隣の席に君の姿はなかった。
 あの手紙を読んでから1ヶ月が過ぎようとしているけれど、今この時を生きているのは、まだ複雑な気持ちだった。

(さようなら……さようなら。 また今度……)

 今でも、彼女がいなくなってしまったことが信じられなくて、何処かで会えるのではないかと考えることがあるけれど、また今度というのが存在しないということも徐々に実感していた。

 1日が24時間の世界を取り戻し、またいつも通りの日常を送る。
1ヶ月もすれば、世間は大々的な現象であったとしても、あえてその話題を取り上げようとはしない。でも、僕の中では、彼女の存在は心に染み付いていた。
 新学期になり学年が上がっても、時々あの海岸線に足を運ぶ。この場所に来て波の音を聴くと、思わず涙が溢れてくるけれど、彼女はそれを望んでいるのだろうか。
 だから僕は、その涙が流れている顔を上げて、海の向こうを見つめながら想いを伝える。


「ありがとう」


その言葉を聞いた海はいつも、あの時と同じ音を聴かせてくれた。