スキルが成長することを確認した僕たちは、それからドンドンとゴブリンの落とした装備を再生させていた。
再構成の成功数が三〇を超えたことで、再生スキルのLVは3にまで上昇し、また成功率が1%増えていた
「ふぅ、これで武器は最後だね」
「巨大こん棒が一本、鉄の剣が一五本、鉄の大刀が三本、鉄の槍が五本、鉄の短剣が九本、鉄の弓が一本。これが拾った武器の全部の内訳になってるわ」
「ざっと計算して一〇万ガルドくらいの価値になるかな」
「一〇万ガルド……」
積み上がった武器に視線を送るエルサさんだったが、その顔色は優れないままだった。
たぶん、額が全然足らないんだろうな……。
伝説級の剣の金額くらいは作らないとダメか。
他に換金できそうなのは、素材と魔結晶だけど……。
素材も魔結晶もゴブリンのは、ほとんど値段が付かないだろうし。
特にクズの魔結晶は、ほとんど価値がないんだよな。
一角に集められた二八個のクズ魔結晶に視線を向けていると、その一つをエルサさんが手袋を付けた手に取った。
「これって破壊してみていい?」
「魔結晶をですか? 冒険者ギルドが貨幣と交換してくれますが。けど、ゴブリンのはほとんど値段の付かないクズ魔結晶なので試してみてもいいと思います」
クズ魔結晶なんて一個数ガルドだしね。
エルサさんの破壊の力が、魔結晶にも適用されるのか判明する方が気になる。
「じゃあ、一個やってみるね」
エルサさんが素手で魔結晶に触れ、魔結晶が破壊されると、周囲に爆発的な光が溢れた。
──────────────────
>魔結晶の破壊を検知しました。
>【再生】スキルの経験値にしますか?
──────────────────
ん? 経験値にしますかだって?
魔結晶って再生スキルの経験値になるの? まぁ、やってみればいいか。
どうせ、ゴブリンから得たクズ魔結晶だし。
視界の端に表示された文字に首を傾げながらも、了承を意識した。
───────────────────
>魔結晶((超極小)を経験値化します。
>経験値1ポイント取得します。
───────────────────
了承すると、エルサさんによって破壊され、魔結晶が放っていた光が、僕の身体に取り込まれた。
───────────────────
>経験値:4/24→5/24
───────────────────
光を取り込み終えると、経験値の数字が増えた。
「エルサさんが魔結晶を破壊すると、再生スキルを成長させるための経験値になるみたいです!!」
「そ、そうなの!? あ、じゃあ魔物をいっぱい倒せば、ロルフ君のスキルもいっぱい成長するのかしら?」
「た、多分そうなるかと」
「魔物退治でも成長するスキルか……ますます、ロルフ君の再生スキルは、すごいスキルだと思わない?」
「え、ええ。自分でもビックリするくらい、すごいスキルだと思ってますよ」
エルサさんのおかげで、また一つ再生スキルの持つ能力の一端が解明された。
「じゃ、じゃあ、残りの二六個も破壊するね。お金にならないならロルフ君のスキルの成長に使った方が絶対いいものね」
「小さい魔結晶はお金にならないし、確実に経験値になるみたいだから、そうしましょう!」
「任せて、すぐに破壊するから」
エルサさんが、残りのクズ魔結晶をドンドンと破壊していく。
魔結晶から発生した光が、次々に僕の身体に取り込まれていった。
───────────────────
>【再生】スキルがLVアップしました。
>LV3→4
>解放:☆の成功率1%上昇
───────────────────
スキルステータス
パッシブスキル:☆成功率上昇3%上昇
アクティブスキル:なし
―――――――――――――――――――
破壊した魔結晶からの経験値で、再生スキルがさらに成長していた。
成長したスキルの表示を眺めていると、いつの間にエルサさんが目の前にいた。
「ロルフ君、ちょっと思いついたことがあるんだけど、やってみていい?」
「思いついたことですか? 別に問題はないと思うんで色々と試してみましょう!」
「ちょっと、刺激が強いかもしれないけど実験だから、変な人だって思わないでね」
「え? あっ、はい」
返事を返すと、エルサさんが自分の着ていたボロボロの衣服を脱ぎ、裸になっていた。
「ちょ!? エルサさん!?」
「こうすれば、みすぼらしいあたしの服も、再生スキルで新品にできるかなって思って。ほら、破壊したよ」
エルサさんは恥ずかしそうに胸もとを手で隠しているものの、視線のやり場に困る。
な、なるべく見ないでおかないと。
あんまりジロジロと見たら、嫌われちゃうだろうし。
エルサさんの裸体を直視しないよう、明後日の方向に視線を向けていた。
「そ、そうですね。綺麗に再生してみましょう」
淡い光をまとった衣服に手を触れ、再生スキルを発動させる。
――――――――――
再生スキル
LV:4
経験値:7/30
対象物:☆布の服(分解品)
>布の服(普通):93%
>布の服(中品質):73%
>布の服高品質):53%
>布の服(最高品質):23%
>布の服(伝説品質):13%
―――――――――――
普通品質での再構成を選ぶ。
>布の服(普通品質)の再構成に成功しました。
>布の服(普通品質)
防御力:+5
資産価値:三〇〇ガルド
「やっぱり衣服も新品になった。これで、あたしがロルフ君の隣にいても、恥ずかしい思いをさせないですむ」
再生スキルで新しくなった衣服を渡そうとした際、エルサさんの裸体が視界に飛び込んできていた。
「あ、あの! エルサさん! 見えてますから! は、早く着てください!」
「ご、ごめん! すぐに着るわ」
慌てて僕は後ろに振り返り、彼女が衣服を着る音だけが辺りに聞こえていた。
新品になった衣服に着替え終えたエルサさんが、恥ずかしそうに顔を赤らめて、こちらを見ている。
顔を見るだけで、さっきのことが思い出されちゃうんだけど、どうしようか。
変に思われたくないし、かといって勝手に心臓がドキドキしちゃうんだが。
さきほど起きたことをどう弁明しようか迷っていたら、エルサさんの方が先に口を開いた。
「さっきのは、ロルフ君だから見せたんだからね。だから、気にしないでも大丈夫」
「え? いったいどういうこと――」
理由を聞き返そうとした僕の口に、エルサさんは自分の指を当てていた。
「これ以上は内緒――」
そんな照れた顔で言われたら、とんでもなく意識しちゃうんだけど!
そのつまり、さっきの言葉は『僕』だったから、裸体を見せてもよかったということかな?
