赤染と会う約束をした日がとうとう来た。
 俺はバッグに、筆記用具、数学の参考書、それからノートを入れ、軽く朝食を取ってから家を出た。夏休みに入って以来、誰にも会うことなく、夜に買いものするために出かける以外は家に引き籠って勉強していたから、日差しが一段と眩しく感じる。懐中電灯で直接、目を照らされているみたいだ。それに、セミの鳴き声が耳のなかで暴れまわっているが、嫌な感じはしなかった。
 スマホのナビを頼りにしながら、軍基地の横を通り、点々と建っている住宅を抜けると、ひよこマークのカフェに出てきた。店前にはいくつか自転車がある。店の雰囲気は、集中して勉強できるような、落ち着いた感じだ。
 日かげに入ったあと、俺はスマホの画面を開いて赤染に、『先に入ってる』と送った。
『あと三十秒で着く!』
 まさか集合時間よりも二十分前なのに集まれるとは思わなかった。
 辺りを見回し、赤染がどこにいるかを確認する。
 店に入ることなく日かげで待っていると、「おはよう!」と、後ろから唐突に声をかけられた。
「お、おはよう……」
 赤染の着てきた服に俺は驚いた。学校での制服姿しか見たことがなかったかもしれないが、赤染の服装がカフェでゆっくりとするような、類の服装ではないからだ。パッと見た感じ、勉強道具は持って来ていなさそうだし、なんならこれから海にでも行くかのような服装だ。
「じゃあ、いこ」赤染はカフェに背を向けると歩き出してしまった。
「ん、どこにだ」
「あれ? 海だよ、海。山登りでもいいけど」きょとんとした顔で言った。
「遊びに行く約束ってしてたか?」
「してたような気がするけど……」赤染はスマホをポケットから取り出した。「ほら。約束してるじゃん。『夏休み、どこかで会わない?』って」
「会うって、勉強の意味じゃなかったのか?」
「え、会うって遊ぶって意味じゃないの?」
「……」
「……」
 沈黙が生まれた。
 これが、思い込みの怖さ、と言うのだろうか。
「今日は」
 たまたま同じタイミングで、俺と赤染は、今日は、と言ってしまった。
自然に俺と赤染は黙り込んでしまう。
「今日は遊びに行こう!」
 赤染が俺よりも先に口を開いた。子供が遊園地で親を引きずり回すみたいに、赤染が俺に、遊びに行こうよ、と訴えている顔は必死だ。「たまには息抜きしないと危ないよ」
「そこまで俺には時間がない。一分一秒でも無駄にはしたくないんだ」
「遊びは無駄にならない! 息抜きも立派な勉強だよ!」
「息抜きも勉強なのか」
「そうだよ。だって白雪くん、いつも苦しそうな顔してるじゃん……」
「……」
 次の言葉が出てこなかった。言い返す言葉が浮かばなかったわけではない。
赤染の表情が一変したからだ。
 今にも泣き出しそう、とまでは行かないが、そこには、母親が子供を心配しているかのような顔があった。その顔に、俺の口が開かなくなってしまった。
「だから行こう! 今日だけだから!」
 そう言うと赤染は、ばしっと、俺の右手を掴んできた。
「お願い…… します」
「……」
 俺は赤染の顔を見て、遊びたくない、とは言えなかった。
「……わかった」
「いい、の?」
「ああ」
 不思議だ。
 今までの人生、遊びに誘われたら必ず断っていたのに、今回はなぜか、受け入れてしまった。でも、俺にはその理由がわからない。断りにくかったのもあるが、それ以外にも理由があるような気がした。
「じゃあ行こう!」満面の笑みを浮かべると、赤染は俺の手を引っ張り、走り出した。「思う存分、遊ぼうね!」
「ああ。そうだな」
 このとき俺は、前を向いて走る彼女の姿が、この世界に代わりがいないような、唯一無二の存在に見えてきた。
