少し迷った。
ここで降りたら何かに巻き込まれるかもしれない。それだけは絶対に嫌だった。桐生卓人と共にいることを望んだけど、犯罪を手助けしたり巻き込まれたり自分が犯罪者になるのだけはゴメンだった。
でも、それ以上に頭を埋めたのはここで卓人を見離すと私が後悔するような取り返しのつかないことが起きそうな気がしてならないのだ。
「行くわよ。こんなところで置いて行かれるなんてもっと嫌よ」
心霊現象を信じてるわけじゃないけど、何か出てもおかしくない。
卓人の隣をしっかりキープして歩く。
「…間宮さん、もしかして暗いの怖いの?」
「…そんなんじゃ…ないわよ…」
声が少し震えてしまう。怖いのバレバレだった。ふっと息を吐く音が耳元でした。
「くっ付いてたらオバケも嫉妬して寄ってこないかもね、ほら」
腰を抱くようにして引き寄せられてしまう。
恋愛にはなかなかご縁のない生活だったから、急に異性を意識するようなことをされては戸惑ってしまう。
いっきに顔が熱くなる。
「いや、あの、まってっ…は、恥ずかしいから…」
やめてとは続けられなかった。
私が言葉を発した時から、卓人からの視線をずっと感じていたのだ。そんなに見られたら余計に恥ずかしい。
「そう?でも安心するでしょ?怖いって感情どこかいってたみたいだし」
「だからって…」
今どきの若い子って積極的っていうか、距離感いまと違うのかな…。火照った顔を手で仰いいて誤魔化す。
そんな私のことなんてすでに卓人には関心の的ではなかった。掴まれていた腰の手がふいにパッと離れる。
ハッとして卓人を見る。笑っていた。
「……何かここ危ない空気が流れてるね。面白そうだ」
「…どういうこと?」
「あれ?分からないかな。ここ…ガソリンの臭いすごくする。何やろうとしてるんだろうね…。楽しみだ」
ゾッとした。何てことをサラリと言うのだろう。やっぱり狂っている。
私は彼の精神状態が不安になる。
「卓人くん?」
卓人は私の呼びかけに反応しないほど、今の状況を楽しんでいるのだ。
いつの間にか卓人の足は速くなり私が後ろを歩く形になっていた。
いよいよおかしな雰囲気になってきて自分がここに居ていいのか分からなくなってくる。
と、いきなり卓人は立ち止まり、私は卓人の背中に突っ込んだ。
「な、何?」
「ねぇ、君でしょ?あの家、焼こうと考えてるのって」
明らかに私に言った言葉ではなかった。