私と別れたあと、白雪くんと紅野さんが一緒に帰っている様子を想像すると、なんだか紅野さんに嫉妬してしまう。白雪くんが紅野さんに恋心を抱いてしまったら嫌だし、悲しくなる。紅野さんは胸が大きくて男子受けしそうな体形しているから、紅野さんが白雪くんに告白でもしたらどうなるかわからない。思えば、白雪くんは、どんな女性が好みなのかまったく知らなかった。
「あ」
 ベッドに行こうとしたら、椅子に小指をぶつけてしまった。小指が当たった場所に穴が空いていないかを見る。大丈夫そうだ。前に一度、小指の爪が刺さって、椅子を傷つけてしまったことがある。
 ベッドに行こうと立ち上がったとき、ふらっと、めまいがして私は倒れてしまった。
 これは、ふらっと、ではなく、ぐあん、とでも表現すればいいのだろうか。一瞬、意識がどこかに飛んでしまった。
 最近、一日に一回、必ず私は倒れてしまう。
 学校では一度も倒れていないから安心できるけど、みんなの前で急に倒れてしまったら心配をかけてしまう。
 それだけはしないように、と健康には気遣っているけれど、改善されているような気がしない。決まった時間に寝て起きて、一日三食、栄養バランスもしっかりと考えて食べている。でも治らない。むしろ日が経つごとに悪化してゆく感じだ。
 放課後しか勉強しない私でもこれだけ辛いのだったら、学校の授業をしっかり受けている白雪くんはどれだけ疲労が溜まっているのだろうか。間違いない。トイレで寝てしまうくらい疲れているだろう。
 いつも一緒に勉強するとき、白雪くんは苦しそうな顔をしている。
 生きることが辛い、と嘆いているような顔で、白雪くんは勉強している。
 ……そうだ。
 いいこと思いついた。
 そろそろ夏休みが始まる。
 夏休みのどこかで遊びに行けばいいのだ。
 海でも山でも、気分が晴れるような場所に行けばいい。そうすれば、少しは気持ちが楽になるはずだ。いくら真面目な白雪くんだとしても、一日だけなら遊ぶに違いない。
 もぞもぞと体を動かし、ポケットに入っているスマホを私は取り出した。
『夏休み中、どこかで会わない?』
 ぼーっと寝転がりながら待っていると、
『わかった。会おう』
 と返信が来た。思わず私は、「やった」と、握りこぶしを作って喜んだ。
『じゃああそこのカフェ集合にしよう』『どこだそれ』『ひよこマークのカフェ』『了解。再来週あたりにでも』『うん!』
 そして私は、パンダのスタンプを送った。
 楽しみだ。
 白雪くんと遊べる夏休みなんて、想像したことがなかった。
 スマホをぎゅっと、お腹で包み込むように握る。そして私は、ベッドに行くことなく、倒れた場所でそのまま寝てしまった。