 少しのあいだ歩くと、人が楽しそうに遊んでいる声と共に海の音が聞こえてきた。
 砂浜には、日焼けするためにサングラスして寝転んでいる人もいれば、数人でバレーボールしている人もいた。どこにもつまらなそうな顔をしている人はおらず、みんな笑顔で休みを謳歌している。
「白雪、くん」後ろから赤染の声が聞こえてきたから振り返ると、「どうかな、私の水着姿……」お披露目会みたいに、赤染は全身を俺に見せてきた。
「……似合うと思う」本音は違うが、似合っているのには変わりないからそうしておいた。
「ほんとに!」ご満悦の様子だ。さっきから妙に、周りの視線を感じるが気にしないでおくことにした。今日、俺は勉強をすると思っていたから、ここに来る途中で水着を買ったわけだが、赤染はもとから海で遊ぶ予定だったから準備万端のはずだ。それでこの水着なのだから、俺はなにも文句を言えない。
「おお! 海だ!」
 赤染はそう叫ぶと、海に飛び込んでしまった。
「気持ちいよ! 白雪くんも来れば?」
「俺は大丈夫だ」赤染みたいに飛び込んだら、あばらにヒビが、再び入ってしまう可能性がある。「砂浜でゆっくりしてるから大丈夫だ」ほんとうの理由は、水に浮かべないから、なのだが。
「もしかして白雪くん、泳げない?」泳げない人なんているの? とでも聞きたそうな顔で俺を見てきた。「それなら教えてあげるけど……」
「泳げないわけじゃない。泳がないんだ」犬かきならできるから、嘘は言っていない。
「どうして?」
「あばらが怖いんだ」
「そっかー。それならしょうがないね!」
 赤染は陸に上がって来ると、「じゃあ海で浮かぼうよ!」と言い、俺の腕を引っ張ってきた。
「遠慮しておく」「ずっと座ってたらつまらないじゃん」「そんなわけない。遊んでる姿を見るのも楽しいもんだ」「そんなの絶対に嘘!」
 いいから!
 と赤染は言い、強引に俺のことを海のなかに引きずり込んだ。
 足が海に当たり、冷やりと瞬間、全身に鳥肌が立ってしまった。引き下がろうとしても赤染の力が強すぎて下がれない。蟻地獄にでもはまってしまったかのようだ。
「た、助けてくれ!」命の危険を感じた。
とうとう足が浮いてしまった。どれだけ足を延ばそうとしても届かない。
「ほら、ぜんぜん大丈夫だよ!」
 沈まないようにと、足をどたばたさせながら俺は赤染の顔を見る。平然とした顔で赤染は浮いていた。「どう? 気持ちいい?」
「そんなわけないだろ! これのどこが気持ちいいんだよ!」
「怖かったら私の肩に捕まってもいいよ?」
「……くそ!」俺は赤染の肩を浮き輪代わりにした。
「ははは! もうちょっと奥に行こう!」無邪気な子供みたいに赤染は元気な声でそう言うと、海の奥側へと進み出してしまった。溺れるのではないか、と怯えすぎた俺は、これ以上進まないでくれ、とも頼めず、ただただ赤染の肩に捕まって、前に進み続ける赤染についてゆくことしかできなかった。

 一時間くらい浮遊したあと、海から上がり、今度は砂浜でブルーシートを敷いた。その上にスイカを一つ置き、海に向かう途中で買った園芸用の支柱でスイカ割の棒を作った。百均でできるから安上がりだ。しかも数本でまとめれば結構固いから、スイカを割るには丁度いいだろう。
「スイカ割りって棒がなきゃできないの?」赤染は、つんつんと棒を触ると不思議そうに見つめた。
「棒がなければスイカ割りにならないだろ。逆にどうやって割るんだ」
「空手チョップで割るんじゃなかった?」
「それは無理だ」
「そうだったっけ……」空手チョップでスイカが割れると、赤染は本気で思っているのだろうか。そう疑ってしまうくらいに赤染は、真面目な顔をして思い出そうとしている。
