『あのさぁ、歌ってみない?』
無理難題だということはこの前の横浜で見たピアニストで学んではいたが、麗音のお父さんのためにも出来れば歌って欲しかった。書いたものを見せると麗音は首を高速で振った。やっぱりか…。さすがに無理難題すぎた。
『でも、サビだけなら出来なくはないですよ?』
僕が少しだけ落ち込んでいたのがバレたのか見せられたノートにはそう書かれてた。
『本当に?』
『はい!頑張ります!』
『練習する前にさ。この前麗音の部屋に初めて入った時に音無しで弾いてた曲聞いてみたい』
自分のわがままではあったが、その曲がなにか麗音の大事な曲な気がした。
『え?いいですけど。どうしてですか?』
『個人的に気になって。』
そう書いてみせると麗音は頷いて手をピアノの鍵盤の上に乗せてゆっくりと「レ」の音を出してから音楽を奏でた。