それは本当にピアノの音だろうか。と思うくらいすごい曲だった。別に激しい音楽ではないもののずっしりとのしかかってくるような音だった。
『どうでした?』
僕が驚きのあまり硬直していると麗音がノートを僕の前で右往左往させた時に、ハッと我に返った。
『ごめん。ちょっと感動して動けなかった(笑)』
すぐにノートにそう書いて見せた。麗音は椅子に座ったままお辞儀をした。それすらも綺麗で思わずみほれてしまいそうになる。
『楽譜とかって持ってきてるの?』
早速本題にはいるためだ。時間はあまりない。普通の人なら1ヶ月弱もあれは1曲弾けるようになるらしい。これは智から聞いた情報だ。「兄貴がそれくらいで1曲完璧に弾いてたぜ」と言っていた。でも、それはあくまで智の兄貴の話だ。麗音はどうか分からない。