「結局、リュージさんが見たっていう妖精は何だったんですか?」
「詳しい事は分からないんだけど、妖精の女王様に花粉を集めさせられていたらしくて、それを薬にして効能を上げたら凄く喜んでたよ」
「妖精の女王……ですか」

 美味しい昼食に舌鼓を打ち、再び出発しようかという所で、アーニャが事の顛末を聞いてきた。

「そうだねー。お兄さんの作った薬で凄く喜んでいたね」
「セシルさんも妖精を見たんですね?」
「うん、見たよー。お兄さんが作った目薬を使うと、隠蔽魔法で隠された物まで見える様になるみたいなんだ」
「そういう事ですか。良かった……妖精の女王とか言い出すので、症状が悪化したのかと思っちゃいました」

 症状が悪化……って、あれ? アーニャには、危ない幻覚が見えていると思われていたの!?
 今度、お礼をしに来てくれるって言っていたので、その時にはアーニャにも目薬を使ってもらって、妖精を見てもらわなくては。
 固い決意の後に、後片付けを済ませ、再び森の中へ。
 滋養強壮効果のあるポーションも飲んで居るし、何事も無く順調に進んで行って、夜を迎える。

 夕食を済ませた後、セシルはラノベ、アーニャは漫画を読みながらリビングで寛ぐ。
 そんな中、俺は日中に摘んだ薬草を調剤室でひたすら調合していく。
 というのも、セシルの見立てでは、明日の夕方頃には森を抜けるという話だったので、次の町へ着いた時に売るポーションを用意しておくためだ。
 資金稼ぎになるし、ついでに商人ギルドで話も聞けるしね。
 とはいえ、暗視目薬は売る訳にはいかないけれど。
 隠蔽魔法を打ち破る効果があるって事は、この世界のセキュリティ的なものを崩壊させる恐れがあるし、セシルも一度しか見た事が無いっていう妖精を、大勢の人が目撃する事になってもダメだろうし。
 という訳で、売った実績もあるマジック・ポーションなどを中心に作っていく。
 しかし、バイタル・ポーションのAランクとかが出来てしまったんだけど、この前の商人ギルドのリアクションを考えると、Aランクは出さない方が良いかもしれない。
 そんな事を考えながら、初めて見るポーションなどを含めて纏めていると、

「お兄さん。そろそろお風呂へ入ろうよー」
「分かっ……じゃなくて、セシルはアーニャと入ろうか。その代わり、夜はちゃんと一緒に寝るからさ」

 セシルがお風呂へ呼びに来た。
 唇を尖らせるセシルをなだめつつ、アーニャにお願いした後、昨日同様にベッドへ。

……

 翌朝。薬もいっぱい作ったし、街へ着いたら二人の服を買ってあげないとね。
 そんな事を考えながら歩き通し、陽が落ち始めた頃に森を抜け、茜色に染まった草原へ出た。
 出た……のだが、突然ファンタジー世界の洗礼を受ける事になる。

「セ、セシルッ! 危ない! こっちへ!」
「大丈夫だよ、お兄さん」
「いや、大丈夫じゃないって! アーニャも何とか言ってよ」

 周囲に街道や建物もなく、隠れる物が何一つない草原の真ん中で、大きな野犬? の群れに囲まれてしまった。
 それなりに距離はあるものの、後ろへ下がれば森があるので、木に登れば犬は襲ってこないと思う。
 だが、十数匹は居そうな野犬の包囲網を突破しなければならないが。

「リュージさん。落ち着いてください。セシルさんが大丈夫だと言っていますから、大丈夫でしょう」
「いやいやいや、むしろ、どうしてアーニャもそんなに冷静なのさっ! こんなに沢山の野犬に囲まれて居るんだよ!?」
「そうですが、まぁ所詮犬ですし」

 所詮犬……って、俺たちを取り囲んでいるのは、大きな牙のあるドーベルマンみたいな犬だ。
 狼だって言われても信じられるくらいの犬に囲まれて居るのに……そうだ! 城魔法だっ! 突然大きな家が現れたら、この野犬たちが驚いて逃げるかもしれない!
 それに、家の中に入って閉じこもってしまえば、諦めて逃げて行くだろう。
 初めての状況でパニックとなってしまい、ようやく城魔法を使うという発想に至った所で、先頭に居たリーダー格らしき野犬がセシルに飛びかかる!

「セシルッ!」

 間に合うか!? とにかくセシルを守らないと!
 勇気を振り絞り、セシルに向かって駆け出した所で、周囲に居た野犬たちが回転しながら上空へと吸い込まれていき、あっという間に居なくなってしまった。

「何がどうなっているんだ?」
「え? 襲いかかって来たから、竜巻を発生させて遠くへ飛んで行ってもらったんだけど……お兄さん、どうかしたの?」
「竜巻!?」
「ん? ボクが使った風の魔法だけど?」

 そっか。セシルはエルフなんだっけ。
 俺が城魔法を使えるように、セシルだって魔法が使えるのか。
 アーニャを見てみれば、この結果が分かっていたかのように、いつも通りの笑顔で、俺と目が合うと不思議そうに小首を傾げていた。