知らなかった、お前をこんなにも好きになるなんて…


「ポテトと、チキンも頼んでいい?」

寒い冬の土曜日の夜、午後10時をまわろうとしていた

立ち寄ったのはハンバーガーショップで
バドミントンのクラブチームでの練習の後に寄り持ち帰りをして、家でパパとママと食べるのが楽しみなひと時

パパは単身赴任で週末に帰ってくるから土曜日のバドミントン練習からの大好きなフライドポテトを食べながら1週間の出来事を話す

これが石川愛美(いしかわまなみ)の週末


中学2年生
パパとママもバドミントンをしてて自然に小学1年から始めた

大人のクラブチームの隣でジュニアチームも練習をする

愛美の通う中学校には女子だけバドミントン部があり、愛美も部活に入ったが当然同級生は初心者だけ……

それなりに指導もしなくてはいけないし、自分の練習にはならないからクラブチームで練習をする


持ち帰りの商品を受け取りパパを先頭にドアを開けると外から2人の男子が入ってきた

「おっ、石川」
「あっ、山本」
「あら、征くん?」

ママが声をかけると軽く頭を下げた

この男子は山本征史郎(やまもとせいしろう)

同じ保育園で同じ小学校、同じ中学校である

でも話してたのは保育園まで……小、中と同じクラスにはなったことはない

その山本の後ろからもう1人男子が入ってきた

パパがドアを開けて待っていたことに頭を下げ

「すみません、ありがとうございます!」

とパパにお礼を言っている

愛美達は車に乗り込み家に帰る

「愛美、今の征くんと誰?」
「愛美は知らない」

「征くんもだいぶ変わってわからなかったわ、でも心配ね、中学生だけでこの時間に店に来るなんて……」

「山本は、学校には来てるけど、よく授業中も廊下をウロウロしてるし、素行はよくないよ」

「そうなのね、保育園の頃とは変わるのね」

ハンバーガーショップでは2人で店内で食べていた

「びっくりしたー、こんな時間に会うとは……まあ、あいつなら学校にもチクらないだろ」

「今の誰?」
「知らねーの?同じ中学だぜ」

「あんな子見たことねーわ、征は何で知ってんの?」
「俺?同じ保育園だったし、小学校も一緒」

「へぇー、名前は?」
「石川愛美……そういえばこの間校内表彰されてたような気がするな」

「じゃあ、部活動生か……」
「多分……」

「俺、大抵の女子は知ってると思ってたけど、暗くて目立たない子?」


「暗い……とは違うけど、まあ大人しい?」

「大人しいのか……ちょっと可愛かったな、俺が知らない子がまだいたんだ(笑)ちょっと興味でたわ、お前、連絡先知らないのか?」

「知らねぇ、話してたのは保育園までだな、斗真(とうま)の事も石川は知らないと思うけどな」

「名前くらい知ってて欲しいけどな、特に部活動生ならさー、野球部エースの嶋本斗真(しまもととうま)って知ってるだろ?」

「お前が女子にモテるのは充分知ってるけど、同じ学年全員がお前の事を知ってるとは思うなよな」

「そっかー、先輩とか、後輩からも声かけられるけどな……」

ハンバーガーを食べ終えた征史郎は俺のポテトまで手を伸ばしてくる

「おまっ、注文しろよな」
「金がねぇ(笑)」

仕方ないなとポテトを征史郎の方へ半分分ける

「ほら、やるから石川?だったっけ、何組?何部?」


征史郎は少し考えながら答えた

「知らねぇ(笑)」

ポテトを取り上げた

「お前なぁ、5クラスだぞ?思い出せよ、誰といたかとか、ちっとは考えろ!」

「やだよ、めんどくさい、そんなに気になるなら自分で調べれば?(笑)」

「まあ、めんどくさい征史郎だからな(笑)自分で探すわ」

週の始めの月曜日

単純に考えて俺の2ー4と征史郎の2ー1は違う

3クラスに絞られるから探すのは簡単だと思っていた

各クラスに友達も沢山いるが石川の事を話すのは嫌だったから教室を覗くだけなんだけど石川の姿を見かけない

何で?