「なら空手チョップしてみたらどうだ」あまりにも腑に落ちなさそうな顔をしていたから言ってみた。「割れないから」
 「うん……わかったぁ」
 赤染は右腕を振り上げて握り拳を作ると、
「ふん!」
 と言い、力を込めてスイカに拳を当てた。
 ——びしゃり、と。
 なにかがつぶれるかのような音がした。
「……」
「あー、つぶれちゃった…… やっぱり三個、買っておいてよかったね!」
 赤染の笑い声が、右から左へ抜けてゆく。
 つぶれてしまったのだ。スイカが。それも拳だけで。あまりの非現実的な出来事に、俺はスイカの残骸から目を離せなかった。「これ、どんな手品だ?」
「手品もなにも。ただグーで殴っただけだよ!」
 グー、と言っている時点で空手チョップではない、と言い返したくなったが、それどころではなかった。
 赤染はビニール袋に入っているスイカを一つ取り出すと、「はい。これ、二個目」
「もうつぶさないでくれ」
「今度は棒で割るから大丈夫!」誇らしげに赤染は言った。
 きっと、赤染の力でスイカ割りをやってしまうと、一度の打撃だけで割れてしまう可能性がある。だから俺は、「じゃあ、俺からスイカ割りに挑戦する」、と言った。
「うん! わかった! 後ろから目隠しするよ」
 目を瞑っていると、瞼の上にタオルの圧力がかかってきた。
 後ろにいた赤染の気配がなくなり、結び終わったのかな? と思うと、強風が耳穴に吹き込んだ。
 赤染が息を吹きかけてきたのだろう。
 気が付いたころには全身に鳥肌が立ち、身震いしていた。
「ははは。すごいね、白雪くん。きゃ、とか言わないんだね」赤染が俺の横でクスクスと笑っている。「私だったら言っちゃうなぁ」
「言うわけないだろ」赤染の吐息の勢いがもう少し弱かったら、声を上げていたかもしれない。赤染の肺活力が強くて助かった。
「じゃあ一分間ぐるぐるしたあと割りに行って! よーい、始め!」
「お、おう。わかった」
 俺は赤染の合図と共にその場で回り始めた。
 二周したところで、胃からなにかが出てきそうになってしまう。
「こんなこと、一分もやるのか?」声を出しただけでも、食べ物が胃から出てきそうになる。
「うん! 多分ね。なんとなくだけど一分だと思う」
「なら五周にしてくれないか?」やっと四周目が終わった。そろそろ意識が飛んでしまう。
「うん! いいよ、五周で」
 赤染からの許可が下りると同時に、なんとか回り切ることができた。
 頭がふらふらとしていて、真っすぐに立つことすらままならない。
「頑張れ! 白雪くん!」応援団みたいに赤染は声を張り上げた。
「…………」
 一歩前に踏み出すたびに体のバランスが崩れる。目隠しをされているせいで、自分が真っすぐなのかもわからないし、どこにいるのかもわからない。俺の知るスイカ割りだと、外にいる人はスイカを割る人に向かってアドバイスする、あるいは嘘を言うはずだったが、赤染はさっきから、頑張れ、頑張れ、としか言ってくれない。それに、歩く体力すら残っていない俺は、赤染に場所を教えてくれ、と頼むことすらできない。
 ……これではスイカ割りの意味がない。
 時間の無駄だ。
 そう思い至った俺は、あばらに気をつけながらも全身を脱力し、意識を失ったかのようにその場で倒れた。
「白雪くん?!」
 赤染は大声を出すと、俺のもとに走ってきた。
「どうしたの?」赤染は、俺の視界を遮っていたタオルを解く。「もしかして気持ち悪くなった? 立ち上がれそう?」
「悪いな。体が貧弱で」目を開けると、赤染の顔が間近にあった。これから人工呼吸でも始まるかのようなポジションだ。「顔が近いぞ」