いやいや、そんな都合のいい解釈をして嫌われるのは避けたいし、事故だから問題ないって意味に考えておいた方がいいよな。
「わ、分かりました。僕もさっきのことは全力で忘れます!」
「忘れちゃうんだ……」
そんな残念そうな顔をされると、覚えておいた方がいいのかなと思っちゃいますが。
でも、『覚えてます』なんて言えるわけもないし、どうするべきだろうか。
エルサさんへの答えに窮した僕は、話題を変えることにした。
「そ、そんなことよりも、エルサさんの膝や肘に擦過傷があるみたいだし、すぐに傷を癒す薬草を摘んできますね。ここら辺は薬草や毒消し草の自生地ですし」
ゴブリンから逃げる時に、彼女は膝や肘を擦りむいたようで、傷は深くないものの痛そうであった。
「薬草かぁ。もったいなくない? これくらいの傷なら唾を付けておけば大丈夫だと思うし」
「でも、放っておくと膿んだり、大きな病気を引き起こしたりするし、それに傷が残ったら大変だし。こう見えても、薬草集めは得意なんですぐに取ってきますよ。ここで待っててください」
街の清掃活動とともに、薬草類の採取も生活困窮者の救済依頼に入っていた。
滅多に魔物の出ないこの辺りに薬草や毒消し草を摘みに来て、冒険者ギルドに一つ五〇ガルドで買い取ってもらえる依頼だ。
ぼっちの冒険者だった僕は、何度もその依頼を受けていて、効率よく薬草や毒消し草を見つける方法を編み出していたのだ。
エルサさんをその場に待たせると、薬草の生えていそうな草むらを探す。
薬草は日がよく当たって、周囲に木々や背丈のたかい草がないところに自生してるはず。
条件に当てはまりそうな場所に見当を付けると、すぐにその場に向かった。
あった! やっぱりまとまって自生してるな。四個くらいあればいいか。
自生している薬草を取り終えると、すぐにエルサさんの待つ場所に戻る。
「ありましたよ。すぐに擦過傷の部分に潰した薬草の葉を当てますから」
「そんな大した傷でもないから、やっぱりもったいないよ」
エルサさんは傷の治療をしないでも大丈夫だと言うが、この辺りには大量に薬草類が自生してるので、身体の安全の方が大事だった。
摘んできた薬草の葉を手で小さく潰し、中の汁が出てきたところで拡げ、傷口に押し当てると、綺麗な布で巻いた。
「染みる……」
「大丈夫です。擦過傷にはよく効くんで」
膝と肘の二か所に潰した薬草の葉を張り終えると、エルサさんが摘んできた薬草を手にしていた。
「ロルフ君、薬草とか毒消し草とかお金になるよね?」
「なりますけど、でも一つ五〇ガルドにしかなりませんよ」
「伝説品質を狙ってみるのはどう? いっぱい生えてるって聞いたし、多く集めて伝説品質に挑戦してみるの」
再生スキルで品質の高いのを創り出すのか。
たしか品質のいい薬草とか毒消し草は、高値で取引されるとか聞いたことあるしな。
数はすぐに揃えられるし、、やってみてもいいかもしれない。
エルサさんからの提案を受け、薬草や毒消し草の高品質化に挑戦してみるのも悪くないと思った。
「ここなら、薬草も毒消し草もいっぱい生えてるし、再生を失敗しても元手は自分の労力だけだからお金もかからないし、やってみて損はないかも。じゃあ、僕は薬草と毒消し草を採取して――」
早速、薬草類の自生している場所へ行こうとした僕の手を、彼女が引いてきた。
「あたしも一緒に手伝わせて。二人でやった方がいっぱい取れるだろうし。薬草や毒消し草の生えてそうな場所を教えてくれるかな?」
「それもそうですね。見つけてすぐに再生していった方が効率的ですしね。じゃあ、一緒に行きましょう!」
再生した新品の武器と素材を草で隠し目印をすると、僕たちは周囲に自生する薬草と毒消し草を摘んで回ることにした。
自生している薬草を引き抜くと、エルサさんに破壊してもらい再生スキルを発動させる。
――――――――――
再生スキル
LV:4
経験値:8/30
対象物:☆薬草(分解品)
>薬草(普通):93%
>薬草(中品質):73%
>薬草(高品質):53%
>薬草(最高品質):23%
>薬草(伝説品質):13%
―――――――――――
現時点での伝説品質の成功率は13%だ。
かなり低いけど、再生に成功したらかなりの金額になると思いたい。
伝説品質を意識して再構成させる。
しかし、失敗したようで薬草から黒い煙が出ると、灰となって消えていった。
「さすがに一回目からは無理よね。まだいっぱいあるし、もっと挑戦してみればきっと成功するはずよ」
「はい! まだ、一個目ですしね」
今はエルサさんを献上奴隷から解放してもらうため、緊急で金が要るので、なんとしても高額で売れる品物が欲しかった。
失敗にめげず新たに採取した薬草を使い、伝説品質に挑み続けていく。
七回目の試行を終えた時、手には伝説品質の薬草が再生されていた。
「やった! エルサさん! 成功しました! 伝説品質の薬草です!」
手元には神々しさを発するような七色の葉をした薬草がある。
鑑定機能が実行されて、伝説品質の薬草の効果などが視界の端に表示された。
>薬草(伝説品質)の再構成に成功しました。
>薬草(伝説品質)
回復量:500 重度裂傷即時回復 重度火傷即時回復
資産価値:五〇万ガルド
「エルサさん! この伝説級の薬草ですけど、なんかとんでもない回復効果があるし、一個五〇万ガルドになるみたいです!」
「そんな色の薬草なんてみたことないしね。一個五〇万ガルドするって言われてもおかしくないかも!」
エルサさんも僕の手にある伝説品質の薬草を見て、顔を紅潮させて喜んでいた。
そこらへんに生えてるただの薬草が、一個五〇万ガルドになるんだもんな。
これ一個売れるだけで僕の半年分近い稼ぎになるよ。
鉄の剣といい、今回の薬草といい、伝説品質で成功すると資産価値がとんでもなく高くなるみたいだ。
手にしていた薬草の価値を知り、よりいっそう薬草と毒消し草摘みに意欲が湧いてきていた。
「エルサさん! ドンドンと挑戦しましょう! あっちに毒消し草が生えてますから!」
「うん! やりましょう!」
それから毒消し草を伝説品質で再構成を続け、試行回数四回目で伝説品質の再生に成功していた。
成功した伝説品質の毒消しは真っ黒な葉をしており、見ているだけで苦さを想像できそうな色をしている。
>毒消し草(伝説品質)の再構成に成功しました。
>毒消し草(伝説品質)
回復効果:即時解毒(強)効果
資産価値:六〇万ガルド
「毒消し草の方が、少し資産価値が高いみたいです。一個六〇万ガルドになりますよ。強い毒もすぐに解毒できるみたいです。そんな毒消し草なんてあるんだ……」
薬草も毒消し草も欲しい人がいたら、資産価値よりも高くても買う人がいるだろうなぁ。
それにしても、一個五〇ガルドの薬草や毒消し草の品質が上がるとすごい資産価値になる。
鑑定結果に表示された効果を見て、手にしている毒消し草のすごさを改めて感じた。
「すごい……やっぱロルフ君ってすごい。すごいよ」
「エルサさん! これでお金いっぱい作りましょう!」
その後、日暮れ間近まで二人で試行した結果、薬草四〇個から伝説品質五個、毒消し草五〇個から七個の伝説品質を入手するのに成功した。
薬草が二五〇万ガルド、毒消し四二〇万ガルド、合わせると六七〇万ガルドの資産価値か。
装備の売却代一〇万ガルドを加えて、オーガの角を含む素材の売却代をだいたい一〇万ガルドと見積もれば六九〇万ガルドくらいになるな。
これなら、きっと徴税で村が支払えなかった分に足りると思うけど。
「エルサさん、今でだいたい六九〇万ガルドくらいの資産価値になるけど、これで足りるかな?」
「たぶん、足りると思うけど……それでいいの? これってロルフ君の物だし」
「違いますよ。二人で作った物ですから、僕とエルサさんの物です。だから、気にしないでください」
「ロルフ君……ありがとう。見ず知らずのあたしのために頑張ってくれて……本当にありがとうね。この恩は絶対に一生かけて返すから」
僕の手を取ったエルサさんの眼から、涙が溢れて伝い落ちていた。
「恩を返すなんて言わないでください。僕にはエルサさんが必要なんですから! ずっと一緒にいて欲しい」
「あたしが……必要? この、あたしが……ロルフ君とずっと一緒に……」
エルサさんが、ギュッと僕の手を握ると目の前に出てくる。
「あ、あのね、あたしの話を笑わないで聞いてくれる?」
「ど、どうしたんですか? 改まって急に……。エルサさんの話を笑うなんてことしませんよ」
出会った時から綺麗なお姉さんだと思っているが、照れている姿はとても可愛らしく感じてしまう。
「あ、あたし! 今までこのスキルのせいで、手袋してても人に触れるのが怖かったんだけど、ロルフ君なら間違って触れても消えることないし……。そ、それに顔も性格も……あたしの……その……」
エルサさんの声が小さくなって聞き取れないでいた。
「え? なんです?」
「だ、だからぁっ! ロルフ君のことを大好きになっていいですかって聞きたいのー!」
突然、愛の告白をしてきたエルサさんが、自分の胸に僕を抱きしめていた。
顔一面が柔らかい感触に包まれ、彼女の甘い体臭が鼻の奥にまで浸透する。
あ、これダメなやつだ……。絶対に僕がエルサさんにメロメロになるやつだろ……コレ。
街ではみんなから『ゴミ拾い』のロルフと馬鹿にされてる僕に、『好きになっていいですか』って聞いてくれる美人のお姉さんがいるなんて……。
これって夢ってやつかな……。
心地よい感触とエルサさんの愛の告白で、僕は完全に舞い上がってしまった。
「あ、あの。こんな僕で良ければ……」
「ロルフ君……ほんとに、ほんと?」
「はい!」
エルサさんが強く抱きしめてきたため、大きな胸が一段と僕の顔を圧迫してきた。
「一生ついて行くからね! ロルフ君」
えっと、それって……。
つまり、結婚も視野にという意味です?