さすがに用も無いのに毎日他のクラスを覗くのもおかしいし、覗くと女子達に声はかけられる

石川の姿を探せず1週間が過ぎた

日曜日の夜、征史郎に電話をした

「なぁ、例の石川って子……見当たらないんだけど」

「お前マジで探してたのか?」
「本当に同中だよな」

「そんな嘘つくかよ、しゃーねーなクラスだけ調べてやるよ、1度電話切るぞ」

暫くして征史郎から電話がかかってきた

「3組だって」
「隣のクラスだ、何で?」

「今インフルエンザがクラスで出始めてるから休んでる人を聞いてみた、石川が今週休んでるって」

「あー、インフルエンザか」

「お前が石川を知ってどうするのか知らないけどな……泣かすなよ」

泣かす?何で?

「知り合ってないのに何で俺が泣かすんだよ」

「うーん、何となく?よくわかんねぇけどそんな気がするだけ、斗真は一目惚れか?」

「一目惚れっていう感じじゃないような気がするんだけど、気にはなる」

「斗真の事を知らないから?自分の事を知れってか?」

「まあ、少しそれもある、だから惚れたとかじゃないと思う……」

気になるって事は一目惚れと変わらないんじゃないかなぁと征史郎は思ったが口に出さなかった

「じゃあ、切るぞ」
「ああ、サンキュ」



週が明けて月曜日

朝から3組には何故か行けなくて昼休みに少し覗いて見た

いない……今日も休みかな
斗真は自分の教室に戻り席に着いた

「……ま、斗真」
「ん?あっ何?純平(じゅんぺい)」

こいつは純平といって今、俺と一緒にいるクラスの奴だ

「今日は用事はもう終わったのか?先週から昼休みいなかったし」
「まあな……ふぅ……」

思わずため息が出ていた

「どしたー?悩み事か?」
「うーん、悩み事とかではないんだけどな、何でだろっていう疑問?」

「疑問?言ってる意味がわからん」

「あー、純平さ、この間校内表彰された部活って覚えてる?」

「この間はバドミントン部だろ?石川と……近藤って言ってたな、近藤は俺は知らない子だけど」

「近藤は知ってる、小学校で同じクラスになったことがある、あれ?近藤なんて表彰されてたっけ?」

「うん、されてたよ、寝てた?(笑)」
「記憶がないな」

「石川は俺は保育園から一緒だし」
「えっ!純平って、征と同じ保育園?」

「そうだけど……何で保育園だけで征史郎がでてくる?」

「あっ……」


純平に夜ハンバーガーショップで石川に会ったことを話した

「なるほどな、それは夜の練習の帰りだな」
「夜の練習?」

「そう、俺の姉ちゃんがバドミントン部だった時に友達と何回か練習に行ってた時期があって、それが石川のクラブだったんだって」

「部活以外に練習してるってことか」

「まあ、そうだろうな、姉ちゃんが行ってた時は小学生だったから……あいつ上手いよ」

俺は机に覆いかぶさった

「なんだよ、純平に聞けば早かったのかよ」
「どういう事だよ」

「俺……ずっと何組か探してたんだよ」
「へぇー(笑)」

純平はからかうように俺を見た

「隣のクラスじゃん(笑)」
「いや、だから教室にいなくてな、征にクラスを調べてもらって……」

そこまで言うと恥ずかしくなって話すのをやめた

「斗真がねー」
「別に……何もないし」

机に頭を付けたままプイッと純平とは反対の方に顔を向けた

「まずさ、お前が知らないって事は俺と同じ小学校じゃん?」
「……」

「名前がわかってたら何故俺に聞かないかな?」
「……征と一緒の時に会ったから……」

「俺には好きになった人を教えてくれない訳?」