「ごめん」
「スイカ割りって、スイカのある場所を伝えないのか」
「んー、どうなんだろう。やっぱり伝えるのかな」
「伝えないと辿り着けない……」
「そんなに難しいの!」好奇心に満ちた顔を赤染は浮かべた。
「難しいに決まってる」
「じゃあ次、私の番だね」
 赤染は立ち上がると、「起き上がれる?」と手を差し出してきた。
「なんとか大丈夫そうだ」
 世界が回ってみえるせいか、気分が悪くなってくる。
 赤染の手は借りず、自力で立ち上がったあと俺は、「はい、これ」と言い、右手に持っていた棒を赤染に渡した。「目隠しをするから海の方に体を向けてくれ」
「わかった!」と言うと赤染は、訓練兵みたいに、機敏に動いた。
「……なあ」
「んん? なに?」顔だけを俺の方に向けてきた。
「……やっぱりなにもない」
「なんだ」
 そう言うと赤染は、前に向き直った。
 今更だとは思うが、どうして赤染は、スクール水着なのだろうか。それも、名前が胸に入っているタイプの。しかもスイムキャップまで被っている。
 確かに似合っている。が、ここは学校ではない。一般の人を見てみると、全員、学校とは無関係の水着を着ている。言おうか言わないか迷ったが、やっぱり辞めておいた。本人が気にしていないのなら、構わないだろう。
「目隠しされると、なんだかドキドキするね!」
「そうだな」
「うまく割れるかな?」
「赤染なら割れるだろ」
「ほんとに?!」
「ほんとだ」
 よし! と赤染は喜ぶと、「じゃあスタートラインに連れてって」と子供が親にお願いするみたいな口調で言った。
「わかった」俺は赤染の手を掴み、先導しようとした。
「ひゃ」
「どうした」なにか変なものでも踏んでしまったのだろうか。
「いや…… なにもない」いつもの元気な声音が突然、弱弱しくなってしまった。
「じゃあ行くぞ」
「う、うん……」
 そこまで力強く引っ張っているわけではないが、もしかしたら怪我している部位でも掴んでしまったのかもしれない。
「悪いな、急に手を掴んで。どこか痛めたか?」
「んん、大丈夫だよ。ちょっとビックリしただけ」赤染は嬉しそうに言った。
「よし、着いたぞ」俺は赤染の手を放した。
「ぐるぐる回ってスイカを割ればいいんだよね?」
「そう。回ってから真っすぐ歩いて、あとはスイカを割るだけだ」
「白雪くんはどれくらい回って欲しい?」
「回りたいだけ回ればいい。どれくらい回りたい」
「じゃあ……五十周くらい?」真顔で赤染は言った。
「そんなに回ったら吐くぞ」俺は二周しただけで吐きそうになってしまった。
「大丈夫だよ」
 赤染は微笑むと、まるでここが、スケート場かのように回り出した。
 ふつうなら棒を軸にして回ったり、足をちょこちょことさせながら回ったりするはずだが、赤染は右足で爪先立ちになると、左足で勢いをつけて一気に回り出した。コマみたいに回り続ける赤染は、楽しそうな声を上げている。
「あと四十周するから待ってて!」何事もないかのように言うと、赤染は再び左足で回転に勢いをつけた。赤染の体を支えている爪先がドリルみたいになっている。
「……あとどれくらいだ」回転が速すぎて、途中から数えられなくなってしまった。
「五、四、三、二、一、終わった!」
赤染はふらりともせずまっすぐに立つと、
「はあ!」
 と言い、十メートルくらい先にあるスイカに向かって走り出してしまった。
 体幹が少しもブレることなく赤染は、スイカのところまで辿り着くと、「いくよ!」と声を張り上げ、棒を頭の上に振り上げた。
「……」
 ——またスイカが悲惨な形になる。
 そう思い、俺は手で目を塞いでしまった。