こちらの動揺を悟られないように、エルサさんの最後の言葉が聞えなかったフリをして、話題を変えることにした。
「エ、エルサさん。日も暮れてきたし、いったん街に戻りましょう。オーガの落とした素材とか魔結晶を換金すれば当座の資金には困らないだろうし」
急いでエルサさんから身体を離すと、真っ赤になった自分の顔を見られないように彼女の手を引いて荷物を隠した場所に戻る。
隠していた荷物を取り出していると、背後から声が聞えてきた。
「た、助けてくれ……頼む。オーガとゴブリンに襲われたのだ。はぁはぁ」
声の主は身なりの整った老齢の男性だった。
かなりの距離を走ってきたようで、老齢の男性は肩で息を吐いて喘いでいた。
男性の姿を見たエルサさんが、僕の袖を引いて耳打ちしてくる。
『ロルフ君、この人、フォルツェン家の徴税官の一人でアルマーニさんって言うの』
オーガに襲われて逃げ出した徴税官の一人か。
護衛の冒険者たちに見捨てられ、一生懸命に逃げてきたんだろうな。
目の前の男性がフォルツェン家の徴税官と分かると、彼を安心させることにした。
「そのオーガならもうすでに倒しましたよ。ゴブリンたちも一緒に。ほらコレ」
ゴブリンの骨やオーガの角を、アルマーニさんに見せる。
彼は信じられないと言いたげにこちらを見ていたが、手にしている素材を見て納得したように頷いていた。
「君みたいな若くて小さな子が討伐してしまうとは……。はっ! そうだ! 討伐されたのなら、急がねば! 見たところ冒険者のようだが、依頼をさせてもらっていいだろうか?」
アルマーニさんは何かを思い出したようで、荒い息のまま僕の身体を両手でがっしりと掴んでいた。
「依頼ですか?」
「ああ、そうだ! 荷馬車を取りに戻りたいのだ! 討伐されたということは、まだやつらに確保されたわけではなさそうだしな。できれば、取り戻してアグドラファンの街まで持っていきたいのだ。報酬は弾ませてもらう。どうだろうか?」
アルマーニさんは、仕事に一生懸命な徴税官のようで、放棄して置いてきた荷馬車を回収したいと、僕に依頼をしてきていた。
アルマーニさんを手助けして、献上奴隷にされてるエルサさんのことを解放してくれるように彼に頼もう。
足らなかった分は、薬草と毒消し草を物納する形で立て替えられるだろうし。
チラリと隣のエルサさんに視線を送ると、『受けてもいいよ』と言いたげに頷いてくれていた。
「緊急の依頼なので、こちらからも受けるに当たって一つ条件を付けさせてください」
「よ、よかろう」
「では、彼女のことを解放して欲しいのですが、可能でしょうか? 足らなかった分の徴税額相当の物を立て替えさせてもらうつもりでいます」
アルマーニの視線が、僕の隣に立っていたエルサさんに注がれていく。
「おや、君はたしかドラゴ村から徴税の足りない分で献上された子でしたな。服が綺麗になっていて気付きませんでしたぞ」
「道中は色々と気を遣ってくださりありがとうございました。快適とは言えませんでしたが、不快ではありませんでした」
「いえ、私の任務は無事に徴税を終わらせることですので、当たり前のことをしていただけですよ。彼女を奴隷から解放するのが引き受ける条件ですか……。相当額の物を納品してもらえるなら、私の権限でやれますから問題ありません。たしかドラコ村の足りない額は――三〇〇万ガルドほどだったはず」
十分に薬草と毒消し草で物納できる金額だった。
物を売り買いするみたいにエルサさんを扱いたくないけど、献上される奴隷にされてしまっている以上、領主と揉め事にせずに彼女の権利を取り返すにはお金を渡し、革の首輪を外すしかなかった。
「では、こちらの毒消し草を五つほど納品させてもらう形でいいでしょうか。一つ六〇万ガルドになります」
「はっ!? 一個六〇万ガルドですと!? そんな毒消し草があるわけ――」
アルマーニさんは懐のポケットから出した眼鏡で、手にした毒消し草を舐めるように見ていく。
見ているうちに顔色がドンドンと変わっていた。
どうやら徴税官の彼は鑑定スキル持ちのようだ。
「この品質!? たしかに六〇万ガルドでも安いくらいですな。この毒消し草五個を物納して頂けるなら彼女を解放するのは問題ありません。探知の魔法を仕込んだ首輪はすぐに外しましょう」
アルマーニさんは毒消し草を五つ受け取ると、エルサさんの首に巻かれた首輪を外してくれた。
「ロルフ君、取れたよ。取れた。これでずっと一緒だね!」
首輪が外れたことに喜びを爆発させたエルサさんが、僕に抱き付いてきていた。
「エ、エルサさん! アルマーニさんが見てますし!」
「若いというのはいいですなぁー」
眼鏡を外し懐にしまったアルマーニさんが、こちらを見てニコリと笑っていた。
「ひ、日も暮れてくるし、すぐに荷馬車を取りに行きましょう!」
「では、案内させてもらおう」
その後、僕たちは森の奥に放棄された荷馬車を発見し、散乱していた荷物を積み込み直すと、アルマーニさんの運転でアグドラファンの街に戻ることにした。
日が完全に暮れて門が閉じる前、僕たちはアルマーニさんの運転する荷馬車で街に到着した。
「いやー、ロルフ君、エルサさん、助かりました。私もこれで無事に仕事を終えられます」
「無事に荷馬車を回収できてよかった。それにエルサさんの件は本当にありがとうございます」
「あたしからもお礼を言わせてもらいます。アルマーニさんが物納を認めてくれたおかげで、ロルフ君とずっと一緒にいられる身になりました。本当にありがとうございます」
徴税官である彼が認めてくれなかったら、僕はこの街で献上奴隷にされたエルサさんと別れなければならなかった。
それを回避してくれたアルマーニさんに、感謝の気持ちが溢れていた。
「いやいや、こちらこそ助けてもらったり、高品質な毒消し草を物納してもらえたりしてありがたい話でしたよ。売り時さえ間違えなければかなりの利益も出るのでね」
伝説品質の毒消し草の物納は、アルマーニさんも満足してもらえている様子だった。
「ああ、そうだ! あとは依頼達成の報酬を渡さねばなりませんな。とりあえず、荷馬車を屋敷に置いてくるので、冒険者ギルドで待ち合わせということでいいですかな?」
そう言えば、荷馬車の引き取りの手伝いは依頼されていたのを忘れてた。
この後、オーガの素材とかを換金する予定だから、待ち合わせ場所に問題はない。
「ええ、問題ないです。先に換金してるんで、ゆっくりと来て頂いても大丈夫ですよ」
「いえ、仕事は迅速にが私のモットーですので。すぐにまいります」
屋敷に向かって荷馬車を走らせたアルマーニさんを見送ると、エルサさんと二人で素材の換金をしに冒険者ギルドに向かった。
「へぇ、ここが冒険者ギルドかー。初めて見た。いっぱい人がいるよ、ロルフ君」
キョロキョロと辺りを見回しているエルサさんであったが、依頼を終えて戻ってきていた男性冒険者たちの視線を一身に集めていた。
「おい、『ゴミ拾い』のロルフの隣にいる女は見ねえ顔だな。すげえ美人だが」
「そうだな。ロルフの連れって感じだが」
「まさかぁ、あのゴミスキル持ちのロルフだぜ。あんないい女が連れなわけないだろう」
エルサさんを見たあとの男性冒険者たちからの視線が、こちらに向かって集中していた。