「別に好きなんて言ってないし……」

斗真は純平の顔を恥ずかしくて見れなかった

「そっか……まあ、斗真は女友達も多いし、俺じゃなくても同じ小学校の奴らに色々聞けばわかる事だしな」

午後の予鈴がなり純平は自分の席に戻った

それから俺は移動教室の時に無意識に3組を覗いているようで……
純平にからかわれる日々が続いた

でも、ほとんど会えなくて、廊下をゆっくり歩いてみることくらいしか出来ない

昼休みもトイレ帰りに友達に会うふりをしながら教室を覗いてもいないことが多かった

斗真は窓の外を見ながら本を読んでいた純平に尋ねる

「なぁ、純平?」
「ん?」

「隣のクラスでさ、こんなに見かけない事ってある?」

純平は読んでいた本をパタンと閉じた

「やっぱり石川の事が気になるんだ(笑)」

「……好きとは思わないけどさ、その……石川の存在を知ってから会えないのって気になるじゃん?」

「気になるんだ(笑)」

「……っ、気に……なる」

「斗真のさ、携帯に入ってる沢山の連絡先はさ、何も役には立たないんだな(笑)」

「確かにだな(笑)純平は石川の連絡先は知ってんの?」

「知らない……石川ってあんまり男と話さないしな、用事があれば話すけど大人しいグループにいるからな」

「そっか……」


「お前の沢山の友達と合うような感じではないと思う、石川はお前の事は知らないと思うぞ」

「征と同じ事を純平も言うな、トイレに行ってくる」

斗真は席を立って教室を出た


斗真が石川の事をねー

純平は斗真の出ていく後ろ姿を見ていた

あいつはモテるし女子とも普通に話す
だけど告白されても付き合わない
目立つから友達も派手な子も多い
大人しい石川と話せるのか?

廊下の窓に石川の姿が見えた

うちのクラスの女子に呼び止められて窓越しに話している


斗真……お前、ついてないよ


入れ違いに斗真が戻ってきた

はぁとため息をついている
会えなかったんだな

「斗真」
「ん?」

「3組を覗いたのか?」
「まぁ、ちょっとだけな、んでトイレ行ってきた」

「そのうち会えるって、うちのクラスにはバドミントン部が1人いるじゃん」

「あー、うるさいキャラがそういえばいたな、あいつ苦手……声デカい」

「まあ、うるさいけど、ちなみにそいつも同じ保育園(笑)」

「マジか(笑)あっ、でも仲良いのかな」

「実はさっき話してた」

斗真の目が開いた

「えー、教室にいればよかった」

斗真は机をドンて叩いた

「だなーって思ってた(笑)」

放課後になり鞄に荷物を詰めているとうるさい声がした

「愛美〜」

俺は入り口の方を思わず見た

いた!!

少し遠かったが後ろを振り返った姿が見えた

「愛美、一緒に部活行こ!待って待って」

そいつは急いで鞄に荷物を入れて教室を出た

純平の方を見ると早く行けと手を振ってくれる

俺は急いで教室を出た

純平は野球部ではなく文化部なんだけど使う教室が部室に近いのでいつも一緒に教室を出ていた

斗真は少し2人から離れて階段を降りる

「愛美、今日一緒に帰ろうよ」
「いいよ」

声が聞けた

落ち着いた声だ、まあ一方的に1人が話してるから相槌しか見えない

下駄箱で靴を変える

「あっ、嶋本、バイバイ」
同じクラスの方に声をかけられて

「バイバイ」
と返事をしたが、石川は振り向かず下を向いて靴をトントンと履いていた

話しかけることも出来ずそのまま野球部の部室に行く

俺って女子に話かけれなかったっけ

人見知りでもないし、なんなら告白してきた女子とも平気で話せるし……