにないので、みずほは頭に浮かんだ名前をそのまま口にした。
「女の子は風神だから……風子。男の子は雷神だから、雷太でどうかな」
「……安直だな。覚えやすくはあるが」
水明からは及第点といった感じだったが、子供たちは気に入ってくれたようで、「フウは、フウ?」「ライちゃ! ライ!」と名前を繰り返してくれている。みずほも改めて、つけたばかりの名前を呼んでみた。
「風子、フウ」
「あい」
「雷太、ライ」
「あーい!」
しっかり返事をされると、名付け親であるみずほとしても、しみじみと感じ入るものがある。
(これからいっぱい、いっぱい呼んであげたい……!)
しかしながらいったん、ここでお別れのようだ。
「……俺たちはそろそろ退散するぞ。また近日中には迎えに来る。それまでに荷造りをしておけ。逃げるなよ?」
「に、逃げないよ。決意はした、し」
「いい答えだ」
みずほの返答に、水明はひとつ頷いて立ち上がる。彼は「行くぞ、フウ、ライ」と気軽に愛称で子供たちを呼んだ。
どこに帰るのかは疑問だが、あの神社だろうか。だけど素直に頷いた風子に反し、雷太はぐずりを見せる。
「やーあー! まぁだ、ままと、いりゅ!」
「ライ……」
光が消える頃には、みずほの左手首には銀の細いチェーンが嵌まっていた。
「これ、ブレスレット……?」
チェーンは軽く華奢なつくりながらも、純銀製だろうか、輝きが上品だ。中心に水色の水晶玉が埋められており、それは水明の瞳をそのまま宝石にしたようだった。
水明の右手首にも、まったく同じものが嵌まっている。
「それは俺と貴様の間で、番関係が成立したことを示す証だ。つまりは夫婦の証明であるということだな」
「夫婦の証明……」
そうはいってもまだしっくりはこず、ぼんやりブレスレットを見ていたら、その腕を水明がやんわりと取った。
そのまま、みずほの手首に唇を寄せてくる。
「これで俺たちは夫婦だ……貴様は俺から離れられないし、俺も離すつもりはない。一生を添い遂げる覚悟はしておけよ?」
これも育児書を参考にした行動だというのか。気障だが様になる、水明の甘い台詞と仕草に、みずほは「ひえっ」とおののく。
「まま、びっくりー!」
「びっくりー」
ぎょっとするみずほの顔がおもしろかったのか、囃し立ててくる子供たち。
腕が解放されてから、みずほは羞恥に駆られるままブレスレットを外そうとしたが、どう足掻いても外れない。
「契約がある限り外せないぞ。壊そうとしても無駄だ」
「な、なにそれ!? 呪いのブレスレットじゃない!」
「呪いどころか、魔除けの効果もある一級品の御守りだぞ。寝るときも風呂のときも、貴様を守ってくれる優れものだ」
ついでに、どうでもいいが防水仕様だそうだ。
ブレスレットをつけたみずほを改めて眺め、なにやら水明は満足そうにしているが、みずほは手首を押さえて縮こまってしまう。
(うう……さっき水明に唇を寄せられたところが、まだ熱い……)
手首の一部だけが燃えるようだ。
そこで「愛してやる」と言われたときの、水明の熱っぽい瞳まで思い出してしまえば、みずほはもう心臓が破裂しそうだった。
(かりそめとはいえ夫婦になったってことは、子供たちはもちろんだけど、水明ともこれから同じ家に住むのよね……? ひとつ屋根の下で、こんな天然心臓ブレーカーな神様と……?)
チラッと、みずほは水明の顔を窺う。目が合ってしまい、水明からはきれいな微笑みを返された。
その微笑みにさえ、自分への思慕が宿っているように感じるのだから、やはりどう考えてもみずほの心臓は持ちそうにない。
「……話がまとまったところで、母親として最初の仕事だ」
「あ、は、はい!」
改まった口調で告げられ、みずほはピシッと姿勢を正す。みずほに体をくっつけている子供たちも、まねをしてピシッとする。
(う、浮わつくな、私! 水明とのことは置いといて、この子たちのママになったんだから! もっとしっかりしないと!)
そう自分に活を入れながら、緊張感を持って水明の言葉を待ったが、告げられた仕事は意外なものだった。
「子供たちに名前をつけてやれ」
「え……名前、まだないの?」
「慣例どおりならすでに俺がつけているところだが、現役の風神・雷神に、こんなこと滅多にない機会だから、人間に名付けさせたらどうかと提案されてな。それに俺も、母である貴様がつけた方がいいと判断した。名は大切なものだからな」
「プ、プレッシャーが……名前かあ」
みずほはふたりの子供たちを、行ったり来たりしながら見比べる。四つの色付きのビー玉のような瞳が、期待にキラキラしているのは幻覚か。
(ネーミングセンスとかないんだけど……こ、こういうのは、フィーリングで決めた方がいいよね?)
変にこねくり回すと一生つけられそうにないので、みずほは頭に浮かんだ名前をそのまま口にした。
「女の子は風神だから……風子。男の子は雷神だから、雷太でどうかな」
「……安直だな。覚えやすくはあるが」
水明からは及第点といった感じだったが、子供たちは気に入ってくれたようで、「フウは、フウ?」「ライちゃ! ライ!」と名前を繰り返してくれている。みずほも改めて、つけたばかりの名前を呼んでみた。
「風子、フウ」
「あい」
「雷太、ライ」
「あーい!」
しっかり返事をされると、名付け親であるみずほとしても、しみじみと感じ入るものがある。
(これからいっぱい、いっぱい呼んであげたい……!)
しかしながらいったん、ここでお別れのようだ。
「……俺たちはそろそろ退散するぞ。また近日中には迎えに来る。それまでに荷造りをしておけ。逃げるなよ?」
「に、逃げないよ。決意はした、し」
「いい答えだ」
みずほの返答に、水明はひとつ頷いて立ち上がる。彼は「行くぞ、フウ、ライ」と気軽に愛称で子供たちを呼んだ。
どこに帰るのかは疑問だが、あの神社だろうか。だけど素直に頷いた風子に反し、雷太はぐずりを見せる。
「やーあー! まぁだ、ままと、いりゅ!」
「ライ……」