「卓人くん…今日も夜、出かけるの?」
「行くよ。どうして?」
「…どうしてって…それは…」
 まさか聞き返されるとは思わなかった。
 理由なんて…あなたに人を殺して欲しくない、それだけなのに。
「どうしたの、俯いて。…そんな顔しないで。何か言いたいことがあるんでしょ?」
 そんな顔…って、私どんな顔してるの?分からない…言いたいことなんて山ほどある…でも言ってどうにかなるの?
 あなたにあまり殺しを重ねてほしくない。
 私には見守ることだけしか出来ない。だけど、もう…見ていられない。
 卓人の服の裾を掴む。
「あまり夜出かけていかないで…」
 それは言葉と共にごく自然に溢れたような感覚がする。
 しばらく卓人の反応を待っていたが、あまりにも何も返されないので不安になってきた。なんで何も言わないの?私、そんなにおかしな事を言った?
 おそるおそる顔を上げてみれば困惑する卓人の表情が見えた。
 うそだあ…。驚いた。
 目を丸くして、信じられないことを聞いたとでもいう様だ。これまで表情に変化のない機械みたいな人だと思っていたのだ。
「え、どういう感情なの、それ…」
「…えー…里未さんさ、それはこっちのセリフだよ…どうしてそんなこと言うの?」
「…そんなの、私にだって分からないよ…勝手に口から出たって言うか」
 だけど、あれが私の本心だ。
「んんー…あー…そっか…勝手に、ねぇ…里未さんってさ…やっぱいいや…あぁもう調子狂うな…分かったよ、行かない。行かないよ。…これでいいんでしょ」
 あ、顔が赤い。
 この表情は初めて見るな。口角が自然と上がるのが分かった。
「ありがとう」

 トクン…トクン

 心臓が高鳴る。私はこの鼓動のリズムを知っている。
 私は彼に恋をしてしまったんだ。その想いをもう否定しない。
 私はあなたに恋していることを認めよう。