突き刺さるような視線を無視して、換金をするため受付カウンターに座る。
「あら、ロルフ君お帰り。今日は掃除の依頼だったわよね。すぐに精算するわ」
「いや、それ以外にこれを換金して欲しいんですが」
背負っていたバッグから、オーガの角と魔結晶をカウンターの上に置いた。
「え? これって……オーガ!? ちょ、ちょ、ちょっと待って! すぐに鑑定係に見せるから! す、すみませーん! オーガの角が持ち込まれたみたいなんですけどー!」
受付嬢の人がカウンターに出した品を持ち、大声を上げて奥の部屋に駆け込んでいった。
おかげで、休憩室にいた冒険者たちがざわつき始めている。
「おい、今の聞いたか? オーガの角だってよ! あの『ゴミ拾い』のロルフが持ち込んだみたいだぞ!」
「んなわけねえだろうが。どうせゴブリンだろ、ゴブリン。いや、あいつまだ戦闘処女だったはずだ。そこらへんで死んで骨になった牛の角かもな。アハハ!」
「牛の角か! ロルフならありえるかも、なにせ『ゴミ拾い』だしな! ダハハ!」
侮蔑を含んだ笑い声が、休憩室内に広がっていく。
きっと、僕が倒したと言っても、エルサさん以外誰も信じてくれない。
今日、エルサさんと出会うまで、スキルもまともに使えないし、一度も魔物と戦ったことがない自分だったから。
「なんで笑うの! ロルフ君がゴブリンの集団を引き連れたオーガをたった一人で倒したんだからね! あたしの命の恩人に対して失礼でしょ!」
エルサさんの放った一言によって、一瞬の静寂が訪れる。
次の瞬間、休憩室内は大爆笑に包まれていた。
「アハハっ! お姉さん、面白いこと言うね! 芸人さんかい?」
「隣にいるロルフが、ゴブリン集団を率いたオーガを倒したとかどんな笑い話だよ!」
「ありえねー。あー、腹がいてぇ! 今日一番の笑い話だったわ」
みんなはやっぱり僕がオーガを倒したとは思ってないようだ。
フィガロさんとのいきさつもあり、この街の冒険者たちが僕に抱いている印象は、借金に喘ぐ底辺の冒険者で、救済依頼をこなして、なんとか生きてるやつでしかなかった。
「ロルフ君に失礼よ! なんで笑ってるの! この街の冒険者はおかしい人だらけなの?」
「エルサさん、こんな僕のために怒ってくれてありがとう。でも、あの人たちは僕がスキルを使えないと思ってるから笑ってるんだと思う」
「あんなすごいスキルを持ってるのに?」
「出会った時に言ったけど、僕はエルサさんと出会うまでスキルが使えなかったんだ。だから、誰ともパーティーを組めなかったし、救済依頼でゴミ拾いや薬草類の採取をして食い繋いでた」
「でも、今は使えるよ。あたしが一緒にいるから」
「うん、だから僕はみんなに笑われても平気なんだ。エルサさんがいてくれるからね」
「ロルフ君……」
エルサさんが照れた顔をしたところで、奥の部屋から受付嬢の人が戻ってくる気配がした。
「持ち込まれたオーガの角は本物と判定されました。魔結晶も買い取りさせてもらいます。換金の総額は二五万ガルドとなりますね」
受付嬢の人が貨幣を詰めた革袋をこちらへ差し出してくる。
背後では冒険者たちから、驚きの声が上がっていた。
「なにか面白そうなことになっているようだね? おや、ロルフ君じゃないか。棚ぼたで大金を手に入れたらしいけど。わたしへの借金を返済してくれるんだろうか?」
背後からかけられた声に振り向くと、特別室がある二階から降りてきたフィガロさんがニヤニヤと笑いながら近づいていた。
「棚ぼたとはどういう意味でしょうか……。あのオーガは僕が倒しましたけど」
フィガロさんの顔に、『ロルフの癖にオーガなんか倒せるわけがない』と言いたげな表情が浮かんでいた。
「おかしいねぇ。徴税官たちを護衛していた冒険者たちは、自分たちがオーガを退治したと言っているんだが」
フィガロさんは休憩室にいる冒険者たちに聞こえるくらい、わざと大きい声で喋っていた。
彼の一言で、ざわついていた休憩室の冒険者たちの声が止む。
「フィガロさんの言う通りです。オレらは徴税官たちの荷馬車を守って戦い、オーガの率いるゴブリン軍団になんとか勝利しましたが、徴税官たちは逃げ散ってしまい、荷馬車は破壊されてしまいました。すぐにフィガロさんに連絡しないといけないと思い、素材は放置してきたんです。それをロルフがちょろまかしたに決まってる!」
フィガロさんの声に誘われるように、身体中に包帯を巻いている冒険者たちが、二階から降りてくるのが見えた。
「そんなわけないわ! あんたたちが暇つぶしにゴブリン狩りを始めて、急にオーガに襲われて護衛もせずに逃げ出したのを見てたんだからね!」
エルサさんの話だと、彼らが囮のゴブリンに引っ掛かってオーガに襲われた冒険者らしい。
あの人たちって、たしかフィガロさんのパーティーに属してる人たちだったはず。
嘘だと指摘された冒険者たちは、エルサさんの顔を見ると驚いて固まってしまった。
「お嬢さん、言いがかりはよしてくれ。彼らはわたしが率いる『黄金の獅子』に属する冒険者なのだよ。たかがオーガごときに急襲されたくらいで、護衛対象を捨てて逃げ出すなんてことをするわけがないだろう」
フィガロさんは、エルサさんの指摘を、自慢のサラサラの金髪を弄りながら、呆れた顔で聞き流していく。
そんなフィガロさんの背後で、当事者の冒険者たちの顔色がドンドンと蒼白に染まっていくのが見えていた。
あー、やっぱり徴税官たちを護衛せずに逃げたんだ。
それをフィガロさんには倒したと報告してたということか。
真実は明白なので、これ以上言いがかりをつけられないよう、分かりやすくフィガロさんに事情を伝えることにした。
「フィガロさん、お仲間の方たちがどう報告されているのかは知りませんが、森から現れたオーガとゴブリンたちは僕が倒しました。そのことはエルサさんが見てます。それに、お仲間さんたちは徴税官の護衛をほっぽり出して逃げ出したと聞いてますよ。もう一度、彼らに詳しくお話を聞いた方がいいのではないですか?」
「ロルフ君、君がわたしに指図できるような立場だというのかね?」
苛立ちを含んだフィガロさんの視線に曝される。
「指図などという大仰なことではなく、事実の再確認をされた方がいいと言っただけです」
苛立つフィガロさんの視線を受けても、いつものように下を向かず、真っすぐに見つめ返していた。
しばらく無言のにらみ合いが続いたが、やがてフィガロさんの方が先に視線を外すと、仲間の冒険者たちに向き直っていた。
「お前ら、わたしに嘘を報告していないだろうな?」
フィガロさんから再度問われた冒険者たちは目が泳ぎ、顔色がドンドンと悪くなる。
当事者の冒険者たちが返答に窮してソワソワとしていると、ギルドの入口から誰かが駆け込んできた。
「ふぅ、ふぅ、ロルフ君、エルサさん遅れて申し訳ない。報酬をもってきましたぞ」
駆け込んできたのは、屋敷に荷馬車を置きに行っていたアルマーニさんだった。
「逃げ出した冒険者たちのせいで散々な目に遭いましたが、君が迅速にオーガたちを討伐してくれたおかげで、ご領主様へ納められた税を積んだ荷馬車を無事に回収できた。これは私からの礼だ。受け取ってくれ」
走ってきたため、肩で息をしているアルマーニさんが、散々嘘を吐いていた冒険者たちの悪事を暴いていた。
「アルマーニ、その言葉に嘘偽りはないのか?」