 が、スイカの悲鳴が聞こえなかった。
 おかしいな……
 と思い、目を塞いでいた手を退かすと、赤染がスイカの前で倒れていた。もちろんスイカは傷跡一つもなく、無事に生存している。
「赤染」
 きっと、回り過ぎて俺みたいに酔ってしまったのだろう。
 アホなことしたな、と思いながら俺は、気を失ったかのように倒れている赤染の下に向かった。
「……赤染?」俺は赤染の目を覆っているタオルを解いた。「大丈夫か?」
「……」
 反応がなかった。
 目は閉じたままだ。
「おい、赤染。どうしたんだ?」
「……」
「おい、赤染」
 体を揺すり、起こそうとしてみるが反応はなかった。
 悪い予感がする。
 呼吸はしているが、それ以外の動きがまったくない。熱中症だろうか。
 そうなら迅速に対応しないと命に関わってくる。
 迅速に対応するためにも、ライフセーバーを呼ぼうとすると、
「は!」
 と、赤染は、悪い夢から目が覚ましたかのような声を出した。
 目は開いているが、起き上がろうとはしてこない。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
 よいしょ、と重そうに体を起こすと赤染は、「最近、多いんだよね。こういうの」と言った。
「急に倒れることがか」
「そう」俯きながら応えると、「充電が切れたみたいに、ぷつんって、倒れちゃうんだよね。いつもなら一瞬だけ、意識が飛んで終わりなんだけれど……」
 悪化した。
 と、赤染は言いたいのだろう。
 でも赤染は、言わなかった。
「病院には行ったのか?」
「まだ。今まではめまいみたいな感じだったんだけどね。初めてだよ、気を失ったのは」
 大丈夫だと自分に言い聞かすかのように、赤染は笑顔を作った。
「もしあれだったら、今からでも」
「それだけは大丈夫だよ。うん、大丈夫!」赤染はすっと立ち上がり俺の顔を見ると、「また泳ぎに行かない?」と誘ってきた。
「俺はもう限界だ。動けそうにない。泳ぎたかったら海に行っていい。休憩してるから」
「そっか…… うん、わかった! 少し遊んでくるね」
 ついさっきまで意識を失っていたはずなのに、赤染は走ると、海のなかへ飛び込んでしまった。あの元気は、いったいどこから来るのだろうか。
 赤染は元気そうに振舞っているが、ほんとうは病気を患っているのではないか、と思ってしまう。赤染が目を覚ましたとき、不安を誤魔化そうとして急に笑顔になったのが脳裏から離れない。そんなことを考えていると、あの日の帰り道、紅野に言われたことがふと蘇ってくる。
 赤染は人間ではない、と。
 人造人間だと。
 紅野は言っていた。
 ——そんなことはありえない。
 仮に人造人間だとしても作った目的が見えてこないし、それに紅野は、赤染と距離を置け、みたいなことを言っていた。つまり、紅野が言っていた、赤染は人造人間だ、と言ったのは、俺を単に驚かせるための作り話、となる。他に答えが見つからない。
 俺は空を見上げたあと、赤染に目をやった。
 赤染は楽しそうに遊んでいる。しかもなぜか、知らない人たちと打ち解けて遊んでいた。
 「——はははは」
 どうしてだろうか。
 自然に笑みがこぼれてきた。
 赤染が遊んでいる姿を見ているだけなのに、気分が高揚してしまう。
 いつもの俺なら、誰かが遊んでいるのを見てもなにも感じないし、それがもしも無理矢理に見せられているのだとしたら、勉強したい、と思うことだろう。
 けれども、それがない。
 見続けていたい、と思ってしまうのだ。
 心が癒されてゆくのを感じながら俺は、砂浜で一人座り、赤染が海で楽しそうに遊んでいる姿を眺めた。