追放料理人~偽勇者パーティに捨てられたので、真の勇者を『料理特性付与』で最強に育てます~

最弱の魔物の一種である兎型魔物討伐を引き受けた三人は、魔物が出る森を訪れていた。
三人はここに来る前にすでに軽く食事をしており、エレナは『腕力強化』など戦闘に有利なものを、アレクは『敏捷強化』など回避や逃げに特化した特性を付与されている。
そのため、強化されたエレナがほとんどの魔物を狩ってしまい、後衛のアレクはなにもできずにいた。
「ベートさん~~~~」と泣きつくアレクに、ベートは「少し待ってろ」と告げる。

場所を移動し、森の少し開けた場所に出る。
風があり、先頭のエレナが風下になったタイミングで、ベートは「このあたりだろう」と荷物の中から料理を一つ取りだす。
中身はごく普通のケーキである――が、風下のエレナが途端に足を止める。
「なんて美味しそうなものを持っているんですか……!?」
ベートが取り出したのはマタタビケーキであり、猫獣人の要素の強いエレナはその魅力に抗えない。
前方に兎型魔物がいるにもかかわらず、たまらず引き付けられ、エレナは一口食べてしまう。
「よし、行けアレク!」
ベートが合図を出すと、アレクは強化された敏捷で兎のもとへ。
エレナは追いかけたいのに、食べる手が止まらない。
「なにをしたんです!? 魅了!? バッドステータス!? 味方相手にそんなことするなんて!!」
怒るエレナに、ベートは答える。
「バッドステータスじゃない。嗅覚強化だ」
アレクを戦闘に参加させないため、エレナとアレクは異なる特性を付与された料理を食べていた。
それはすなわち、別の皿の料理を食べているということである。
ベートはアレクに戦闘経験を積ませるために、こっそりエレナの料理に『嗅覚強化』の特性を付与していた。
また、嗅覚が強化されたことを悟らせないため、消化に時間のかかる料理を作っていた。
強化された嗅覚でマタタビのにおいを嗅いでしまったエレナは、通常以上にマタタビに魅力を感じ、「悔しい~~~~!!」と言いながらも完食するまで動けなかった。

少しして、魔物を追いかけて森の奥に消えていたアレクが戻ってくる。
彼の腕には兎型魔物数匹と、格上であるはずの猪型魔物(ワイルドボア)があった。
さすがにかなり苦戦したらしく、アレクは傷だらけでボロボロ。エレナは思わず悲鳴を上げるが、しかしアレクは満面の笑みだった。
「姉ちゃん! 僕が倒したんだ!」
アレクにとって傷ついたことよりも、戦って勝った嬉しさが勝っている。
「子供には冒険も必要だろ?」
「…………」
ベートの言葉に、エレナは複雑そうに口をつぐむ。
アレクは気が付かない様子で、猪型魔物を手におおはしゃぎをしている。
「ねえねえ! ベートさんっ、これ食べられますか!?」
見たこともないくらい楽しそうなアレクに、エレナは「あなたの言う通りかもしれない」と観念する。
猪を調理スキルで解体しながら、どう調理するかを考える。
「猪か……使い道はいろいろあるが……」
ちらりと目を輝かせるアレクを見る。
「こういうときは、手の込んだ料理よりも、アレだな」
焚火を起こし、薬草を詰め、豪快に丸焼きにするベート。
いい匂いに、アレクとエレナは期待感を隠せずそわそわしている。

「美味しい!!!!」
猪の丸焼きを大喜びで食べる二人。
「自分が狩ったから格別だろう」
「いえ、ベートさんの腕がいいんですよ! 姉ちゃんが作ったときなんて――あいたっ!」
余計なことを言いかけ、アレクはエレナに叩かれる。

ベートは二人のやり取りを笑いながら眺める。
ここ数日この姉弟と接し、料理も何度か披露したが、そのたびに二人とも喜んで食べてくれる。
前のパーティでは、料理人というだけで馬鹿にされ、食事を喜ばれることはなかった。
ライオネルは偏食でよく残し、リーシュは甘いものばかり食べて他の料理はほとんど手を付けず、アイリスは自分の料理こそ食べるが、残された料理になにも思わない。
(たしかに俺は特性付与料理人だが……)
サポーターであるよりも前に、自分は料理人であるのだと、二人の姿に思い出す。
ベートにとっては、美味しく食べてもらえることが、なによりも一番うれしいのだ。