「おや坊ちゃま? ええ、間違いありません。あっ! お前ら護衛を放棄した冒険者ども!」
その瞬間、当事者の冒険者たちは、大怪我をしているはずの包帯だらけの身体で、脱兎のごとく入口から駆け去っていくのが見えた。
仲間の冒険者たちの逃走する姿を見たフィガロさんの額に、青い筋が走る。
「あいつら、わたしを騙していたのか!」
「坊ちゃま、父上からあれほど取り巻きに置く者を選べと言われておったではありませんか。次代の当主なのですから、そろそろ冒険者ごっこなど卒業されて、領主としての――」
「うるさいぞ、アルマーニ! わたしは帰る! ロルフ君、君が背負っている借金の清算は早めに頼むよ!」
仲間だった冒険者に騙されていたフィガロさんは、顔を真っ赤にすると、怒って出て行ってしまった。
「ロルフ君、何やら坊ちゃまの道楽仲間が迷惑をかけた様子。すまなかったね」
「いえ、アルマーニさんのおかげで僕にかけられた疑惑は晴れたので助かりました」
「役に立てたのならよかった。ああ、バタバタして忘れそうだったが、報酬は受け取ってくれたまえ」
アルマーニさんが差し出した革袋を受け取ると、彼はフィガロさんの後を追って、冒険者ギルドから出て行った。
ん? 報酬を入れた革袋に何か紙が差し込まれてるぞ。
受け取った革袋の中にある紙を取り出して、書かれた文字を読んでいく。
書かれた内容は、二人で泊まる宿の部屋を用意してくれたとのことだ。
今からエルサさんの泊まる場所を探すつもりだったけど、彼が用意してくれてるなら、好意に甘えて泊まらせてもらうか。
さすがに僕がいつも使ってる安宿に、エルサさんを泊めるわけにもいかないし、今日はいっぱい稼げたから宿賃の心配をしないでもいいしね。
「エルサさん、日も暮れたし今日はもう宿で休みましょう」
「え? あ、うん」
用意してくれた宿への地図が書かれたアルマーニさんの手紙をポケットにしまうと、エルサさんの手を引き、再びざわつき始めた冒険者ギルドを出た。
差し込んだ朝の光が、覚醒しろと告げていた。
昨夜はアルマーニさんの予約してくれた宿で、美味しい食事と豪華なお風呂を堪能し、生きてきた人生の中で、初めて贅沢をした。
一度も寝たことがないフカフカのベッドで、身体の方は心地よい眠りを体感していたが、頭にふにょんと柔らかい物が触れた気がする。
「……ロルフ君……そんなとこ触っちゃダメよ……。あのね、あたし……」
頭に柔らかい感触を発生させている主は、エルサさんのようだ。
「エルサさ……ん!?」
覚醒した僕は、自分の状態を見て焦る。
エルサさんによって、自分の身体が抱き枕にされてしまっていたからだ。
いやいや、この状態はマズいでしょ! というか、頭の感触って?
自分よりも身長が高いエルサさんが抱き着いてきているため、ちょうど胸の辺りに自分の頭が収まっていたのだ。
こ、こんな状況を、彼女に見られたら、勘違いされて嫌われちゃう! 早く抜け出さないと!
ごそごそと動き、絡んでいるエルサさんの手足をどかそうとする――
「ロルフ君、ダメよ。激しいのはまだ無理だから……」
完全に寝呆けているエルサさんが、更に強くこちらの身体を抱きしめてくる。
解こうとしたが、エルサさんの力は思った以上に強く、息ができないほど彼女の肌が密着してきた。
勘違いされるかもしれないけど、このままだと窒息しちゃう。
なんとか、エルサさんを起こさないと。
必死で身体を動かし、圧迫された顔に隙間を確保すると、寝呆けているエルサさんに声をかけることにした。
「エルサさん! 起きてください! 朝ですよ! 起きて!」
「ふぁぁああ、おはようロルフ君。もう、朝なの――――!?」
「あ、あの! これはわざとじゃなくて! 僕が起きたらこうなってただけなんです! 誓って変なことはしてませんから!」
しどろもどろで現在の状況を弁解する僕に対し、エルサさんはぼそりと呟く。
「……ロルフ君なら、変なことしてもよかったのに」
ちょ! エルサさん、その状況でそう言うことを言うのは、非常に困るんですけど!
ぼそりと呟いたエルサさんは、抱きしめていた手を離すと、僕の頬にキスをしていた。
「ロルフ君への目覚めの挨拶。これから毎日してもいい?」
僕の頬から唇を離して、少し照れた顔をしたエルサさんの問いに、無言で頷く自分がいた。
朝からとんでもなくいいことだらけな気がする。
もしかして、僕って昨日のオーガと戦った時点で本当は死んでるんじゃ……。
不安になって、自分の頬をつねると、目の覚めるような痛みが返ってきた。
「夢じゃないや……」
「夢じゃないよ。ロルフ君」
ニコリと微笑むエルサさんの顔を見て、自分が現実にいることを確信した。
「おはようございます。エルサさん」
「うん、おはよう。で、さっきの質問の答えは?」
「え、えっと……お願いします! ああ、別に変な意味とかじゃなくて!」
「ありがとう。じゃあ、毎朝するね」
面と向かって彼女に言われると、とても恥ずかしい気持ちが湧き上がってきていた。
「そ、それよりも、今日はどうします? 僕は依頼を受けてくるつもりだけど。エルサさんも冒険者登録します?」
「うん、あたしもロルフ君と同じ冒険者になれば一緒に依頼を受けれるし、パーティーも組めるものね」
「本当にそれでいいんですか? 薬草はまだ残ってますし、換金すればこのアグドラファンの街でもそれなりに暮らせると思いますけど」
「ロルフ君とずっと一緒に居たいし。それに、あたしたちは二人で一人だと思うから」
「分かりました。じゃあ、朝ごはん食べたら冒険者ギルドに行きましょう」
「うん、じゃあご飯食べて準備したらいこっか」
部屋で朝食を食べ終えると、着替えて冒険者ギルドに向かうことにした。
朝の冒険者ギルドは、依頼を探す冒険者たちで溢れかえり、ごったがえしていた。
「あら、ロルフ君――。そっちの子はたしか、エルサちゃんだったわね」
忙しそうに奥の部屋と窓口を往復していた、顔なじみの受付嬢であるマールさんが、僕たちに気付いて声をかけてくれた。
「マールさん、おはようございます。忙しそうですけど、冒険者登録って今できます?」
「冒険者登録? ああ、エルサちゃんの?」
「はい、彼女も冒険者になりたいそうなので」
マールさんが、ちらりと依頼受注の窓口に視線を向けていた。
「ちょっとだけ待てる? もうすぐ朝のラッシュも越えるから」
「分かりました」
「じゃあ、そこの登録窓口の椅子に座ってて。エルサちゃんもどうぞ」
マールさんに勧められた椅子に二人で腰を掛けると、朝のラッシュで込み合うギルド内の様子を見ていた。
「ロルフ君、冒険者の人って何をやってるの? あたしの村にはあまり来なかったし、よく知らないんだけど」
依頼を受注している冒険者たちを見ていたエルサさんが、冒険者の仕事について聞いてきていた。
「冒険者は、冒険者ギルドが各地から集めて取り扱っている依頼案件の中から、自分の条件に合う仕事を選んで受注して、その依頼を達成すると報酬をもらえる仕組みになってるんです。隊商護衛、魔物討伐、希少植物の採取、指定素材の納入、要人護衛、ダンジョン探索等の色々な依頼がありますよ」
「へぇ、いっぱいお仕事あるんだね」
