数分経ってから1人のピアニストが出てきて、場が少しだけ代わった。そして、そのピアニストはピアノの椅子を調節してからその椅子に座り「すぅー」と深呼吸をしてから鍵盤に手を置き演奏が始まった。1音を奏でた瞬間に会場の空気が再びガラッと変わった。それは素人の僕でもわかった。少しでも音を立てようものならこの会場にいる人全員に睨まれるような空気。でも、それを気にする暇もないくらいに圧倒された。
曲目は誰でも1度は聞いたことのある有名なベートーヴェンの曲だった。落ち着いているところは落ち着いていて、サビと思われる部分は迫力のあるピアノだった。でも、聞いたことのあるベートーヴェンの曲とは別物に感じた。まるで、今弾いているピアニストがオリジナルにこの曲を1から書き換えたみたいに。
「すごいなぁ」