「残念ですけど聞こえてますよ。耳が聞こえないから来ちゃいけないんですか?あなたの方がよっぽどピアノを聞く価値ないと思いますけどね」
苛立ちのあまり少しだけ声をあげて怒りをぶつけてしまった。
謝ってくれると思ったが、その中年男性はまた反論してきた。
「……そもそもガキなんかがこんなとこ来るなよ」
僕の頭の中で何かの糸がプツンと切れた気がした。
「あなたの方が精神年齢低いと思いますけどね」
ちょっとにやけながら相手をバカにするようにそう言った。
「すみま…せん」
謝ったのは麗音のことを悪く言ったこの中年男性ではなく麗音自身だった。
「は?なんで……」
言いかけたところで割って入ってきたのが麗音の隣に座ってた智だった。
「すみません。僕らが悪かったですから。許してください」
「は?智まで何を…」
再び言いかけたところで智に腕を掴まれて、僕に向かって全くできていないウィンクをした。
「ホントだよ。ちょっと独り言言っただけでこんなキレるとか。せっかく楽しみにしてきたのに台無しだわ」
また怒りが湧いてきたが開始の合図のブザーの音がなり辺りが暗くなった事で我に返った。無視しておけば良かったかな。そう思ったけど、どうしても許せなかった。
一旦このことは忘れてピアノに集中しようそう思ったが、麗音には申し訳ないが全く集中できなかった。