「まぁ、依頼成功実績を求められる仕事もたくさんありますんで、全部が全部受注できるわけでもありませんけど。ちなみに僕は薬草採取と清掃依頼しか達成してないため、新米冒険者と言われるFランク冒険者扱いで、魔物討伐系はゴブリンくらいしか受けられないです」
「オーガとゴブリン集団倒したのに?」
「討伐依頼じゃないから、たぶん実績には加算されないかと」
「そうなの……」
「でも、ゴブリン討伐とかで実績を積めば昇格はできるだろうし。伝説品質の剣でなら、倒せない相手ではないですしね」
創り出した剣の力で、雑魚の魔物であれば苦戦することはないと思われた。
その後もエルサさんと冒険者のことについて喋っていたら、朝のラッシュを捌き切ったマールさんがこちらの窓口のカウンターにやってきた。
「お待たせー。それで、エルサさんの冒険者登録だったわね。書類を持ってきたから、印があるところを記入して埋めてね」
マールさんがカウンターの上に差し出した書類に目を落とす。
名前、性別、出生地、年齢、親族構成、犯罪歴が登録者側の書く情報になっている。
「これだけ書けばいいの?」
「ええ、それだけで大丈夫。冒険者ギルドとしては、来る者拒まず、去る者追わずでやってるから」
マールさんの言葉に、苦笑いをしたエルサさんが書類に必要事項を書き込んでいく。
完成した書類を受け取ったマールさんは、記入漏れがないかチェックすると、一枚の金属カードに文字を打ち込み、エルサさんの前に差し出した。
「登録完了、名前に間違いがないかだけ確認して」
「間違いなし。大丈夫」
「じゃあ、これでエルサさんは冒険者として登録されたわ。これからよろしくね」
その後、冒険者登録を終えた僕たちは、ゴブリンの討伐と薬草採取の依頼を受け、装備を整えるために武具屋に向かうことにした。
素材を換金したお金で、冒険に出る前にエルサさんと自分の装備を整えるため、冒険者ギルドの隣にある武具屋の前にきていた。
武具屋が混むのは昼過ぎからで、朝のラッシュが終わった今の時間帯は暇な時間だった。
空いている店に入ると、カウンターの上に昨日のゴブリン軍団とオーガが持っていた武器を入れたバッグを置く。
店番をしていた男性が、バッグに入った武器を見て怪訝そうな顔でこちらを見てきた。
「すみません。こちらの武器を売却したいんですけど査定してもらえますか?」
「は? 査定? こんなに? みんな新品みたいだが」
「ええ、全部お願いします」
「少し時間をもらうぞ」
店番をしていた男性は、バッグの中の武器を取り出し査定を始めたので、査定を待つ間、自分たち用の武具を探すことにした。
「ロルフ君、この剣一〇〇〇万ガルドだって! 魔法剣ってそんなにするんだ」
初めて武具屋にきたエルサさんが、キョロキョロと店内の品を物色していた。
「魔法が付与された武器とか防具は、品数が限られてるから基本的に高値取引されてるって聞いたことがあります」
「へぇ、そうなんだー。でも、あの剣よりロルフ君の剣の方が強そうだよね」
「ただの鉄の剣ですから、どっちが強いかは分かんないですけどね」
魔法の効果は乗ってないけど、伝説級の品質なだけあって、目の前に飾られている魔法剣よりも刀身の輝きは勝っていた。
僕たちの話を聞いていたらしい査定中の店番の人が、咳払いをしてくる。
身の丈に合わない装備を見てないで、自分たちの懐具合で買える武具を見ろということかな。
店の人の無言の圧力を感じたので、魔法剣に興味を示すエルサさんの手を引いた。
「さて、エルサさんの装備は何がいいですか? 予算的には二五万ガルドくらいありますけど」
「ロルフ君、あたしたちに新品はもったいないよね。あっちのやつとか見てみる?」
たしかに再生スキルで新品にできるし、わざわざ新品を買う必要もないよな。
二人で生活していくにしても、お金はかかるだろうし、少しでも節約した方がいいか。
彼女の手を引いていた僕は、逆に引っ張られる勢いで、武具屋が買い替えで引き取った中古品を積んだ一角に移動していた。
中古品は新品とは違い、半ば打ち捨てられるように、乱雑に積み上げられていた。
「やすーい。これ新品の一〇分の一の値札がついてるよ。あたし、猟師してたから弓の扱いには多少の自信があるんだよね」
エルサさんが手に取ったのは、使い込まれ弦が緩み、錆が浮いていた鋼鉄の弓だった。
「中古でもかなり程度が悪いやつみたいですしね。気に入ったならそれにします?」
「大きさも重さもちょうどいいみたいだし、武器はこれにしようかな。あと、矢筒入れとか矢は――」
積み重なった中古品の中から、エルサさんが必要な装備を漁っていく。
中古品の山を掻き分けて、ボロボロになった革の矢筒と錆の浮いた鉄の矢の束を見つけ出していた。
「これだけ全部まとめても二〇〇〇ガルドにしかならないんだけど。安いよね。普通に新品買うと二万ガルドを超えちゃうし」
「普通の冒険者はよっぽどじゃない限り、中古品でもそんなに程度の悪いのは買わないと思うからね」
エルサさんの選んだのは、特に程度が悪いやつだけど、再生したら新品になるんで問題ない代物だよな。
「防具とかは何がいいかな? 獣を追って山に入る時は金属の匂いで気付かれないように革製だったけど。魔物とかと戦うとなると金属製がいいのかな?」
「金属の方が身を守ってくれるんでいいと思いますけど、弓を引くなら軽くて身軽な方がいいと思いますよ」
弓を引くエルサさんに、魔物を近づけさせる気は毛頭ないけどね。
魔物の注意は僕が引き付けるつもりだけど、万が一を考えれば金属製で防御力はある程度あって欲しいかな。
でも、弓とかも重そうだし、部分的に身を守る鎧を着けて、動ける方がいいはずだ。
魔物との戦闘経験は昨日までなかったけど、冒険者だった両親に装備に関する知識を教えてもらうのをねだっていたのが役に立っていた。
「じゃあ、体に合いそうなこの鉄の胸当てと、鉄の脛当てくらいにしとくね」
体形に合いそうな防具を中古品から選び出すと、エルサさんの一通りの装備が揃った。
「あとは、ロルフ君の分だね。剣で戦うんだよね? 怪我しないように全身鎧にする?」
エルサさんが中古品の山から引っ張り出したのは、とても重そうな全身を包む鎧であった。
さすがにあれは重すぎて動けなくなっちゃうよ。
筋力はあんまりないし。
「エルサさん、それはちょっと僕には重すぎる鎧かな」
「じゃあ、こっちの革製の部分鎧とかにしとく? これなら軽いから着ても大丈夫よね?」
彼女は、僕が筋力不足で全身鎧を着れないと見ると、すぐに中古品の山から新たな鎧を探し出してくれた。
あれくらいなら重さも気にならないと思うし、致命傷になりそうな場所は守れそうだ。
エルサさんが持っていた革の部分鎧を受け取る。
「あとは、小さめの盾とか欲しいかも」
鎧を受け取ると、中古品の山から転がり落ちていたボコボコになった鉄の円盾も一緒に拾い上げる。
そろそろ、査定も終ったかな。
買い取り代金と差し引きで、これをもらっていくとしようか。
チラリとカウンターに目をやると、ちょうど店番の人が武器の査定を終えたようで、こちらと眼が合った。
「査定は終わったよ。みんな新品同様の綺麗な武器だから、全部まとめて一〇万ガルドでどうだい?」
「その金額で大丈夫です。こちらの中古品の分の値段を引いてもらっていいですか?」
