一羽の(すずめ)が、しうしうと快活に鳴いた。
 小鳥は堂の中をくるりと旋回して、袈裟(けさ)姿の若い入道の手に止まる。隣で見ていた尼削(あまそ)ぎの子供が「わぁあ」と歓声を上げた。

「お堂の扉も窓も開け放たれているのに、外へ逃げていかないなんて。その鳥は宮さまのことがよほど好きなのですね!」

 宮と呼ばれた入道は、美しい顔を少しだけ傾けて「いいや」と笑った。

「この雀は逃げぬよう風切羽根を切ってしまったから、遠くまでいくことができないだけだよ」
「逃げてしまうのが心配なら、(かご)の中で飼われてはいかがですか?」

 童は宝石のように輝く瞳でじっと見上げてくる。無邪気な問いに、入道の宮は困った様子で眉尻を下げた。

「――(セイ)。私はね」

 (セイ)、というのはこの童女の名である。宮はそっとしゃがみ、斎の肩に雀を乗せた。

「狭い籠に押し込められた小鳥より、限られた自由でも懸命に羽ばたきさえずる鳥が好きなんだ」

 その時の宮の言葉が、今も斎の心に焼き付いて離れない。