「凄くはない。ただ、当たり前のことをしただけじゃ」
しっかり聞こえてたらしい。
不意に思い出したことがあった。そういえば引っ越したのはここ週数間前なのにピアノがあったということは…。
「あ、あの。節子先生もピアノ弾いてたんですか?」
そう聞くと節子先生は姿勢を正して一息ため息をついてから、
「ああ、やってた。そして、わしが息子…麗音の父親に教えたんじゃよ。ピアノを。そして、音楽の良さを」
やっぱりか。というか別に、ただ不意にそう思っただけだけど。そんなことを考えてたら麗音が帰宅した。
帰宅して早々、手話で節子先生と話している。僕は手話教室に1度通ったくらいじゃまだ麗音の言っていることは分からなかった。