「二人とも変ってるな。もうちょっと程度のいいのがあっただろうに、なんでそんなオンボロを買うんだ? 今の買い取り分を予算にするなら新品でもお釣りが来るぞ」
かなり程度の悪い中古品を手にしていた僕たちを見た店番の人は、怪訝そうな顔を見せていた。
「お金は大事に取っておきたいので、僕たちはこっちのでいいんです」
「そうやって装備をケチったやつから死んでいくからな。忠告として言っておくが、装備に金はかけた方がいいぞ」
店番の人が言ったことは、両親が何度も言っていたことであった。
装備代をケチって肝心な時に、物の役にも立たず、即死した冒険者もいっぱいいたと聞かされている。
装備代にはお金をかけるつもりだけど、街の近辺を回るくらいなら十分な装備だと思う。
ボロボロでも自分たちで新品にできるしね。
再生スキルで、再生させること前提なのでどれだけオンボロの物であっても問題にはならなかった。
「ご忠告ありがとうございます。稼いだらまた装備を更新にきますよ。エルサさんもカウンターの上に装備を置いて」
自分の分とエルサさんの分をカウンターの上に置き、買い取り品の査定額から代金分を引いていってもらうことにした。
店番の人は一個ずつ値札を見て、金額を書き留めていく。
「そうしてくれ。それと、持ち込んでくれた武器は新品同様でいいもんだったから、また貯まったら売りにきてくれよ。その時は少し色を付けてやるからな。よし、計算終わり。差し引きで九万五〇〇〇ガルドをうちが支払うよ」
店番の男は計算した紙をこちらに見せてきた。
やっぱり程度が悪いのが多いから激安だな。
新品で買ったら、買い取り代金の半分以上は消えてたかも。
店番の人から差し出された紙に書かれた値段を見て、計算が間違っていないことを確認した。
「ありがとうございます。それで大丈夫です」
店番の人から代金をもらうと、商品を受け取って依頼を遂行するため、街の郊外に向かうことにした。
武具屋で装備を買い揃えた僕たちは、街の外にある草原へ薬草の採取をするためきていた。
すでにボロボロだった中古品の武器や防具は、再生スキルで新品に再構成され、ピカピカの新品として装備されている。
「ちょっと、胸のところがきつかったかも。ロルフ君、これ大丈夫かな?」
中古だった鉄の胸当てが、エルサさんの大きな胸には少し小さかったようで、胸もとを強調するような格好になっていた。
「た、たぶん大丈夫ですよ。外れて落ちたりはしないはず」
「そう? 弓引くときにちょっと引っかかる感じが――」
背負っていた鋼鉄の弓を引いたエルサさんの胸もとが、また一段と強調されていく。
これは他の人に見せたらマズいかもしれない。
胸当てだけは新しいのを、オーダーメイドで作ってもらった方がいいかも。
男性の視線を集めてしまう胸当ての様子に、僕は危機感を覚えていた。
「エルサさん、やっぱり街に帰ったら胸当てだけは新品を買わせてください。僕がお金を出しますから」
「え? もったいないよ。ちょっときついけど装備できないわけじゃないし」
もったいないとかじゃなくて、色々と心配しないといけなくなる可能性が高いから、きちんと装備できる物を用意したいだけです。
心の中で、自分の魅力に無頓着なエルサさんに突っ込んでいた。
「とりあえず、胸当ては新品にします。あとのはちょうどいいみたいですしね」
「ロルフ君も革の部分鎧はちょうど良さそうだね。円盾も重くなさそう」
装備した革の部分鎧と鉄の円盾は、身体の小さい自分でも十分に扱える代物で、少しは冒険者らしい格好になっている。
「ええ、装備を更新したんでゴブリンくらいなら余裕で倒せると思います。でも、その前に薬草採取の依頼を終わらせておきましょう」
「はーい、昨日のやつと同じのを見つければいいんだよね?」
「はい、そうです」
「たしか、あの辺のはまだ採ってなかったはず」
僕たちは日当たりのいい場所に移動すると、自生している薬草を探し始めた。
薬草を探していると、エルサさんが何かを思いついたようで、僕の袖を引いてくる。
「そういえば、ロルフ君がいたらなんでも再生できるんだよね?」
「え、まぁ、たぶん。エルサさんが破壊スキルで破壊して淡い光をまとっている間なら再生できるかと」
こちらの返答を聞いたエルサさんが、おもむろに手袋を外すと、地面の土に手を触れる。
急に大きな音とともに、大人一人がすっぽり収まるくらい地面が抉れると、淡い光をまとった土が宙に浮いていた。
「これを再生できるのかなって思って。村にいた時は、ちょっとした不注意で土とか岩とか消しちゃってたから」
「やってみます」
再生スキルがどこまで適用されるのか、自分も気になったので、淡い光をまとって浮いていた土に手を触れて再生スキルを発動させる。
――――――――――
再生スキル
LV:4
経験値:28/30
対象物:☆土(分解品)
>土(普通):93%
>土(中品質):73%
>土(高品質):53%
>土(最高品質):23%
>土(伝説品質):13%
―――――――――――
普通品質での再構成を選択すると、眩しい光を発していた。
>土(普通品質)の再構成に成功しました。
>土(普通品質)
資産価値:一ガルド
光がおさまると、再生された土は、破壊スキルでできた穴の横に積み上がっていた。
「再生はされるみたいですね。土なので価値はないけど」
「ロルフ君がいれば、破壊スキルで破壊した物が、失敗しない限り消えないと分かったのだけでもよかった。あたしだけだと、消しちゃうだけで終わっちゃうし」
穴のとなりに積み上がった土を見て、エルサさんは少し安堵した顔をしていた。
「なら、あの岩も試してみます? どうせなら確認できそうなものは全部試してみてもいいと思うんで」
「そうね。そうしようかな」
エルサさんが今度は近くの岩に手を触れて破壊スキルを発動させていた。
破壊された岩に手を触れ、再生スキルを発動させる。
――――――――――
再生スキル
LV:4
経験値:29/30
対象物:☆石(分解品)
>石(普通):93%
>石(中品質):73%
>石(高品質):53%
>石(最高品質):23%
>石(伝説品質):13%
―――――――――――
普通品質での再構成を選択すると、眩しい光を発していた。
>石(普通品質)の再構成に成功しました。
>石(普通品質)
資産価値:二ガルド
岩の再構成は成功したが、元の岩の形ではなく、多数の小さな石に変わっていた。
「岩は再生すると、小さな石になっちゃうみたいですね。元の形に戻る感じではなさそう」
「元の形に戻らないものもあるのね。気を付けないと」
再生スキルの再生のされ方も色々な状況があるみたいだ。
小さな石の山になった岩を見ていたら、視界の端の文字が変化していた。
────────────────────
>【再生】スキルがLVアップしました。
>LV4→5
>解放:☆の成功率1%上昇
>解放:☆の素材合成が可能になりました
────────────────────
スキルステータス
パッシブスキル:☆成功率上昇4%上昇
アクティブスキル:☆素材合成
――――――――――――――――――――
経験値が貯まり再生スキルが成長したことで、新しいスキルが解放されたようだ。
素材合成ってあるけど、何だろうか。
何かと何かを合わせると、別の物に再生されるってことかな?
