「間宮さん?」
「お願いだから止めて!私の見ているところで人を死なせるのは止めて!!」
「どうして?こいつは生かしておけない」
通じてない…!
「そういう理屈じゃないの!人は簡単に死んじゃいけないの!!どんな人にでも家族はいて死んで悲しむ人がいるかもしれないの!もう離してあげて!!」
卓人は舌打ちをし、近くの川に男を投げ捨てた。
なんて惨い…。慈悲の心はあるのか。
私はとっさに痛い体に絶え、川へ向かった。
見下ろした時には男は岩によじ登り、ぐったりしているのが見えた。
ほっとため息が出る。
良かった…死んでなかった。
「間宮さん、何やってるの。帰るよ。今日は何もする気が起きない」
「…卓人くん…」
私は今日、初めて卓人が犯罪者なのだと自覚した。
それと同時に、人に殺意を向ける時の卓人は苦しい目をするということが分かってしまった。
卓人くん、本当は人を殺すの…抵抗あるんじゃないの?
殺したいと思うのはきっと本当なんだと思う。
だけど躊躇いがあるのを私は見逃さなかった。
どうして犯罪者になったの?
何があなたをそうさせるの?
不機嫌な態度を隠しもせず、無言を貫く卓人が心配でならなかった。卓人の車に乗り込んでからも卓人のことしか考えていなかった。
「里未さん」
声が…する。
え、声?
びっくりして、目を見開く。
カーテンを開かれた窓から太陽がギラギラ輝いている。
眩しくて目を細める。
「朝だよ、おはよう」
卓人がニコニコしながら立っていた。
あ、そういえば、昨日…。
もう大丈夫なんだね。気まずい空気だったらどうしようかと思っていた。
目をこすりながら時計を見る。
「嘘っ!?」
私はあわてて飛び起きた。
「どうしたの、慌てて。今日何かあるの?」
「遅刻!」
と叫んだけど、まさか誘拐されて学校にも行かせてくれるなんて有り得ないと思い出し口をつぐむ。
失言したかも…。
「あぁ…そっか。間宮さんって大学通ってたんだっけ…。行きたいの?」
「まぁ…せっかく苦労して資格も取ったし…そりゃ…?」
え?なに?行かせてくれるの?
「期待の目で見られたらね…仕方ないから許可する。毎日来てた人が来なくなったらそれこそ危うい。真面目な自分に感謝してね。送ってあげる。帰りはまた連絡してよ。一人で歩かれると困る」
「いいの!?」
思わず詰め寄る私に軽く肩をすくめただけで、卓人は何も言わずに車のキーを取りに行った。