いつか聞かれると思っていたが今とは思わなかった。でも、普通に本当のことを話そうと思った。
『そうだよ。節子さんに教わったんだ。』
『そうなんだ。』
麗音はそう書いてシャーペンを置き、片方の手を縦にして、もう片方の手の甲に置いて縦にした方の手をそのまま上にあげた。これは節子先生から一番最初に教わった手話だった。意味は『ありがとう』だ。
僕は驚きのあまり固まってしまった。すぐにハッと我に返り、手話で『どういたしまして』と伝えた。
それからは二人で手話を使って他愛のない話をした。僕はそんな時間が心地よかった。別に付き合いたいとかじゃなくて、ただ近くに麗音がいてくれるだけでいい。心からそう思った。