「エルサさん、スキルが成長して何か新しいことができるようになったみたいです」
「新しいこと? スキルが成長するのは知ってたけど……」
「素材合成って書いてあるんで、何かと何かを合成できるようになったんだと思うんですが、似たような合成スキルというレアスキルがあると神官様に聞いたことがあるので」
「合成スキル?」
「ええ、合成スキルはレシピと言われる組み合わせで、新たな物を作り出すスキルだと聞いてます。今回再生スキルに備わった力は、それに似た物じゃないかなと思ったりしてますが」
困惑顔をしているエルサさんであるが、自分も同じようにとても困惑している。
壊れてる物を新品に再生させるだけでも、とんでもない力を持っているスキルなのに、成長するうえ、他のレアスキルの力まで備わるとか、神官様たちが知ったら卒倒しそうなスキルになってるよ。
「いちおう確かめてみたいので、色んなものを破壊してもらっていいです?」
「い、いいけど」
エルサさんが手袋を取ると、周囲にあった物を破壊スキルで破壊していった。
破壊された物が、淡い光を帯びて空中に浮かんでいく。
その中に赤い色で光る物があった。
薬草と毒消し草が光ってるよな……。
同じ色で光っている二つを両手で触れる。
>右手:薬草(廃品) 左手:毒消し草(廃品)
>素材合成可能品がセットされました。
>この二つを素材合成しますか?
神の声に促されるまま了承をしてみた。
すると、再生スキルが発動する。
―――――――――――
再生スキル
LV:5
経験値:0/36
対象物:☆回復薬(分解品)
>回復薬(普通):94%
>回復薬(中品質):74%
>回復薬(高品質):54%
>回復薬(最高品質):24%
>回復薬(伝説品質):14%
―――――――――――
発動した再生スキルから回復薬を選び、普通品質で再構成をしていく。
>回復薬(普通品質)の再構成に成功しました。
>レシピが解放されました。
>薬草×毒消し草=回復薬
>回復薬(普通品質)
回復量 30
資産価値:二〇〇ガルド
再生を終えたことで、手の上には丸い形状に変化した回復薬ができあがっていた。
回復薬ってたしか、薬草と毒消し草を干してすり潰したのを丸めて固めた薬だったよな。
それを素材合成で手順を省いて作り出せるってことか。
手に現れた回復薬を見たエルサさんの眼も点になっていた。
「ちょ、ちょっと! ロルフ君!? 薬になっちゃったよ!」
「やっぱり合成スキルみたいに、二つの素材から新しい物が作れちゃいましたね。これ、回復薬ですよ」
手に中にあった丸薬を口の中に放り込むと、苦みが広がった。
本来ならこれで、血液が増えたり、傷の治りが早まったり、血止めがされるが今は傷を負っていないので、ただの苦い丸薬でしかない。
「苦味があるんで、ちゃんと効果は発揮しそうですよ。これでも買うと一つ二〇〇ガルドしますからね」
「すごい、破壊した素材を使って合成できるなんて。やっぱ、ロルフ君、すごいよ!」
「でも、僕の力はエルサさんがいないと使えないんで、エルサさんがすごいんです」
「あたしの忌み嫌われた力を、そう言ってくれるのはロルフ君だけだから」
一瞬、エルサさんが悲しそうな顔をしたので、彼女の手を握ると話題を変えることにした。
「エルサさん、合成に成功するとレシピとして記録されるみたいなので、もっと他にも合成できるものないか探してみましょう」
「うん、そうしよっか! もしかしたらすごいものを合成できちゃうかもしれないし」
森の中に移動すると、エルサさんは近くの木や雑草を破壊していく。
破壊していくなかで、同じ色で光る物を見つけた。
ん? 同じものが光ってるぞ。
同じの二つで新しい物にできるのか?
光っているのは同じ雑草であった。
同じ色で光っている二つを両手で触れる。
>右手:雑草(廃品) 左手:雑草(廃品)
>素材合成可能品がセットされました。
>この二つを素材合成しますか?
神の声に促されるまま了承をする。
―――――――――――
再生スキル
LV:5
経験値:1/36
対象物:☆荒縄(分解品)
>荒縄(普通):94%
>荒縄(中品質):74%
>荒縄(高品質):54%
>荒縄(最高品質):24%
>荒縄(伝説品質):14%
―――――――――――
発動した再生スキルから荒縄を選び、普通品質で再構成をしていく。
>荒縄(普通品質)に再構成に成功しました。
>レシピが解放されました。
>雑草×雑草=荒縄
>荒縄(普通品質)
資産価値:二ガルド
再生を終え手の中に荒縄ができ上っていた。
回復薬と同じで、合成することによって縄づくりの手順を飛ばして物が作り出せるのか。
これを破壊すると、荒縄になるのかな?
「エルサさん、これって破壊できます?」
「やってみるね」
エルサさんの手が触れた荒縄は、破壊スキルが発動し、淡い光に包まれたかと思うと、近くにあった木と同じ光で輝いていた。
「新しい合成ができそう」
同じ光を宿した品物を両手に持つ。
>右手:荒縄(廃品) 左手:木材(廃品)
>素材合成可能品がセットされました。
>この二つを素材合成しますか?
了承し、再生スキルを発動させる。
>レシピが複数あるので選択してください。
ん? 複数レシピがある?
―――――――――――
再生スキル
LV:5
経験値:2/36
対象物:☆木の弓(分解品)
>木の弓(普通):94%
>木の弓(中品質):74%
>木の弓(高品質):54%
>木の弓(最高品質):24%
>木の弓(伝説品質):14%
―――――――――――
―――――――――――
再生スキル
LV:5
経験値:2/36
対象物:☆棍棒(分解品)
>棍棒(普通):94%
>棍棒(中品質):74%
>棍棒(高品質):54%
>棍棒(最高品質):24%
>棍棒(伝説品質):14%
―――――――――――
選択肢が二つ提示された。
これは、木製の弓と棍棒のどちらかを選ぶってことか。。
エルサさんが使う弓はもうあるので、剣が通じない相手用に棍棒を選んでいた。
>棍棒(普通品質)の再構成に成功しました。
>レシピが解放されました。
>木材×荒縄=棍棒
>棍棒(普通品質)
攻撃力:+5
特殊効果:物質系ダメージ+2
資産価値:一〇〇ガルド
「簡単に棍棒もできちゃうのね。合成ってすごい。これも他の物と合成できるかな?」
できあがった棍棒を手にしたエルサさんが、また同じように棍棒を破壊していた。
ゴブリンの骨と反応してるな。
反応した二つの素材を手にする。
>右手:ゴブリンの骨(廃品) 左手:棍棒(廃品)
>素材合成可能品がセットされました。
>この二つを素材合成しますか?
了承し、再生スキルを発動させる。
―――――――――――
再生スキル
LV:5
経験値:3/36
対象物:☆小鬼骨の棍棒(分解品)
>小鬼骨の棍棒(普通):94%
>小鬼骨の棍棒(中品質):74%
>小鬼骨の棍棒(高品質):54%
>小鬼骨の棍棒(最高品質):24%
>小鬼骨の棍棒(伝説品質):14%
―――――――――――
普通品質で再構成を選択する。
>小鬼骨の棍棒(普通品質)の再構成に成功しました。
>レシピが解放されました。
>ゴブリンの骨×棍棒=小鬼骨の棍棒
>小鬼骨の棍棒(普通品質)
攻撃力:+8
特殊効果:物質系ダメージ+2
資産価値:五〇〇ガルド
再生を終えて現れた棍棒には、尖ったゴブリンの骨が棘のようにいくつも突き出していた。