特に話が進展しないまま次の日を迎えた。
 正確に言えば、いきなり起こった切削に3人とも動揺して話どころではなかった。
 そして、学校から帰った直後に通話を開始したが1時間も経たないうちに翌日へとなってしまったのも要因の1つであったのかもしれない。
 1日が17時間となったが、今日も時間切削が起こる可能性があると考えれば、明日はもっと短くなるのだろう。
 でも次の日、そんな中でも御園さんは変わらなかった。逆に、こうなることを知っていたかのようにいつもみたいに冷静だった。

「弓削くん、おはよう」
「御園さん……おはよう」
「また、1日が短くなったね」

「…………」

「私ね、自分がフェルツェで時間を操れるから、1日が短くなることは怖くなかった。……でも、それが戻らなくなるのはすごく怖い」
 変わらぬ様子であったから、そんなこと言われるなんて思ってもいなかった。
「でもね……弓削くんが頑張ってるの私は知ってる……だから私ね」

「御園さん……」

 少しの時間が流れた。

「……弓削くん、今日一緒に帰ってもいい?」

 彼女は何かを伝えたそうにしていたが、特に聞き出すことはしなかった。それより、何を考えても最善の策が思い浮かばずに時間が過ぎて行くから、放課後にエリアさんに進捗状況を聞くことに決めた。


***


「御園さん、お待たせ!」
 子夜の戯の影響で午前授業となった学校が終わると、僕は彼女と学校を後にした。
 2人で歩いて帰っている最中、御園さんの表情は暗かった。
「御園さん……何かあった?」
「ううん。なんでもないの。気にしないで……」
「……わかったよ。……それとね、今日家に帰った後、エリアさんとちょっと話をする予定なんだ。そこでまた何かわかったら御園さんにも伝えるね」

「……ありがとう。でもね、もう大丈夫だよ」

「…………え?」

「このままだったら、あと数日で世界が無くなってしまうと思うの。でもね、それが人生だったのかなって思えてきた。私がここに来たことで、弓削くんや他のみんなにも迷惑かけて、本当にごめんなさい。すごく自分勝手だけど、私は最後をみんなと過ごせて……そして弓削くんの隣で生きれたこと、とても幸せでした」
「……御園さん、何言ってるの!? 僕はまだ諦めないよ!」
 でも、御園さんの気持ちはもう決まっていた。
 僕が説得をしても、気持ちがブレることはなかった。

「……御園さん……」

 彼女の話を聞いて、解決策も時間もない中で、もがいてもどうしようもないことに気持ちが揺れ始めていた。それと同時に、エリアさんに僕の気持ちをしっかり伝えなければならないと思った。

「……御園さん、ごめん。みんなを、そして君を助けることは出来なかった」

 気付けば辺りは暗くなっていた。時計はまだ13時位を示していたが、時間が切削される前兆だった。

「弓削くん……最後に1つお願いを聞いてくれませんか?」
「……もちろん」

「今日は、ずっと一緒に居たい」

「僕も、一緒に居たい。居てください」
「ありがとう。弓削くん、私のこと大切に想ってくれてすごく嬉しかった。……弓削くんの大切な人になれてすごく嬉しかった。仕方ないよね……でも、さよなら、したくないよ」
「御園さんを1人にはしないよ。世界は終わっちゃうかもしれないけど、僕はいつでも御園さんの側にいる」

「…………」

 もしかしたらまだ、方法があるのかもしれない。御園さんを抹消すれば世界が戻るということを知っていても、でも、それをすることは出来なかった。それなら、世界が終わる直前まで彼女と時間を共に過ごしたかった。

 だからと言って、特別なことはせずに、次の日の学校が始まる時間の少し前まで、僕と御園さんはいつもと同じ様に2人の時間を楽しんだ。


――切削時間は合わせて14時間になった――