だが、穏やかな時間を踏みにじるように、ライオネルたちの元パーティが現われる。
彼らはベート追放時に立てていた作戦通り、無謀なクエストに挑むところだった。
たまたま出くわした彼らは、ベートが初心者パーティにいることに気付いて鼻で笑う。
「遠足か? おっさんにはこの程度のパーティがお似合いだな」
そのままアレクとエレナを獣人であることを理由に馬鹿にするライオネル。
ベートは売られた喧嘩を買おうとするが、ライオネルは取り合わなかった。
「俺たちは忙しいんだよ。俺の勇者の力を見込んで、町の連中が頼み込んできたんだ。洞窟の魔物を討伐してくれって」
ライオネルは余裕な態度だが、ベートは無茶であると気づいていた。
洞窟の魔物は数が多く、そのうえ炎を吐く竜種までいて、ライオネルたちだけでは難しい。
それどころか、下手に魔物を突けば凶暴化して、近くの町に危険が及ぶかもしれない。
どうにか制止しようとするが、ライオネルたちは「嫉妬だ」と聞き入れずに去って行ってしまう。

その後、午後になり、日が暮れる前に町へ戻ろうと森を出たところで、ベートは慌てて逃げるライオネルたちとすれ違う。
その様子から、ベートは彼らが討伐に失敗したことを悟る。
「まずいぞアレク! いそいで町へ戻れ!」
魔物の討伐に失敗し、おそらくライオネルたちは魔物に匂いを知られている。
このままだとライオネルを追って、町に魔物が襲来する。
ベートの知らせに、町中が緊張状態。
戦える人間は武器を持ち、町の入り口近くへ駆り出されているが、明らかに戦力が不足していた。
元凶のライオネルは怯えて使い物にならず、町には絶望感が漂っている。
現在は日が傾き始めたころ。魔物は日暮れから活発になる。
明るい今は現れる魔物も少ないが、夜になればおそらくは一斉に襲い掛かってくるだろう。
そのときは、この町はもうひとたまりもない。
「どうしましょうベートさん……」
アレクは、自分が何の力にもなれないことを歯がゆく思っている。
ベートは町の様子を眺め、覚悟を決める。
「料理を作るぞ」

町中の人に振るまうため、ベートは広場で盛大に料理をする。
料理には特性を付与する。竜種の炎に対抗するための炎耐性、戦えない女子供には防御力強化や敏捷強化、戦う男たちには腕力上昇など。
町の人々は「本当に大丈夫なのか」と不信感を抱いているが、それをアレクやエレナが説得する。
「獣人風情が」と馬鹿にする人もいたが、奴隷商の一件で助けられた親子も一緒に説得してくれて、町の人たちが徐々に受け入れ始める。

町の人たちの説得が終わったころに、「手伝うことありませんか?」とアレクが尋ねる。
「ああ、お前にはどうしても手伝ってもらいたいことがある」
ベートは町中の人たちを見て、竜種に対抗できる人間がいないことに気付いていた。
(可能性があるとすれば……)
今は弱くとも、輝かしい才能を秘めたアレクくらいだろう。そう思い、彼は最後に残っていたレベルブーストの保存食をアレクに渡す。

料理が終わり、町の人たちに食事をするうちに、日が暮れ始める。
不穏な気配が増す中、突然の吠え声が響き渡る。
魔物が現われたのだ。

町は騒然とする。最初は怯えて絶望していた町の人々だが、料理による『特性』の影響で魔物に襲われてもダメージがほとんどないことに気が付き、盛り返す。
反撃を開始する町の人々。
一方のライオネルは、ベートへの反発心から料理を食べていないため、必死に逃げ回る羽目に陥っている。
町の人々が優勢に戦う最中、洞窟のボスである竜種が現われる(このとき、鳴き声が二重に聞こえている)。
『特性』を付与されても竜種には勝てず、再び絶望感が漂う中、レベルブーストしたアレクが飛び出す。
町の人々の応援を受け、奮戦の末に勇者の力である『女神の加護』にて討伐。
が、それと同時にもう一体の竜種が現われる。
騒然とする中、竜種はエレナに狙いを定めて襲い掛かってくる。
アレクは慌てて駆け戻ろうとするが間に合わない。
ベートは咄嗟に包丁を抜き、竜種の急所を突いて討伐する。
彼は最強の特性付与料理人として知られた、『戦闘料理人ベルトルード』本人であった。
二匹の竜種を倒し、ベート達は町を守りきる。
大歓声。
ベートはアレクを育てながら旅を続ける。
世界各地を旅し、当地の食材や調理法から新たなエンチャントを見つけつつ、旅の仲間を増やしていく。
また、旅の半ばでベートはアレクの家族や知り合いを見つけ、彼らのための新たな故郷を探すことになる。
その旅の中で、ベートたちは獣人を含む亜人への差別や、神殿の腐敗に気付いていく。
ライオネルたちが神殿によって作られた偽勇者と判明したのちは、神殿からの女神の解放を目的とし、これまで旅で知り合った人々を味方につけて神殿と対立する。
自分たちが騙されていただけと気づいたライオネルの協力も経て、女神を解放して神殿の腐敗を世に知らしめる。

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