日が完全に暮れて門が閉じる前、僕たちはアルマーニさんの運転する荷馬車で街に到着した。
「いやー、ロルフ君、エルサさん、助かりました。私もこれで無事に仕事を終えられます」
「無事に荷馬車を回収できてよかった。それにエルサさんの件は本当にありがとうございます」
「あたしからもお礼を言わせてもらいます。アルマーニさんが物納を認めてくれたおかげで、ロルフ君とずっと一緒にいられる身になりました。本当にありがとうございます」
 徴税官である彼が認めてくれなかったら、僕はこの街で献上奴隷にされたエルサさんと別れなければならなかった。
 それを回避してくれたアルマーニさんに、感謝の気持ちが溢れていた。
「いやいや、こちらこそ助けてもらったり、高品質な毒消し草を物納してもらえたりしてありがたい話でしたよ。売り時さえ間違えなければかなりの利益も出るのでね」
 伝説品質の毒消し草の物納は、アルマーニさんも満足してもらえている様子だった。
「ああ、そうだ! あとは依頼達成の報酬を渡さねばなりませんな。とりあえず、荷馬車を屋敷に置いてくるので、冒険者ギルドで待ち合わせということでいいですかな?」
 そう言えば、荷馬車の引き取りの手伝いは依頼されていたのを忘れてた。
 この後、オーガの素材とかを換金する予定だから、待ち合わせ場所に問題はない。
「ええ、問題ないです。先に換金してるんで、ゆっくりと来て頂いても大丈夫ですよ」
「いえ、仕事は迅速にが私のモットーですので。すぐにまいります」
 屋敷に向かって荷馬車を走らせたアルマーニさんを見送ると、エルサさんと二人で素材の換金をしに冒険者ギルドに向かった。
「へぇ、ここが冒険者ギルドかー。初めて見た。いっぱい人がいるよ、ロルフ君」
 キョロキョロと辺りを見回しているエルサさんであったが、依頼を終えて戻ってきていた男性冒険者たちの視線を一身に集めていた。
「おい、『ゴミ拾い』のロルフの隣にいる女は見ねえ顔だな。すげえ美人だが」
「そうだな。ロルフの連れって感じだが」
「まさかぁ、あのゴミスキル持ちのロルフだぜ。あんないい女が連れなわけないだろう」
 エルサさんを見たあとの男性冒険者たちからの視線が、こちらに向かって集中していた。
 突き刺さるような視線を無視して、換金をするため受付カウンターに座る。
「あら、ロルフ君お帰り。今日は掃除の依頼だったわよね。すぐに精算するわ」
「いや、それ以外にこれを換金して欲しいんですが」
 背負っていたバッグから、オーガの角と魔結晶をカウンターの上に置いた。
「え? これって……オーガ!? ちょ、ちょ、ちょっと待って! すぐに鑑定係に見せるから! す、すみませーん! オーガの角が持ち込まれたみたいなんですけどー!」
 受付嬢の人がカウンターに出した品を持ち、大声を上げて奥の部屋に駆け込んでいった。
 おかげで、休憩室にいた冒険者たちがざわつき始めている。
「おい、今の聞いたか? オーガの角だってよ! あの『ゴミ拾い』のロルフが持ち込んだみたいだぞ!」
「んなわけねえだろうが。どうせゴブリンだろ、ゴブリン。いや、あいつまだ戦闘処女だったはずだ。そこらへんで死んで骨になった牛の角かもな。アハハ!」
「牛の角か! ロルフならありえるかも、なにせ『ゴミ拾い』だしな! ダハハ!」
 侮蔑を含んだ笑い声が、休憩室内に広がっていく。
 きっと、僕が倒したと言っても、エルサさん以外誰も信じてくれない。
 今日、エルサさんと出会うまで、スキルもまともに使えないし、一度も魔物と戦ったことがない自分だったから。
「なんで笑うの! ロルフ君がゴブリンの集団を引き連れたオーガをたった一人で倒したんだからね! あたしの命の恩人に対して失礼でしょ!」
 エルサさんの放った一言によって、一瞬の静寂が訪れる。
 次の瞬間、休憩室内は大爆笑に包まれていた。
「アハハっ! お姉さん、面白いこと言うね! 芸人さんかい?」
「隣にいるロルフが、ゴブリン集団を率いたオーガを倒したとかどんな笑い話だよ!」
「ありえねー。あー、腹がいてぇ! 今日一番の笑い話だったわ」
 みんなはやっぱり僕がオーガを倒したとは思ってないようだ。
 フィガロさんとのいきさつもあり、この街の冒険者たちが僕に抱いている印象は、借金に喘ぐ底辺の冒険者で、救済依頼をこなして、なんとか生きてるやつでしかなかった。
「ロルフ君に失礼よ! なんで笑ってるの! この街の冒険者はおかしい人だらけなの?」
「エルサさん、こんな僕のために怒ってくれてありがとう。でも、あの人たちは僕がスキルを使えないと思ってるから笑ってるんだと思う」
「あんなすごいスキルを持ってるのに?」
「出会った時に言ったけど、僕はエルサさんと出会うまでスキルが使えなかったんだ。だから、誰ともパーティーを組めなかったし、救済依頼でゴミ拾いや薬草類の採取をして食い繋いでた」
「でも、今は使えるよ。あたしが一緒にいるから」
「うん、だから僕はみんなに笑われても平気なんだ。エルサさんがいてくれるからね」
「ロルフ君……」
 エルサさんが照れた顔をしたところで、奥の部屋から受付嬢の人が戻ってくる気配がした。
「持ち込まれたオーガの角は本物と判定されました。魔結晶も買い取りさせてもらいます。換金の総額は二五万ガルドとなりますね」
 受付嬢の人が貨幣を詰めた革袋をこちらへ差し出してくる。
 背後では冒険者たちから、驚きの声が上がっていた。
「なにか面白そうなことになっているようだね? おや、ロルフ君じゃないか。棚ぼたで大金を手に入れたらしいけど。わたしへの借金を返済してくれるんだろうか?」
 背後からかけられた声に振り向くと、特別室がある二階から降りてきたフィガロさんがニヤニヤと笑いながら近づいていた。