「弓削くん! おはよう!」

 次の日、昨日の連絡で決めていた待ち合わせをする予定の公園に行き、御園さんを待っていた。少しすると、小さな手を大きく振って御園さんが僕に駆け寄って来てくれた。僕も彼女に合わせて挨拶を交わす。
 冷たい風が僕たちを包み込むが、2人の気持ちは温かかった。昨日あんなことがあったけれど、御園さんと居る時間は考えないようにすることにした。結末をあまり考えたくない。でも万が一、ああなってしまうなら今を大切にしたいと思った。
 そんなことを考えていたら、僕の手はいつの間にか彼女の手を握っていた。

「弓削くん!」
「……あ! ご、ごめん! いきなり……」
「ううん。いいの。ただ……少し痛いよ。そんなに強く握らなくても大丈夫」

「……ごめん」

「昨日、お姉ちゃんに会えたのね?」
「……うん」
「どうして、そんなに暗い顔するの? お姉ちゃん、なんか言ってた?」
「いいや、特に何も言ってなかったよ。この現象の事も知らないみたい。……ただ、御園さんの事を心配してたよ、元気にやってるかってね」

 あの出来事を言う勇気はなかった。口止めもされているし、お姉さんから聞いた話が、まだ信じられないからだ。
 それに彼女に何かを伝えるなら、何か別の方法を探して、御園さんを安心させてあげられる言葉をかけたい。何か策があるのかと言われればまだ何もないけれど、そう思った。

「そっか……。 お姉ちゃんなら何か知ってると思ったんだけどな。でも、わざわざ会ってくれてありがとう、弓削くん!」
「うん。……でも、これじゃ何も解決してないんだ。だから」

「ありがとう。でもね……私は、今何も怖くないよ。例え弓削くんの思っている通りにならなかったとしても、そうやって一生懸命になって私のことを考えてくれたことですごく嬉しいから」
「ごめん。ありがとう。でも、今は僕の出来ることを精一杯やりたいから、見守っていてほしい」

「弓削くん……うん。わかったよ」

 学校に着いてからというものの、やはり生徒との間ではこの現象についての話が途切れない。逆に御園さんはこれが始まる前よりも明るくみんなと触れ合っているように思える。
 けれど、切削する時間がなくなる前に彼女の事を助けなければいけない。エリアさんはあと1週間くらいがリミットと言っていたが、それはあくまでも御園さんの気持ちが現状のままでセーブされればの事である。裏を返せば、彼女の僕に対する気持ちが少なくなれば切削時間が少なくなるのか、とも考えたが、僕だって御園さんの事が好きだ。そんなことはしたくないのが本音であった。

 とはいうものの、授業中も必死に策を考えてみるが思い浮かばない。
(……こんな非現実的な現象の対処法なんてあるのだろうか)

 結局、授業の内容も全く頭に入らないまま学校が終わるが、答えは出なかった。だから放課後は御園さんと下校を共にしたあと、彼女には内緒で茉弥や要と相談をしながら考えることにしていた。

「正直言って、現実では考え難い出来事について解決策と言われてもな……、響は何か考えついたのか?」
「いいや。いくら考えても……思いつかないんだ」

「……例えばさ! 関係を白紙にするだけでダメなら、御園さんが故郷に帰ってゆげっちと距離を置くってのはどうなのかな?」

「それは、エリアさんが既に過去で試したみたい。それでも全く変わらなかったって……」
「そっか……どうしたらいいのかな」

 家に帰り3人でグループ通話をしていた時、それは余りにも突然で残酷であった。

「……おい、茉弥、響」


――この夜、7時間の時間が切削された――