雪の降る卒業式の日。
 卒業式といえば、三月に行われるイメージがあるが、この学校は本島から離れていて、ほとんどの生徒が大学入試をする会場から離れているから、十二月に卒業式をやってしまう。
 紅白に染まった体育館のなか、今年の卒業式も無事に終えた。
 来賓挨拶を聞き、校長先生から卒業証書を受け取り、校歌を斉唱して、一年間お世話になった教室に行き、担任の先生からクラスメイトに向けての言葉を受け取った。友だちと笑っている生徒もいれば、泣いている生徒もいて、これが高校生活最後なんだな、と改めて実感した。高校生活のなかで、いや、今までの人生で今年は特に、中身が濃い年だったと思う——
「おい白雪、俺はお前の身になにかが起きたときの代理役でいいんだよな?」
 結城が俺の耳元で確認してきた。
「そうだ。結城はなにも知らないように振舞ってくれればいい」
「了解」
 そう言うと結城は男子が固まっている黒板前に走って行った。
 結城が楽しそうに話しているのを見届けて、俺は教室を見渡した。
 ……やはりいない。
 紅野が学校に来ていないのだ。
 もちろん、卒業式にも来ていなかった。
 きっと紅野は今頃、慌てているのだろう。
 この事態については、計画を立てる段階で予測がついていた。
 なぜなら軍にとって今日は、最も赤染を処理するのに都合がいい日だからだ。都合がいい日、というよりかは、動かなければならない、あるいは、動きやすくなる日とでも言うのだろうか。
 紅野は前に、結城のスマホを奪っていた。情報を隠蔽するためだろう。人間兵器を造っていることが公になったら、自分たちが危ない、と紅野はわかっているのだ。
 夜中の学校にいた赤染を狙ったのも、昼間だと人目についてしまうから、それを避けたかったからだろう。島の住民、あるいはこの学校の先生や生徒に目撃されて、その目撃情報をネットに拡散されたら紅野たちはお終いなのだ。
 それに紅野は、赤染が暴走する前に処理しなければ、と言っていた。
 住民に被害が出る前に止めなければならないのは当たり前のことだ。もしも被害が出てしまったら来年の入学者数が減り、紅野たちの言う、儀式、とやらが成立しなくなってしまう。ほとんどの生徒の地元が本島だ。死者が出た島の学校になんて、誰も行きたくなくなるだろう。そう考えると今日に焦点を当てるのは当然の判断なのだ。
「みんな聞いてくれ!」教室にいるクラスメイトに俺は声を掛けた。「学年ラインでも伝えた通り、これから学年全員の写真を撮るから、大教室に置いてある荷物を持って、十分後には体育館に向かってくれ!」
 みんな俺を見て、友だちと目を合わせると、嬉しそうな顔をした。
 女子の方からは、久々に愛夜と会えるのが楽しみ、と声が聞こえ、男子の方からは、もう二度と会えないだろうから一緒に写真撮ってもらおう、みたいな声が聞こえた。
 今回の作戦は、赤染がみんなに好かれるような人だったから成立した、と言っても過言ではない。結城の家で学年ラインを作り、俺は、赤染がこの島に戻ってきて、みんなと卒業写真を一緒に撮りたいらしい、と送った。みんなの反応が不安だったが、その心配は無用で、むしろ大歓迎だった。それはそうだ。急に転校してしまった、仲のいい友だちと会えるなら、誰だって喜ぶに決まっている。
 そのあと俺は大声で、廊下で話している生徒、他の教室にいる生徒たちにも、荷物を持って体育館に集合するように、と伝えた。すべての教室から嬉しそうな声が聞こえてくる。
 大教室に行き荷物を持ったあと、俺も含めて全員、体育館に集まった。卒業式の跡はまだ残っている。本島に戻るための船に詰め込む荷物は、体育館の端に移動させ、赤染が来るまでしばらく待っていてくれ、と伝えた。