「どうなってるんだ? 急にエルサさんの手袋が光ったかと思うと石像が消えてる!?」
 破壊スキルが発動しないように、発動を抑制する手袋の力がなくなったのか?
 そうなると、エルサさんの手が何かに触れるたびに、物を破壊していっちゃう。
 エルサさんの大事にしてきた白い手袋の効果が切れたのかと思い、彼女を見ると手袋をしたまま子犬に触れていた。
 発動してない? って、ことはさっきのは破壊スキルによる破壊ではないのか?
 目の前で起きたことを整理していたら、血だらけの子犬を抱えたエルサさんが泣きそうな顔で話しかけてきた。
「ロルフ君、子犬が血だらけに! なんか息も弱弱しいよ! 死んじゃうのかな?」
 石像のあった場所に急に現れた漆黒の毛並みを持つ子犬は、エルサさんの腕の中で身体中が血でべっとり汚れ、今にも止まりそうな弱い呼吸をして喘いでいる。
 今は消えた石像よりも子犬の方が重大だよな。
 たしか、動物にも薬草は効くよね。
 惜しげもなく伝説品質の薬草を取り出すと、葉を指で潰し汁を出していく。
 汁が出た薬草の葉を子犬の身体に巻きつけてあげた。
「ロルフ君、血が止まんないみたい。まだ、傷が塞がらないよ。どうしよう。薬草じゃきかないのかな?」
「伝説品質の薬草で塞がらないなんて……。嘘だろ」
 子犬の身体にできた傷は、伝説品質の薬草の汁に触れても塞がる気配を見せず、流れ出す血の量は一向に減らないままだった。
 血が流れだしていくたびに、子犬の呼吸は浅くなり、回数も減っていく。
 子犬は明らかに血を失いすぎて、生死の境目にいる様子だった。
 このままだと、この子犬は死んじゃう。
 回復魔法とか使えないし、薬草が効かないんじゃ、もうお手上げ――。
 消えゆく子犬の命を前にして、自分の中にある考えが思いついてしまった。
 動物に対して再生スキルを行使すると、傷が消え子犬の命は助かるんじゃないだろうか。
 このまま手をこまねいていたら、確実に子犬は死んじゃうし、一か八かやってみるしかない。
 残された回復手段がないため、目の前の子犬を生かす方法として、自分たちの力を使うことにした。
「エルサさん! その子を破壊してください! はやく、すぐに頼みます!」
「っ!? ロルフ君、何を言って! まだ生きてるのに!」
「薬草が効かない傷となると、今現時点でその子を救うには再生スキルの力を試してみるしかないと思います!」
「で、でも! 生きてるんだよ! あたしが初めてスキルを発動させた時みたいに、消えちゃうかもしれないし」
 子犬を抱えたエルサさんは、目に涙を浮かべながら青い顔をして震えはじめていた。
 やっぱり、父親の件があるからやりたくないんだろうか……。
 再生スキルの力も、まだ生物で成功するのかは確認してないし。
 でも、迷っていたらあの子は確実に死んじゃう!
 僕は震えるエルサさんの手をしっかりと握り直すと、真っすぐに彼女の瞳を見据えた。
「エルサさん! 僕が絶対に再生させるから大丈夫! 信じてください!」
 自分にも成功するという確信が持てないが、結果に対する全ての責任を負う決意をし、強い言葉で断言した。
「…………分かった! ロルフ君のこと信じる! あたしの運命の人だしね!」
 エルサさんは真っすぐに、僕の眼を見ると、スキルの発動を封じている白い手袋を口で噛んで外し、瀕死の子犬の身体に触れる。
 彼女に触れられた子犬は破壊スキルによって光に包まれると、皮と骨と肉となって宙に浮かんでいた。
「父の手を間違って解体した時もこういう感じだったわね……。あの時は、光が収まると父の手が無くなってたけど」
 エルサさんのお父さんは、こうやって手を失ったのか……。
 でも、この状態で僕が触れたら――
 エルサさんの前に浮かんでいる子犬だったものに手を触れる。
>再生スキルにより魔狼の封印が解除されました。
―――――――――――
 再生スキル
  LV:5
  経験値:4/36
  対象物:魔狼(分解品)

 >魔狼(伝説品質):100%
―――――――――――
 ん? 選択肢が伝説品質100%しかないぞ?
 いけない! 今は余計なことを考えてる時間がなかった!
 提示された唯一の選択肢である伝説品質を選択して、再生スキルを発動させる。
>魔狼(伝説品質)の再構成に成功しました。
 眩しい光が消えると、エルサさんの腕の中には血が綺麗に消えた魔狼が存在していた。
「エルサさん、僕の再生スキルはちゃんと発動するみたいです! でも、ちょっと素材とかとは違うみたい。鑑定機能は出ないですし、伝説品質しか――」
「ああ、子犬が元気になった! 良かった。本当に良かった。あたしの呪われた力をちゃんとした力に変えてくれるロルフ君がいてくれて良かった。うちの父にロルフ君の力を使えてたら良かったなぁ……。さすが、あたしの運命の人」
 元気になって地面に飛び出しエルサさんに身体を擦り付けて甘えている魔狼を見て、彼女は涙を流して喜んでいた。
 彼女の持つ、生物への破壊スキル行使のトラウマは、多少なりとも改善されたようだ。
 それにしても、生物系の再生は、物質の再生と違うのだろうか?
 伝説品質しか選択肢が出なかったし、鑑定機能も省かれた感じだし。
 もっと気になるのは、再生スキルにより、魔狼の封印が解けましたという神の声だけど。
 あの子犬、狼なのかな? そもそも魔狼って魔物か? 狼の魔物はいるけど、魔狼って言われる魔物はいなかったような。
 エルサさんから、僕の足元に来て身体を擦り付けている小さな魔狼の存在が気になったが、特にこちらに敵意を抱いてる様子はなかった。
「君はいったい何者だい?」
 足元にいた魔狼を抱き上げる。
 抱き上げられた魔狼は、小さな口を開いて吠える仕草をした。
「とりあえず、こんな場所に一人で置いて帰るのは可哀想だから、街まで連れて帰りましょう。その子もお腹空いてるだろうし。ダメかな?」
 エルサさんは、魔狼のことが気に入った様子で、『連れ帰りたい』と目線をこちらに向けてきた。
 せっかく助かった命だし、人に害を与える素振りはないから、連れ帰っても大丈夫かな。
 魔狼の方も懐いてくれてるし。
 抱き上げた魔狼は、エルサさんの言葉に同意するように吠えていた。
 それから、まだ小さな子供の魔狼をエルサさんに任せ、石像のあった部屋の中をくまなく調べたが、特に他に見るべきものはなく、探索を終え外に出ると夕暮れが迫っていたので、急いで街に戻ることにした。